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血魔法

 さっきの尾の振り回しで、森の木々がなぎ倒されて周囲一帯が更地と化した。それだけのパワーを持つトカゲ……やはり、深い森というのは恐ろしい場所だな。あんな大きさの魔物がいたとは。


 これなら、他に魔物を見なかったのも納得だ。デカいというのはただ単純に強い。


 俺の師匠は女だったがデカかった。師匠に教育されて以来デカい女には恐怖心があるのだが……今は置いておこう。


 さっきの斬撃で十分な血は流した。俺は本当に不器用で、全身血まみれにならないと戦えないのだ。これが聖職者にとって禁忌とされる理由であり、『血魔法』唯一の弱点と言えるだろう。一撃必殺を食らえば即死だからな。


 なら、どうして俺がこれを習得しているかというと……それ以外がろくに習得できなかったからだ。もちろん、指先を灯す程度の火は使えるし洗濯に使う程度の水も出せる。だがまあ、血魔法以外はそんな練度だ。


 そして何より、血液量にだって限度があるんだ。それは背後にいる女の子にも同じ事が言える。一刻も早くトカゲを倒して助けないと……それを念頭に置いて戦わなきゃいけない。


「だけど……トカゲの魂を浄化しろなんてことは言われていない。ただ壊せばいいのなら、楽な話だ」


 と、そこでトカゲの口内に異常な魔力を感じた。目に見えるほどの灼熱の力が溜まっていき、轟音と共に吐き出される。


 咄嗟に『血涙の盾』を出し、ブレスを防ぐが……この熱気はマズイ、血はいくらでも硬くできるが、蒸発させられては終わりなのだ。


「だけど……なら、蒸発する前に終わらせる対処。してあるさ」


 俺は全身に血を纏わせて鎧にし、ブレスの勢いが弱まった所で『血涙の盾』をトカゲの顔に向かって放り投げ、『血脚(ちきゃく)』を駆使して長く伸びた首に張り付く。


「プリーストには、魔物の魂……魔石の在処が見えるんだよ――」


 その奥で鼓動する炎のような魂めがけて、血で模った長刀を薙ぎ払うように振った。


 すると、あまりにもあっさりとトカゲの首は飛んでいき、面白いように血が噴水のように飛び散る。


 後は、流血を止めるために血を操り傷を塞ぐ……が、その前にやることがある。


「……おい、大丈夫か……おい、目を覚ませ!」


 だが、もう女の子の体は温度を失いつつあり呼吸も小さくなっていく。


 ああ、これか……結局俺には、助けることなんて出来ないのか? いや、諦めるな。まだ何か、何かあるはずだ……!


 俺はとっさに、読みあさっていた資料の中にあった一文を思い起こした。


「血魔法の禁忌……輸血することで、従属化させる。それには生命力の強化と特殊な能力が付随される」


 従属なんて傷を癒やしてから解除すればいい。今は、これしかない――!


「血よ、彼の者に巡り聖を与えよ――」


 腕から流れる血を少女に飲ませて、全身に俺の魔力が広がるように操る……そして、十分に行き渡った頃には少女の様子はすっかり落ち着いていた。


 俺は血を操ることによって傷口を塞ぐのはもちろん、様々な体の異常を治す事ができるのだ。だがそれは、他人の体をある程度自由に操れてしまうという意味でもある。


 だから、ただ祝福を与える聖魔法とは相容れず禁忌とされてきた。だが、聖魔法の扱いが下手な俺は使えるものは何でも使う気でいた。いつか、きっと何かの役に立つと信じて……。


 その結果がこれなら、修めた甲斐があるというものだ。


「ん、んぅ……美味しい、血……」


 そして、少女は目を開き周囲を確認する。血まみれになった俺とトカゲを交互に見て、自分の身に何があったかを悟ったらしい。


「わ、私助かったの……? どうして……」

「あのトカゲなら始末しといたよ。それと、俺の血を使って君の傷も治しておいた」

「そうだったのですか。ありがとうございます……え? 血を……って、まさか!」


 その瞬間、少女は目を剥いて食いかかってきた。


「貴方の血を飲んでしまったのですか!?」

「いや、俺が飲ませたんだ。そう気に病むことは――」

「な、何てことをしてくれたんですか!?」


 だが、そう返されるとは思ってもいなかった。


 ここまで読んで頂きありがとうございます!


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