イレギュラー
「あ、言い忘れてたんだけど惣太郎君の相棒佳奈ちゃんだから仲良くしてね〜。」
去り際に言い捨てて、渥美はブルーシートに囲まれた現場へと入っていった。
惣太郎は相棒と言われたポニーテールの方を見る。瀬崎は渥美がいなくなったことで、母熊がいなくなった子熊のようにオロオロとしていた。
仕方ないな。と惣太郎は瀬崎に声をかけた。
「それじゃあ僕たちも行きますか!」
気分揚々とkeep outの文字で囲まれた中に入ろうとしたところ、腕を引っ張る力を感じる。かなり強い。
神薙が振り返ると腕にしがみついていたのは瀬崎であった。
「えーと、瀬崎さん?どうかしましたか?」
瀬崎が頭の後ろの馬の尻尾をブンブン縦にに揺らしながら言う。
「どうもこうもないですよ、何を考えてるんですか!現場に入れるのは警部補以上なんですよ!研修所で習わなかったんですか?」
神薙が頭の後ろを掻きながら答える。
「いやーごめんごめん。でもルールに縛られてちゃいけないっていうか。ほら、ね、僕らも進歩していかなきゃいけないわけじゃないか!」
瀬崎は今度は自慢の尻尾を横に振りながら言った。
「ルールじゃなくて常識です!いったいどこですか!神薙さんの通ってた研修所は苦情入れてやります!」
どうやら相当ご立腹らしい。
「いや〜、ごめんね。ていうか俺、研修所行ってないんだよね。外部試験で入ってきたの。だから去年まで中学生だったんだよ〜。」
ヘラヘラと言った神薙を瀬崎はポカンとして見ていた。神薙は女の子にこんなに見つめられるの初めてだなと考えていた。
「神薙さん外部試験だったんですか?」
「うん!」
「去年まで中学生やってて」
「うん!」
「研修も受けてない。」
「来る前にちょっと講習みたいなの受けたよ〜」
「じゃあSORTにも選ばれてない。」
「うん!それじゃあこれからよろしくね!」
「よろしくねじゃあなぁい!神薙さん。あなた、あなた「イレギュラー」なんですか?」
「うん?そう、なるのかなぁ。」
間抜けな返事に瀬崎はヨロヨロと倒れ込む。
「すいませんちょっとトイレ行ってきます。」
瀬崎は立ち上がり回れ右をした。そしてそのままトイレに向けて走り出した。
「絶対にブルーシートの中入んないでくださいね〜」
遠くから声が聞こえる。
神薙は思った。そうか瀬崎さん女の子の日キツイタイプなんだな。