八ノ巻
「……」
縁側に座り、澄んだ空を見つめるのは天。
「……遅いな……」
「何が遅いんだ?」
天のつぶやきを聞いた焔が隣に座り聞き出す。
「僕の式神だ」
空を見続けたまま続けて言う。
「乾の一件から、里に呼び出しの紙を送ったのだが、全然来る気配が無い」
「双と雪の式神より遅いなんて相当だな」
「ああ……出来れば来てほしくないが……」
「なんだって?」
「何でもない」
最後に小さな声で何かを呟いたが焔には聞こえなかった。
「二人共、何をしているんですか?」
そこへ雪が歩いて来て、天の空いているもう片方の隣に座る。
「式神を待ってるんだってさ」
「式神……まさか、天さんの……?」
「ああ」
「え……」
焔の言葉を聞いて確認を取る、その後にでた焔の台詞に雪は顔を引きつらせた。
「雪? 大丈夫か、何だか嫌そうに見えるけど」
雪の反応に焔は疑問を漏らす。
「人間」
「な、何だよ」
そこへ天が焔の方を向いて真剣な顔で警告を出した。
「悪い事は言わない。彼女がいる間は僕らには決して近づくな」
それだけを言うと再び視線を空に戻す。
「近づくなって……それに彼女って、焔の式神って一体……」
その一言だけでは分からず、焔は考えてい事を全て言い出そうとしたその時、問題の彼女が来た。
「……! 来た!」
天は立ち上がり、縁側を離れ庭に出る。
空から一つの黒点が見えそれが徐々に大きくなっていく。それは天の式神が迫って来ている証拠になっていた。
「天様~!」
何かが天の目の前に落ちてきて、砂煙が巻きあがる。
目の前にいる天は当然、縁側に座る二人も砂煙に対し顔を隠す。
そして砂煙が徐々に晴れていき、その姿が露になった。
黒の綺麗に切りそろえられた短い髪、頭には鳥の羽を模した髪飾り、
「大丈夫か⁉」
「あの子が式神?」
「ええ、彼女が……」
焔の質問に雪が答えようとしたその時。
「天様~」
少女が甘い声を出しながら天の方へ小走りで迫る。
「あの、君は一体……」
「邪魔!」
焔の台詞を遮り少女が両脇に立っている焔と雪の胸倉を掴んで後ろに投げ飛ばした。
「うわっ⁉」
「きゃ⁉」
ぶん投げられ地面に転がる二人。
「
「はぁ……」
天の胸に顔を埋める少女に対し、呼び出した当人は明らかに視線を逸らし嫌な顔をしていた。
「夕ちゃん、久しぶり!」
改めて式神の少女を鳥の間に引き込み、六人は机を囲んで話をしようとしていた。
「夕ちゃん?」
「うん、夕焼だから夕ちゃん」
言い出した双に焔は小声で聞き出す。
「彼女は一体? どう見ても式神には見えないけど……」
「前に言ってたじゃん、式神にも強さがあるって。たまに、人の形になれる個体があるらしくてさ、テンさん、それを当てたみたいで……」
「
「夕焼」
「はい、何ですか天さ……」
漆黒は夕焼が振り返ると同時に彼女の額に一枚の札を貼り付けた。
「あ……」
一言漏らすと今度は。
「あ、あ、あ、ああああぁぁぁぁ~~~~~」
夕焼の体が光り出すと情けない声を出しつつ徐々に小さくなっていく。
そして、彼女のいた場所には一匹の鴉が座っていた。
「鴉になっちゃった!」
「何をしたんだ?」
「夕焼の妖力を封印した。これで今の夕焼は普通の式神並だ」
「カー! カー!」
鴉に戻ってしまった夕焼は必至に鳴き声を上げる。
「さて、お前には少し仕事をしてもらう。頼むぞ」
「カ~」
漆黒に頼られていると思ったのか夕焼は撫で声を上げる。
ダイダラボッチの後ろに巨大化した夕焼が現れ身体がバラバラになっていく。




