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二ノ巻

 あの一件から数日後、今日は学校の登校日であり焔は普通なら一人で登校するはずだった。

「……」

 通学路を歩む彼の後ろの距離およそ十メートル、四人の妖怪に後を付けられていた。

 その距離感は律儀に守られており、決して十メートル以上になる事も無ければ以下になる事も無い。

 早歩きになれば後ろも早歩きをし、止まれば同じく止まる。そうやって距離を保っていた。

「皆、何でついて来ているの⁉」

 しびれを切らした焔は振り返り、四人に聞き出す。

 それに対して、天は淡々とその理由を語る。

「人間、お前は我々の監視対象に選ばれた。下手な行動をすれば、神隠しは免れないと思え」

「監視?」

「忘れたのか? 我々の正体を知って、尚且つ変化袋を使った。この事を他の人間達に知られる訳にはいかない」

 天の理由付けの後に雪が続けて説明する。

「本来なら、記憶を奪う、最悪神隠しが鉄則ですが、私達も人手不足なのは事実。だから、貴方を試す事にしたんです」

「人手不足?」

「雪、言い過ぎだ」

「すいません」




「はぁー……便所飯なんて、人生初めてだ……」


「やはり来たか」

 天が腕を組んで立っていた。

「……他行こ」

 焔は校内の天狗を見なかった事にして個室から出て行った。

 教室は駄目、多目的教室も不可、トイレも無意味、だとすれば残った場所は唯一つ。

 焔は校内の階段を上がり続け、屋上に出た。

「……」

 流石に警戒しているからか、首をせわしなく左右に振って周囲を確認する。

 周囲に誰もいないと確信した焔は手にしている弁当箱を開こうとした。

「急いで食べちゃうか」

「ここまで、予測が当たるとは……」

 聞きなれた声が後ろ頭上から聞こえ焔は急いで後ろを向く。

「人間は本当に単純だな」

「へへ、来たぜ」

 声の先には、四人の妖怪が屋上に備え付けられた貯水槽の上で焔を見下ろしていた。



「あ! あぁー! ああー!」

「……人間?」

 突如、焔が目を見開き、驚いた顔で四人の後ろに指を指し、その姿を見た一行全員が後ろを振り向いた。

 しかし、四人の視界には誰も映っておらず、天は呆れ声を出しながらまた監視に戻ろうとする。

「人間、一体何がした……」

 そう言いかけて、焔が消えていた。

 焔は四人全員にブラフをかけ、目を逸らした隙に逃げ出していたのだ。

「逃げた⁉」

「くっ……こんな初歩的な罠にかかるなんて……」

 双は驚き、天が悔しがって



「流石にもう追ってこないだろ……」

 焔が逃げ込んだのは体育館の倉庫、マット、色々な種類のボール、跳び箱にジャンプ台が整理されたこの場所で、適当な位置に座ると改めて弁当箱を開く。

「では、いただだきます」

 両手を合わせて、感謝の挨拶をすると焔の隣から声が聞こえた。

「いい、いただだきますだね」

 突然の声に驚いて右を向くと以前、山の中であった、謎多き子供が焔を見て微笑んでいた。

「君は⁉ それに何処から……⁉」





「皆、行くぞ!」

「ああ」

「ええ」

「ああ!」

「うん!」

 焔の指示に四人は応え、全員右手にはめたグローブを

「百鬼夜行!」

 焔は力、天は風、雪は氷、双は牙、乾は合の文字を指で書くとそれぞれの文字が五人の前に浮かび上がる。


「舞うは爆炎!」

「紅蓮ノ妖!」


「舞うは疾風!」

「漆黒ノ妖!」


「舞うは吹雪!」

「青藍ノ妖!」


「舞うは悪食!」

「山吹ノ妖!」


「舞うは混沌!」

「紫紺ノ妖!」


「我ら!」

「妖魔戦隊








「デカくなった⁉」

 驚く一行に気づいた、再誕土蜘蛛がその巨体で踏みつぶそうと片足を上げる。

「避けてー!」

 双の叫びと同時に五人は一斉に跳んで頭上に迫って来ていた足を回避した。

「やはり、あの方を呼ぶしか……」

「それしかないでしょう」


 焔を除いた四人が輪を作って会議を始めた姿に、一人の者が声を掛ける。

「えっと……皆、何を呼ぶって……?」

 一人を除いて勝手に話を進める四人に焔は聞き出す。

 だが、それを無視して四人は横一列に並んで会話を始める。

「部位は如何する?」

「私が左腕をやります」

「だったら僕は右だ」




 五人が書いた、頭、右、左、胴、足の五文字が宙へと飛んでいき、頭の文字を頂点に上から下へ胴、足と続き、胴の両側に右と左が並び、まるで人体を並びを簡略化させた姿になったかと思うと、そのまま文字が巨大化。

 文字と文字が融合していき、徐々に人の形を作っていく。

 そして、全身が黒づくめの人影が生まれた。

「降臨! ダイダラボッチ!」

 黒塗りの巨人、ダイダラボッチが現れる。

「出来た!」

「でっけー……」

 上を向いて喜ぶ山吹と紫紺に対して、紅蓮が聞き出す。

「えっ⁉ ダイダラボッチって呼び出せるのか⁉」

「あれ? もしかして知らなかった?」

「人間達の書物もあてにはならないな」

 紅蓮のリアクションに紫紺が笑いながら言って、漆黒がやれやれと呆れていると紅蓮の隣に立つ山吹が耳打ちをする。

「あのね、妖怪ってのは本やテレビで見るもの全てが正しい訳じゃないの」

「と言うと?」

「君が見てきたものは先人達のうろ覚えって事!」

 そんな話をしていると、ダイダラボッチの左手が五人の頭上に迫る。

 ダイダラボッチの左手が光ったかと思うと五人の身体が宙に浮かびだした。

「うわっ⁉ うわわわ⁉」

 四人はされるがままに全く動じず浮くが、紅蓮は浮く体験は初めてなのか宙で手足をジタバタとさせている。

 そして、五人はダイダラボッチの中に吸い込まれていった。




「うわっ⁉」

 地面に叩き付けられる紅蓮。

 ダイダラボッチの中は真っ暗な空間が広がっており、五人の足元にそれぞれ、自分の書いた文字が浮かびあがっていた。

「ここは?」

「ダイダラボッチの中だよ」

「人間、我々の動きに合わせろ」

「わ、分かった」

 漆黒に言われ、紅蓮は





「ただいま」

 民宿、白夜に帰って来た焔。そんな彼を叔母が迎える。

「おかえりなさい。今日は遅かったわね~」

「まあ……色々あって……」

 流石に怪物と戦ってきたなんて言わず、焔はとりあえずお茶を濁す。

「そうそう、今日からここでしばらく泊めて欲しいって子達が来たのよ」

「お客さん?」

「皆、焔君のお友達だって言ってたのけど見た事が無かったわね」

「え?」

 焔は当然、知り合いが家に来るなんて、そんな話は聞いていない。

「ま、まさか!」

 思い当たる節が浮かんだのか、焔は急いで靴を脱いで、叔母にお友達を自称する者達の所在を聞く。

「おばさん、何処の部屋⁉」

「確か、鳥の間だったわね」

「鳥の間だね。分かった、ありがとう」

 それだけ言って焔は、走り出す。

「走っちゃ駄目よ~」

 そんな声が聞こえたのか焔は、走るのを止め、早歩きで鳥の間へ向かった。

 早歩きで辿り着いたのは、鳥の間と書かれた札が壁に掛けられている襖の前。

 襖の前に立つと焔はそこに耳を当てて中の人の声を確認する。

「ここのお菓子美味いなー!」

「うんうん!」

 少年少女の声に煎餅を嚙み砕く音、続いて聞こえてきたのは別の少女の声。

「双さん、食べ過ぎですよ」

「いーのいーの! 天さんも食べる?」

「必要ない」

 少女の誘いを断ったのは少年の声、続けて彼はこう言った。

「それより、外に例の人間がいるみたいだが?」

「……!」

 気配を察知されたからか、聞き耳を立てていた焔は堪忍して鳥の間へと入って行った。

「四人共、どうやって此処に?」

 焔の部屋に入って第一声は、疑問だった。

「私達は貴方の周りを概ね調べたので」

「ここに住んでいるって事もね」

 雪は澄ました顔で、双は笑いながら言うと続けて乾が言う。

「お金出して、アンタと友達だって言ったら入れてくれたよ」

 そう言って笑う乾。

「そう言う訳だ、人間。暫くここで世話になる」

 止めに天の挨拶を受け焔は。

「ええええええぇぇぇー!」

 叫んだ。

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