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十二ノ巻

「いやー、ありがとね。わざわざ買い物に付き合ってもらって」

「いえ、私も目的の物が買えたのでいいですよ」

見てくれは普通の人間に見える二人、だがその正体は片や雪女、もう片方は二口女。

今二人は、両手に手提げカバンを下げて昼下がりの歩道を並行して歩いていた。

双のカバンの中には食材が、雪の方には筆記用具が入っている。

道を歩んでいると、双は緑のお洒落な看板を吊り下げた喫茶店を見つけた。

それを見た双は雪の腕を掴んで店に指を指して言う。

「ねぇ! あそこに寄ってかない?」

「あれは?」

雪はその里では見かけた事の無い店舗に怪しむ。

だが、双はそれを気にせず語る。

「喫茶店! 色々あるからね! 行こ!」

腕を掴んで振る双に雪は折れたのか呆れつつも承諾した。

「……少しだけですよ」

「やった!」

その言葉を聞けた双は嬉しくなって彼女を引っ張って喫茶店へと入って行った。


「ご注文はお決まりでしょうか?」

「うん」


「サンベリーミルクセーキバナナハーフチョコシロップサイズグランド」

淡々と呪文の様に注文を唱える双に雪は、言葉の内容そしてそれを流暢に唱えた双の姿に固まってしまう。

「そちらのお客様は?」

店員に言われ、なにも考えていなかった雪は思わず叫んだ。

「えっ⁉ 冷たい緑茶を!」

「申し訳ございません。当店、緑茶は扱っておりません」

申し訳なく言う店員に対して彼女も申し訳なくなってしまう。

「あっ……すいません」

互いに声を発せず気まずい空気が流れるが雪が隣に立つ双に耳打ちをする。

「さっき何て頼んだんですか?」

「んー? サンベリーミルクセーキバナナハーフチョコシロップサイズグランド」

「え?」

「だから、サンベリーミ……」

「それはもういいです」

「あっそうだ、サイズグランドっていうのは大きさの事だよ。それで、グランドって言うのは一番大きいって意味だよ」

「でしたら……」

正解を見つけたのか決意を込めた顔で答えた。

「彼女と同じ物を大きさは真ん中で」

「せっちゃんせっちゃん」

「何ですか?」

「ここ、大きさが四段階だから真ん中は無いよ」

双のその指摘に失敗したと言わんばかりに雪はカウンターに両肘をついて頭を抱えつつ言った。

「……グランドから二段下でお願いします」

「はい、サンベリーミルクセーキバナナハーフチョコシロップのグランドとライトの二点ですね。以上でよろしいでしょうか?」

「はい」

「では、隣にズレて少々お待ちください」

二人は言われた通り受け取り口の前に立つ。その時、雪は悔し気に小さく一言。

「何なのかしらこの敗北感……」




「来た来た!」

「これは……!」




「さっきの呪文は一体……?」

「呪文?」

「いえ、こちらの話です」

独り言を聞かれたが、雪は今時についてこれなかった事を隠す様に話を切る。

「よくあんなに流暢に言葉が出ましたね……」

「まあ、何回かこういう場所に来てるし」

「それにしても……」

言いかけて雪は周辺を見渡す。

店内は主に木製の木やテーブルが設置され、テーブルの中心には数個のハッカ飴、天井にはシーリングファンが淡々と周り。

カウンターテーブルでパソコンを打つ者、二人組の女性が談笑し、静かな空間が出来上がっていた。

「喫茶店ってこんな感じでしたっけ?」

「やっぱ、時代が変わったからじゃないかな? 最後に来たのっていつだっけ?」

「つい最近ですよ。確か、昭和の辺りだったと思います」

「時代だねぇ」

二人は人外、彼女らの少し前は人間達に取っては昔の事に分類されるのだ。

そんな二人の元へ一人が後ろから迫る。

「ねえ、君たち!」

スーツ姿の男性に声を掛けられた。








「天


「ここだ」

天に言われ焔と乾はその店の全貌を見つめる。

そして焔はそこに書かれている店名を音読した。

「メイド喫茶、べり~はうす?」

「ああ」

「へえ~、天ってこういうのに興味があるのか~」

「違う! ここに悪鬼が潜んでいる可能性があるって言っているんだ」

乾がニヤつきながら行って来た言葉に対して天は強く反論する。

「悪鬼が? 何でここに?」

「それは分からない。だが、気配がここから感じるのは確実だ」

焔と天の会話をしている所へ一人の女性がこちらへ歩いてくる。

「あら、そちら方々。どうですか?」

「おお!」

「……!」

その人は、黒のミニスカート、白のエプロン、フリルのカチューシャが特徴のありふれたメイド服を着こなしており、それを見た乾は歓声、天はぎょっと目を見開く。

だが、天は直ぐに真顔に戻り、喋る。

「ああ入るさ」

そう言って天は焔の後ろに移動した。

「この男がな」

「なっ……⁉」

そして背中を押して、焔を突き出した。それに驚いた焔は、天に後ろを向きつつ聞き出す。

「天、どういう事なんだ⁉」

「生憎僕はこんな所に興味は無い。人間は人間らしくここに入ればいい」

「そんな事言われても、俺ここ初めてだぞ!」

「人間はこういう場所が好きじゃないのか?」

「全員がそうだとは限らない!」

「あ、あの~」

二人の言い争いに女性が困惑していると店のドアが開いて、一人の少女が出てきた。

「あれ? テンさん達じゃん!」

開かれたドアからは聞きなれた声が聞こえてくる。

その声に気づいた三人がそこを見ると同時に驚きで叫んだ。

「双⁉」

「お知り合いですか?」

「ああ先輩。三人共私の友人です」

「あらそうなの!」

「だから先輩は入り口で待ってて下さい。全員入れて見せますから」

「言うわね。それじゃ、そうさせてもらおうかしら」

双の強気な台詞に先輩メイドは不敵に笑い店へ戻っていった。

「さてと……」

双は先輩メイドが戻ったのを確認すると改めて一行の方に振り返ると双よりも先に天が口を開いた。

「双! 一体ここで何をしている!」

「何って……バイト?」

「バイト⁉」

天が驚いている横で焔が聞く。

「え……? それ、初めて聞くけど……何時から?」

「んー二日前からかな」


「焔君に乾は来てくれるよね?」

「勿論! 双がいるなら尚更興味が出てきた!」

「俺はそのつもりだったからな。いいよ」

「だって。ねーテンさん?」

乗り気な乾と焔を味方につけて嬉しそうな双は

「あっそうだ。せっちゃんもいるよ」

「……!」

雪がいる。その台詞に僅かに反応する天を三人は決して見逃さなかった。



双は店の方へ叫びながら入って行く。

「は~い。ご主人様三名、入りまーす!」

「じゃ、天君行こうか」

「だな」

「お、おい!」

乾と焔に両脇を掴まれ天は、ひいて三人は生涯初のメイド喫茶へと入って行った。




「お帰りなさいませご主人様!」

店内に入った二人と連れてこられた一人の前に現れたのは、メイド服を着た双と彼女の先輩メイドが頭を下げて三人を迎える。

「へへ、ただいま」

「ど、どうも……」

「……」

乾は既にこの空気に順応したのかノリの良い返しをするのに対し、焔は初めてだからか軽く会釈をしていた一方で、天は不機嫌そうな顔をしていた。

「すいません先輩。せっちゃん、呼んでもらえますか?」

「んー……せっちゃんもご主人様と知り合い?」

「はいそうです。 










「……どうしてここにいるんですか……」

三人から顔を背けて


「雪も雪だ。そんな……」

天は言いかけて視線をスカートへ落とす。

膝が見えるほどの露出度を確かめると、再び雪の顔に目を向ける。

「恥ずかしくないのか?」

「言わないで下さい……」



「ほら、天も何か言って」

「五月蠅いな」

「……止めて下さい」

乾の煽りでより一層、赤面する雪。

「乾も煽るなって。それでここに来たのは、二人に悪鬼の事を聞きたいからなんだけど」

「悪鬼?」

「ああ、天曰くこの辺りに隠れているらしいんだけど……」

「あー……この辺、人が多いからね」


「それもあるが、奴は恐らく気配を消すのが得意な可能性がある」


「けれど、大体の場所は分かった。今の僕らに出来るのは相手をあぶりだす事だけだ」


「三人共せっかく来たんだからさ、何か注文していってよ!」

「注文? 必要無い」

「まあまあ、ここまで来て何も頼まないのは失礼だろ」


「ほら、焔様もこう言ってるし、テン様もどうですか?」

双の普段の君付け、さん付けが消えた事に天は聞き出す。

「様?」

「だって私、今メイドだし」

「そこまで意識するのか……」



「は~い、それじゃあご主人様の為に、せつがとびっきりの魔法をかけちゃいますね~」

突然、雪からいつもの澄ました声と打って変わって甘く、きゃぴきゃぴとした声が発せられ三人は驚きで目を見開く。

静寂。

騒がしいはずの店内なのに五人の中では静寂が訪れていた。

「……」

「……あー」

「……うーん」

「……はは」

反応に困った焔はとりあえず口を開いていて、天は頭を抱え、言わせた双も僅かに後悔したのか苦笑い。

言った当人は生気の消えた瞳のまま半笑いで笑っていた。

しかし、そんな状況でも平常運行で動くものが一人。

「いいねいいね! 似合ってるよ! 可愛い可愛い!」

乾一人の台詞に雪はお盆を縦に持ち換え、縁の部分を乾の頭に叩き付けた。

「ぎゃっ⁉」

「ん~~~~~!!」

色白の手に対して顔は真紅な雪。

今度は乾の隣に座る焔にターゲットを向けると今度は彼の頭にお盆の平らな面で頭を叩く。

「痛っ!?」

「んん~~~~~!!」

そして最後は、お盆を離して天の前に立つと両手で頭を何度もはたく。

「お、おい!」

「んんん~~~~~!!」




「……」

「ほんっとゴメン!」

閉店時間、あれ以降死んだ顔になっていた事で厨房業務をこなしていた雪。双も負い目を感じたからこそ両手を顔の前で合わせて必死に謝っていた。



『耳』

その文字がドアに貼り付くと、そこへ染み込んでいく様に消えた。

それを確認した二人はドアに耳を当てる。

そこからは扉越しとは思えないほどくっきりとした声が聞こえてきた。

「あの二人で間違いないですか?」

「ああ、次は……分かるよな?」

「……はい」

「よし」

男二人の声が耳に入り双は呟く。

「この声って……」

「しっ」

雪はそれを窘め会話の続きを聞き出す。

「人間を操るのは楽だなあ!」

「……」

「ここで、資金を集めつつ、兵も作ればいいだけだからな!」

片方の声に驚き二人は目を合わせると、その場を離れた。

「せっちゃんあれって……」

「はい、間違いありません。悪鬼です」

「まさかこんなところにいたなんて……」

「気配を察知できなかったのは、大きく行動をとっていなかったからでしょう」

「でも、資金は分かるよ、稼いだお金を使えばいいし。けれど、兵っていうのは……」

「それに関しては私に思い当たる節があります」

「節?」

「双さんは皆さんに連絡を、私はそれを取ってきます」

「分かった!」



「落ち込んでたわけじゃなかったの⁉」

「はい?」



場所は変わり路地裏、

「それで、どうしてあの怪物と手を組んでいたのですか?」

「ち、違う! 仕方が無かったんだ」

「仕方がない?」


「ああ、皆が人質に取られていて……



「アイツが探している五人組の二人だって

「オーナー……」

「本当にすまない! こんな危険に晒す





「皆ー! あいつ等を倒してくれたらあのオムライスをたらふく食べさせてあげるよー!」

「何⁉」


「ウオオオオオオオオオオオオ!」

大勢の男性が三人を捕まえようと襲いかかる!

三人はそれを


「クソッ! 人が多すぎてアイツに近付けない!」






「来たか第二形態!」

「ダイダラボッチ様を呼ぶぞ!」

「オッケー!」

男三人が字を描こうとしたその時、山吹が一つの案を出す。

「待って! 今回はポン吉も呼んでいいかな?」

「私も、春風を呼んでいいですか?」

「分かった! こっちは任せろ!」

紅蓮の快諾に二人は早速叫ぶ。

「ポン吉! 出番だよ!」

「春風!」

二人はそれぞれ鈴を取り出し振ると二体の式神が飛んできた。

「全く、いきなり呼ぶなんて狸使いが荒いポン」

「コーン」

それぞれ

一方、三人は既に全ての字を描き終えており巨大化した**の向かいにはダイダラボッチが佇んでいた。

「式神武装!」

二人は叫んで、右手で装の字を描く。

すると、ポン吉と春風が大きくなりながら上へと飛んでいき、五人もまたダイダラボッチの中へと吸い込まれていった。

ダイダラボッチの周りには春風とポン吉が宙を漂っていた所で二体に異変が起きる。

何と二体の身体がバラバラになり始めた。

ポン吉は頭、胴体、尻尾の三パーツ、春風も三パーツに分かれてダイダラボッチの体に取り付けられていく。

ポン吉の頭は左肩、胴体は左腰、尻尾は左腕に春風の頭は右肩、胴体は右腰、尻尾は右腕に取り付けられ、それを確認した五人は叫んだ。

「ダイダラボッチ狸狐(りこ)! 召喚!」







「結局辞めちゃったんだ」

「ええ、約束の一週間は働きましたし」

「私は、もう少しいても良かったかな」



「店、繁盛していくといいな」

「うん。捕まっていた人たちも帰って来たし、オーナーも心機一転で頑張るって言ってたから、きっと大丈夫だよ!」

窓から外を眺めつつ短い付き合いながらも過ごした人の事を思う焔と双だった。




「大嶽丸様のお身体は?」

「未だに眠っている。全く、いくら何でも遅すぎるぞ……!」

日蝕達の拠点では、玉座に深く腰掛け座る酒吞童子の前に立ち玉藻の前が未だに眠りについている、三人目の話をしており、その答えを聞いた酒吞童子は憤りを僅かに見せていた。

「所で、童子様は西洋の悪鬼をご存知でしょうか?」

「西洋の悪鬼? 話は聞いた事があるが実物を見た事は無いな」

「どうやらわたくし達が眠っている間に先に目覚めた者がいるらしく現在、日本に向けて進行中との事ですわ」

「全く、奴らの力なぞ借りなくとも人間を一掃するのは容易い事だが」

「いえ、これはわたくしの憶測なのですが……」

玉藻の前はそこまで言って酒吞童子の方へ歩きながら自身の推理を披露し始めた。

「奴らは我々に協力するつもりは無いでしょう。何故なら、欲しているのは世界でも地位でも無く力。二本を手中にする我々とは方向性が違います」

「そうか。だが、何故お前がそれを知っている?」

既に酒吞童子の隣に立った玉藻の前に対して質問を聞く。

すると、玉藻の前は酒吞童子の横顔に一気に顔を寄せて唇を耳元に近付けて囁いた。

「わたくし、傾国の美女ですから」

玉藻の前はそれだけ言うと、耳元から離れて口元を隠して笑う。

それに対し、酒吞童子は睨みながらまたしても聞く。

「どこぞの誰かを誑かして得た情報なぞ当てになるのか?」

「さぁ? もし間違っていたら、その人が無能だった。それだけですわ」

「無責任な奴だな」

玉藻の前の態度に呆れつつ酒吞童子はこの会話での重要な事を思い返す。

「西洋の悪鬼か……まあ頭の隅にでも入れておくか」

酒吞童子は今後の行動を考えるのだった。

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