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一ノ巻

「……目覚めたか……」

 深夜の山中、一人の老人が岩に座り込み呟く。

「……最後の一人は見つからずか……」

 老人は右手に持った黒色の手袋を見つめる。それには手の平には妖の文字が書かれ、甲には赤い宝玉が一つ埋め込まれている。

 更に、左手には同じ物が四組分が握られていた。

「明日の昼、四人を集めるか」

 そう言って立ち上がると、背中から大きな翼が生え、宵闇の中へと消えていった。




 翌日の山中、四人の若者が里の中を歩んでいる。

 一人は黒く長いストレートヘアに色白肌で凛とした顔をし、白装束を纏っている少女。

 一人は黒の着物に下駄を履き、知的な顔には眼鏡が掛けられ、背中には鴉の様に黒く大きな羽が生えている少年。

 一人は山吹色の着物に、白装束の彼女とは打って変わって、可愛らしい顔でポニーテールの少女。両手にはりんご飴が握られており、その内の一つを後頭部に近付けると、そこから牙が現れ刺さっている割り箸ごと捕食してしまった。

 一人は虎柄甚平に黒髪に緑と赤のメッシュが生え、肩には子犬を乗せている少年。

 里の人々はそんな一風変わった風貌の彼らを見ても特に反応を見せない。何故なら、この里には他にも首が伸びる者、物や人に化けられる狸、ただひたすらに小豆を洗う者等、少なくとも人間ではない者達が住民となっているからだ。

 黙って歩を進める四人はついに里で最も大きい屋敷に辿り着き、その中へ入って行く。

大きな和室に入り、奥へと進んで行く。最深部に佇む、すだれごしに立つ人影の前に立つと、四人は片膝をついて顔を下に向けた。

「来たか……」

「はっ!四名全員集まりました!」

「今日、お前達に集まってもらったのは他でもない」

「日蝕……でしょうか?」

白装束の少女が頭を上げて聞くと、変わらぬ抑揚で返す。

「そうだ。予定より早くに奴らが復活した」


「その為、今ここで妖変化袋を授ける!」

「おお! やった!」

甚平の少年が顔を上げて喜びを露にすると隣で跪いている羽持つ少年が窘める。

「乾!」


「しかし、よろしいですか?」

「何?」

「現在、ここにいるのは四名。変化袋は五つあったはず」

「そのことだが……」

すだれ越しの人影は間を置いて話す。

「五人目が見つからなくてな、お前達に見つけて欲しいと思っている」

「え?」

ポニーテールの少女が素っ頓狂な声を出す。

「よろしいのでしょうか?」

「ああ、天。それだけ、お前を信頼していると言う事だ」

「これより二つの指令を出す!一つ!日蝕を討ち滅ぼせ!二つ!五人目の隊員を発見せよ!」

「はっ!」

四人は頭を下げた。

「さぁ行け!」

四人はそう言われ、立ち上がると叫ぶ。

「行ってまいります!」

それを言うと背を向けて、部屋から出ようとした時、人物が呼び止めた。

「そうだ、一つ注意すべき事がある」

「何でしょうか?」

四人は声の方を振り返り、少女は注意を聞こうとする。

「昨日から、この山の付近で多くの人間がいる。他の者の話だと林間学校というもので明日の午後には、帰るらしいが……」

「我々の正体がバレないようにしろと?」

「その通り、話は以上だ。行け!」

「はっ!」

屋敷の外に出ると、門の前で


こうして、四人は別々の方向へと走り出した。





「では、質問のある人は?」

 男性教師は自身の前にいる三十人の生徒に声を掛ける。しかし、質問が無いからか反応は無い。

「無いようだな。では、足元に気を付けて、班長の指示に従って山頂を目指そう!」

 教師は、皆にそう言うと班同士で集まるように指示を出す。

 生徒たちは指示通りに予め決めておいた班で集まった。

「では、順番通りに出発していくぞー」

 教師の指示に反論も無く、班の番号順に登り始める。

 そして、最後の班。六班の声が掛かり、少年が教員の前に立つ。

「最後に……六班!班長、荊木焔!班員は?」

「全員います!」

「よし、行って来い!」

 こうして、班長、焔を先頭に登山を始めた。

 山を登り始めて数分後、焔の後ろを歩く生徒が呟く。

「しっかし、二年は林間学校に来て登山かよー」

「確か一年生は、レクリエーションだって」

「二日目の感想文とかどうすりゃいいんだよ……山を登って楽しかったです。とでも書けってか?」

 班員達はこの企画には不服だったのか各々、愚痴をこぼす。


「まぁ皆、山も良いんじゃないか?」

 焔はチラリと後ろを見つつ班員の様子を伺う。

「気分が悪くなったら言……」

 前を向いてそう言いかけた時、足元を見た。

「どうした?」

「ピー!ピー!」

 焔の視線の先には雛鳥が助けを求める様に鳴き声を上げており、それに近づく。

「まだ、子供だな……」

 そう言いながら、そっと手の上に乗せると辺りの木々を見上げて巣を探した。

「少し待ってくれ、直ぐに終わらせる」

 木にかかっている巣らしきものを見つけると、班員の五人に一言言ってそこに行く。

 木の前に立つと雛を左手に片手と両足で器用に登っていった。

 巣の傍に辿り着き中を覗き込むと、三匹の雛が焔に向かって鳴きだす。それに対して彼は、手にしている子と巣の子を交互に見始める。

「合ってるっぽいな」

 呟いて、雛を巣の中へ下ろす。雛達は家族が帰って来たからか喜びの声を上げる。焔はその光景を見て微笑むと木から飛び降りて着地した。




「班長は感想文に何書くの?」

「やっぱり、さっきの事とかかな?巣を見つけて雛もいたって」

「他には?」

「とにかく書くしかないな。空気が澄んでいる、土や木のにおいを感じたとか」








三十分後、六人は山頂についたが先行していた教員達が慌ただしく動いており、生徒達はそれをザワザワと騒然していた。焔は、通りがかりの教員に声を掛ける。

「すいません。何かあったんですか?」

「君は?」

「二年一組の荊木です。ただ事には見えないのですが……」

「一組か……」

教員は顎に手を当てて少し考えると、口を開いた。

「君のクラスで遭難者が出たんだ。名前は確か……」

「そうなんですか⁉」

「ああ、今捜索をしている所だけど……」

「俺も手伝います!」

「いや、ここは我々に任せて待っていて欲しい」

「……そうですか」

待てと言われ俯く焔を横を通り

「よお、困っているみたいだな」

「先生!」




「先生……」

「細川先生……ありがとうございます!」

「それと、これもあげよう」

細川はトランシーバーの上に赤色のビニールテープと小さなハサミを置いた。

「これは?」

「テープとハサミだ。自分の歩いた所には必ず貼るんだぞ」


「よし!渡したからにはちゃんと結果を出すんだぞ」



「何処にいるんだ?」












「細川先生」

「ん~」

「何故、この様な事を?」

「いや~、生徒のやりたい事を頭ごなしに反対するのは私の教育方針に合わないというか……」


「」

「……アイツ、結構やりますよ」

「はぁ……」

「荊木焔、お人好しでお節介焼き、問題が起きたら率先して動くタイプ」


「俺も、時々助けてもらってますよ」

「それ、教師としてどうかと……」

「あっはははは! 言えてますね!」

同僚の呆れ顔に対して細川は笑ってごまかしていた。








ふと、焔の前に着物を着た小さな人影が見えてくる。

「人?」

山中に子供らしき後姿、どう考えてもおかしいと思った焔は、声を掛ける。

「君、ここで何をしているの? 迷子?」

「やっぱりここに来たね」

子供は振り返る。

黒色の着物に黒の短髪、中性的な顔つきをした子供だった。

「これから君の行く先に、危険な道が現れる」

「道?」

「君はそこを敢えて進んでもいいし、避けて通ってもいい」

「話を……」

焔の台詞を遮り、ひたすらに進めていく。

「避ければ、安全安心の日常を送る事が出来る」

「え?」

焔が困惑していると今度は左側から声が聞こえる。

「だけど進めば、終わるまで安全安心の保証は絶対に無い」

「な⁉」

さっきまで目の前いたはずの子供がそこに立っていた。

「ボクの勘って結構当たるんだよね~」


「君はボクの話を信じてもいいし、疑ってもいい。乗ってもいいし、乗らなくてもいい」

子供は一方的に話す。

「確かに伝えたからね! 後は君が選ぶんだよ~!」

子供は手を振りながら笑顔で去って行った。



 一行の前に牛の様に長い角が上に伸び、般若の殺意を込めた顔を持ち、全長5メートルはあるであろう蜘蛛の体をした怪物が現れた。

その後ろには、三十程の人魂が列を組んでいる。

怪物が顎を動かすと、人魂は徐々に大きくなっていき人の形を作っていく。



「あれは……牛鬼か!」

「妖霊もそれなりにいるねー」

「皆さん、ここはこれで」

「オッケー!」

 四人は変化袋を嵌めると甲の赤い宝玉を押し込む。

 すると、指先がボンヤリと光りだす。

「百鬼夜行!」

 そう叫ぶと右腕、右手の人差し指、中指を強く伸ばし、二本の指で眼前にそれぞれ文字を書く。

 天は風、雪は氷、双は牙、乾は鵺の字を描いた。

「はっ!」

 四人が左手を添えると。すると、四人の周囲に大量の札が現れ、それぞれの体に貼り付くと全身が燃え上がりその姿を変えた。

 それぞれ、青の、黒の、黄の、紫の戦士が並ぶ。

「絶氷雪花! 青藍ノ妖!」

「疾風迅雷! 漆黒ノ妖!」

「悪食大食! 山吹ノ妖!」

「混沌大名! 紫紺ノ妖!」

 それぞれ名乗りを上げると再び叫んだ。

「日蝕よ……再び散れ!」







「何をする気だ⁉」

一行の困惑を無視して手袋を嵌める。

「力って指で書いて!」

「双⁉」

突然、双が指示を出した事で更に驚く三人。それに対して焔は、

「分かった!」

 と返すと手の甲の宝玉を押し込み、左手を腰に、右手を軽く前に出す。

「百鬼夜行!」

 叫んで右手の人差し指、中指を強く伸ばし、二本の指で力の文字を画く。


 そう言って彼らと同じように手を添えると、同様に札が現れ体に貼り付き全身が燃え上がると姿を変える。

 両手の手袋はそのままに燃える赤と黒のボディ、左胸には力の文字が大きく書かれ右胸には鬼の顔のシルエットが描かれ力強さを感じさせる。頭部はフルフェイスヘルメットの頭に、側頭部には五芒星が描かれていた。

「……これは……?」

 自身の姿を見て焔は思わず疑問を漏らす。


「他に何かは……!」

全身を探る焔。それを見た双は叫ぶ。

「剣! 剣!」

左腰に指を指し、装備の場所を教える。

「これか!」

それに気づき、腰に携えてある全長六十センチ程の筆を見つけた。

掛紐の部分には刀の柄が付いておりそこを握り両手で構える。

『筆剣!』

持ち主の意志に答える様に筆から音声が流れる。

「筆? 剣?」

「両方!」

焔の疑問に双が答えると



「何か出ろ!」

剣先を突き付け叫ぶ。

吹雪は出ない、刃も出ない。

代わりに出たのは沈黙。

「……」

「……」

だが無意味だった。




「えっと……どうやったら戻れるんだ?」

「それを外せ」

「分かった」

天狗に言われ手袋を外す、すると彼の体が一瞬光ると元の姿に戻った。


「今すぐ、それをこっちに渡せ。そしてここであった事、自分のした事は全て忘れろ」

「……」










 四人は膝をつき、頭を上げた状態で叫んだ。

「雪女、越後ノ(エチゴノセツ)

「天狗、鞍馬ノ(クラマノソラ)

「二口女、下総ノ(シモウサノソウ)

「鵺、平家ノ(ヘイケノイヌイ)

「只今戻りました!」

 それぞれ名乗りをあげ、全員が帰投を叫ぶと、顔を下に向けた。



「……申し訳ございません!術袋を奪われました!」

「何だと⁉相手は分かっているのか⁉」

「はい、その人物はこちらです」

 天は立ち上がり、ポケットから手帳を出し焔の似顔絵を見せる。

「この男は……人間か?」

「……はい、髪は黒、見ての通りボサついています」



「他に特徴は?」

「身長は恐らく百六十九。性格は生粋のお人好しだと思われます」

「ふーむ……」

「大天狗様……」


「あの、大天狗様」

「双?」

「どうして人間でも、変化袋が使えるんですか?」

「ああ、これは古文書にも書いてあったが、ごく稀に変化袋を制御出来る人間がいるらしい。この人間


「……ではまずお前達の意見を聞こう」

「私は反対です、彼は唯の人間。我々の力は制御できないでしょう」

「俺も同じです、里の者ですらない者に託すなどと……」

「私は……賛成で、戦力が増えれば誰でも良いと思います」

「俺は……どうっすかなー……」


「賛成二、反対二、保留一か」

「賛成が二?」


「私は、今は別に構わない」

「そんな⁉」

 大天狗の思わぬ考えに雪は立ち上がり、天と同時に声を上げる。

「何故、この人間を⁉」

「落ち着け、あくまで今は。だ」

「……と言いますと?」

 双が顔を上げて聞くと、

「……皆、位置に戻り顔を上げよ」

 そう言われ、天も雪も元の位置に戻ると叫んだ。

「お前達に新たな指令を出す!焔と呼ばれている人間の監視し、その人間性を調べよ!今後の処遇はそれで決める!」

「はっ!」

 大天狗の指示に再び四人は頭を下げた。




 五人が牛鬼を討った場所から少し離れた場所、般若の面が青紫の炎を出しながら人気の無い場所を彷徨っていた。

 フラフラと飛んでいた面は路地裏に大量に置かれているゴミの山の上に降りる。

 バギッ!ボギッ!ジュジュジュルル……

 生ゴミを貪り、腐敗した汁を啜りその不快な音が辺りに響いた。

 音が小さくなっていくのに反比例して、面から角が生え、蜘蛛の胴体が生えていく。

「ンギョアアアアアア‼」

 咆哮が闇に染まった都市に響いた。

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