ソフィア・ローズの憂鬱
ある日、いつものようにグレンとレイが通学路を歩いていると、
「お、ソフィアだ。おーい!」
グレンがソフィアを見つけ、手を振って気づかせる。
ソフィアは2人に気づいたようだが何やらためらっている様子だ。
「ん?どうかしたのかな?」
「あ、信号変わった。レイ、こっちから行ってやろうぜ」
「ああ、うん……」
レイは首をかしげながらも横断歩道を渡る。
「よ、ソフィア。おはよ!」
「おはようございますお二方。……ちょっとお尋ねしたいのだけれどこの辺りでご老人を見かけなかったかしら?」
「老人?男、女?」
「男性ね、きっちりとした格好の……いかにも執事みたいな服を着ているの」
「見てないけど……、知り合い?」
「ええ、ローズ家で長年執事を務めているの」
「いかにもって、本物じゃねえかよ……。それで、その執事がどうかしたのかよ?」
「訳あってこの先1週間程その執事に行動を監視されるの、センったら学園にまでついてくる気なの。だからまこうとしたのだけれど、流石に諦めてくれたようね。さっ、行きましょう」
3人は歩き始める。
「それにしてもなんで監視だなんて、なんかやらかしたのかよ?」
「まさか、お父様とお母様が定期的に別荘に住んでいる私の様子を確かめに来る決まりなの。最近は忙しそうだから代わりにセンをよこしたのよ」
「別荘に住んでんのかよ、やっぱ俺達とは住む世界が違うな……」
「ちゃかさないで頂戴」
「ていうか両親とは離れて暮らしているんだ……、でもソフィアの様子だったらその別荘の執事さんだったりが報告するもんじゃないの?」
「あら、別荘には私1人で住んでいるのよ」
「ええ?よくそんなこと許されたね」
「許していないから定期的に様子を見に来るのよ」
「そりゃそうだろうな……」
学園の近くまでくると、ソフィアが突然2人の陰に隠れるように動く。
「ああ?どうかしたのか?」
「あ、グレン。あれ」
レイが指さす方を見ると、校門の前で銀色に髪を染めた、いかにも執事な感じの老人がいた。
「ああ、アレが……。いやでもお前、それ隠れても気づかれるだろ……」
「先回りしてたなんてなんて卑怯な……、見つかっても構わないので強行突破いたしましょう」
ソフィアはフレンとレイの間に挟まるように位置取り、そのまま3人は足早に老人のそばを通り抜けようとする。
「お待ちください、お嬢様」
ピタリと、6つの足は止まる。
「セン、ここは学園ですわよ?どうして執事のあなたがここまで来ているのかしら?」
口調を完全に変え、そうセンと呼ばれた執事に尋ねる。
「誠にありがたいことに学園様側の許可をいただけたのですよ」
「なっ!? どうしてそんなこと許したのよ、学園はっ!!」
「そちらの御二方はお嬢様の御学友でいらっしゃいますね?」
「え、ああ……」
「お初にお目にかかります、私、ローズ家の執事を務めさせていただいております、セン・チャンと申します」
「はあどうも……」
「セバスチャンじゃねえのか……」
そんなずれたことを呟きながら、頭を下げたセンにつられて会釈をする。
「セン、話はまだ終わっていませんわ。どうして学園にまであなたが来るのかしら、説明をしなさい」
「旦那様と奥様に学園でのお嬢様の御様子を見てきて欲しいと言われましたので」
「全く、お父様とお母様だけなら学園にまで来なかったというのに……」
「その場合でも私目を学園に派遣なさるかと」
「でしょうね……、でも文句を言える相手がいないのが嫌なのよ」
「旦那様と奥様はここの所事業の事でお忙しい御様子ですからね」
「落ち着いたら訪ねてくるんじゃだめだったんですか?」
「決まり事ですので」
その後、センは教室の中にまでもついてきた。
ブラウンがやって来た時にセンが事情を説明し、それに納得したのかブラウンは特に何を言うでもなく授業を始めた。
そして放課後、グレンとソフィア、そしてやはりついてきたセンの3人は喫茶店にいた。
「……なんでこんなことに」
「なんでって、お誘いしたら行くとおっしゃったのはグレンですわよ?」
「そうだけどさ、……レイのやつこういうのは察し良いんだよな」
「出来ればもっとお誘いしたいところでしたけど」
「はあ、せっかくだから執事さんと2人でお茶すりゃいいじゃねえかよ」
「そんなの実家にいる時に飽きる程させられましたわ。それにここに来たのはもう一つ目的がありますのよ」
「へえ」
「メニューは、こちらのハーブティーがおすすめですわ。お茶請けはあなたが選んでください」
「そう……、執事さんはなんか食べたいものとかあるの?」
「いえ、グレン様のお好きなもの選びください。私目はお茶だけで構いませんので」
「そうはいかねえだろ、じゃこのケーキ3つで」
「ありがとうございますグレン様、お嬢様、お優しい御友人をお持ちになりましたね」
「大げさだな」
注文してからしばらくしてハーブティーとケーキが運ばれてきた。
「それではいただきます」
「……いただきます」
グレンはカップの中身を口に運ぶ。
「ん~、やはり最近話題に上がりだしているだけありますわね。いかがです?」
「はい、とてもおいしゅうございます」
「グレンは?」
「俺に感想を求めるなよ……、良いか悪いかで言ったら良いとは思うが」
「そうですか、ふむ……」
ソフィアはメモを取り始める。
「なんなんだよ一体……」
「私、魔法を使って事業ができないかと考えていますの。最近になってようやく思いついたことですけど」
「へえ、そりゃいいんじゃない?」
「ブラウン先生は、入学式の時に魔法をどう使うかと聞かれた際、あなたとレイは復讐のために学ぶとおっしゃりましたね」
センの眉がピクリと動く。
「……今更だな、それがどうかしたのかよ?」
「一度聞いてみたかったんですの。一体復讐のために魔法を、何かを学んで何になるのかを」
「……いつかは、誰かに言われることだと思ってたけど、ソフィアに言われるとはな」
「別に否定をするつもりはありませんのよ、私だって貴族という肩書が嫌だからというだけで入学したんですから。でもだからこそあなたの考えを知りたいんですの、復讐の先に何があるのかを」
「そうだな、……分からないってのが一番だろうな」
「分からない?」
「俺が、俺達が復讐したい相手ってのは、素性もわからねえ、別にそいつ自身が手を汚したわけでもねえ。ま、指示はしたんだが、でも正直、そんな奴に本当に会った時、俺が何を思うのかよく分からないんだよ」
「それは、どうしてそこまでして……」
「知りたいからじゃないのかな、お前と同じように、その先に何があるのか」
「……」
ソフィアはしばらく黙っていた後、ゆっくりと立ち上がる。
「お手洗いに……」
そのままソフィアは店のトイレに向かって行った。




