魔人 グリム・アナトリモス
砂漠の塔15階にて繰り広げられていたのは魔人が一方的に暴れている姿だった。
「うわー!!」
壁を破壊するほどの勢いで飛ばされるブラウン、なんとか立ち上がるもかなりダメージを受けていた。
「はあ、はあ…」
辺りを見れば崩れた壁の場所にグレンとレイが倒れている。
「おいお前達!立て!立たなきゃ死ぬぞ」
二人もなんとか立ち上がるが状況はあまり変わらない、
「先生、さっきは真っ向勝負なんて言ってたが、さすがにこれはちょっと何か考えないとまずいんじゃないか?」
グレンがブラウンに問いかける、この間にもグリムの腕は壁を破壊し、グレン達に襲いかかっている。
「おっと?お前もさすがにそう思ったか。だが悲しいかな、この状況を打開する方法をさっきから考えているがどうにも思いつかねえんだ。お前達は何かあるか?」
「そんなこと言ったって、」
腕がグレンを捉える、グレンは素早く伏せることで腕をかわす。
「避けるのに必死だよ!」
「ブラウン先生、僕はあります」
「ほお、なら少し聞こうじゃないか。ギャレオン!」
ギャレオンが飛び出し腕を引き付ける。その間に3人は瓦礫に身を潜める。
「雷魔【サンダーウォール】」
雷の壁を瓦礫の前に張る、
「それでどうするんだ?」
「ブラウン先生、僕達って適性魔法の属性以外も使えるんですよね?」
「ああ、さっきも俺が使ったようにな。最も今のお前達はさすがにあそこまでは出来ないだろうが」
「やり方、教えてください」
「ああ?簡単だ、いつもお前達が唱える呪文の炎や氷の部分を風とか雷に変えれば良い」
「なるほど、じゃあちょっとやってみたいことがあるんです」
「邪魔だ」
グリムは自身に飛びかかってきたギャレオンを右腕で殴って追い払う。
「増やすか…」
右腕に瓦礫が集合していき鞭となる。
「さて、逃げ込んだ先はあそこか」
両腕を伸ばし瓦礫の山に腕を向かわせる、しかし腕は瓦礫の山に当たる直前で弾かれる。
「壁?無駄な事を」
もう一度腕を瓦礫の山に当てて崩す、だがやはり今度も瓦礫の山を崩すだけで威力がかなり落ちていた。そしてグリムは両腕にダメージを感じて腕を引く、グリムの両腕は右は燃えており、左は電撃が残っている。
「だがそれに止まるか」
再び腕を伸ばそうとしたが、何かが飛んで来るのが見える。
「岩?」
グリムに岩の刺が何本か飛んできていた、グリムは腕でこれらを凪ぎ払うが岩の刺は断続的に飛んでくる。
「おとりか、だがどうする?」
グリムは感覚を研ぎ澄ましす、
刺、刺、刺、刺、刺…、雷
「上か」
「雷獣脚!」
ブラウンが雷を纏った足でグリムの顔を蹴った、が、
「捕らえた」
グリムの髪が伸び、ブラウンの足を捕らえたのだ。
「おいおい、ダメージを受けてまでやるような事かよ!」
ブラウンは重心を傾け、グリムの足を雷を纏ったナイフで刺す。
「愚かな、痛みなどあるわけがない」
グリムの髪がブラウンの足を放し、グリムはブラウンを蹴り飛ばす。少しして、グリムに岩の刺ではなく瓦礫が飛んできた。
「ふん」
グリムはこれを容易く壊したが、次の瞬間瓦礫に潜っていた弾丸に憑依したコルッシュがグリムの鞭のような腕を泳ぎ、グリムの胸に飛び込んだ。
「がっ!!」
さすがにこれは効いたようでグリムは後ろによろめく、
「…っ!!はぁ」
なんとか踏ん張り倒れることはなかった。
「グリム…」
グレンがグリムと対峙する。
「はあ、はあ…。なんだ?来ないのか?」
「その前に教えろ、10年前の話だ。俺達の村はガルムに襲われた。何故ガルムは俺達の村を襲った?」
「ミーライ、お前達はあの女から何か聞いていないのか?」
「『2つの光、1つの光に導かれ黒き雷を打ち倒さん』、迷惑な話だよその2つの光が俺とレイで1つの光がブラウン先生、そして黒き雷はガルム。ガルムはその予言を信じて、だからミーライを追って、俺達を殺そうとした。違うか?」
「ミーライの予言は当たる、だがそれは単なる予言だ未来は無数に選べるしあの方ならそれを選ぶこともできる。あの方は自身の失敗する未来を恐れているわけではない」
「じゃあなんで俺達の村を襲った!?」
「簡単な話だ、未来は恐れていないしかし成功するには確実な手段を選ぶべきだ。お前達の村だけじゃない、いくつもの可能性のある家、集落を潰す。そしてその先に見えるのがこの国の未来、平和」
「平和だと?ガルムの目的は一体何だ?」
「国の、ひいては世界の平和の為、あの方は力を手にいれようとしている」
「はっ、随分と聞こえの良い目的だな。最も俺達は目的も知らない人間の邪魔をするほど暇じゃないんだがな」
「しかし予言は確かにあった、理由なぞ今さらどうでもいい。重要なのはお前達があの方を、ガルム様を倒そうとしている。それだけだ」
「最後に聞かせろ、俺達の村がアウトだとどうして判断した?」
「あの日あの村にはミーライは居なかった。村の連中が匿っていることは分かったがしかし村の中にいる気配はしない、いた気配はするのにだ。ならばミーライが何かを見つけた。私はそう判断した。事実お前達は襲撃した際は避難したようだがあの村にいた。それだけだ」
「なるほどね、じゃあ再開しようか」
「そうだな、そろそろ終わらせよう。だが既に終わったモノが再び動くことはない」
「何を…、っ!?」
グレンはいつの間にかグリムの鞭のような腕に捕まっていた。
「これは終わりだ。終わりに再開はない」