グリム・アナトリモス
「全てのモノには何かしらの綻びがあるものだ」
グリムは掌に収まる程の大きさの石を拾う。
「綻びの強弱はそれぞれ異なるが、確かなのはその強さ以上の力で絶てばそれは壊れる」
「なんだ、哲学の話でもしてるのか?」
グレンが苛つきながらグリムを睨む。
「つまり……」
グリムは石を上に投げた、石は天井にぶつかる。
「はっ、まさか!? グレン、レイ、近くに来い」
「え?」
「いいから!!」
グレンとレイはブラウンの近くに寄る、すると天井が微かに揺れた様に見えた。
「雷魔【サンダードーム】!」
ブラウンが雷のドームを張るのと同時に天井が崩壊し瓦礫が降ってきた。
瓦礫は雷のドームによって破壊されてグレン達を押し潰すことはなかった。
「さて、場も整ったことだし始めようじゃないか」
グリムは地面に剣を突き立て左の籠手を外す。
「あいつの周りだけ瓦礫が無い……?」
「考えてる暇は無い、来るぞ!」
グリムは籠手を握り潰した。
そして彼の右手には緑の鞭のようなものが握られている。
「なんだよ、どういう仕掛けだ?」
グリムは鞭を振るう、グレン達はこれを避けるが足下は瓦礫がある。
レイが少しバランスを崩した所をグリムの鞭が迫る。
「氷魔【アイスシールド】!」
氷の盾で鞭の攻撃をなんとか防ぐ。
「ん?」
グリムは注目をレイから近づいてくるグレンに向ける。
「はあ!」
グレンは剣に炎を纏わせて斬ろうとするがグリムは避ける。
「これなら!」
いつの間にか拾っていた石をグリムに投げるがグリムは右手でこれを防いだためダメージはない。
しかしグレンの狙いは別にあった。
死角からグレンの使い魔であるヒルダが飛び出し炎の球を口から放った。
球はグリムの左手に当たり炎上する。
しかしグリムは右手ではたいて火を消した。
「なんて野郎だ……」
「死角から剥き出しの部分を狙う。少しは闘いを知っているか……。だがまだ若い」
グリムの右手にあった鞭が収束して一つの球体となる。
それをいつの間にか迫ってきていたブラウンに向けて投げた。
ブラウンは短剣でこれを弾いて、もう一本の雷を纏った短剣で切りつけようとする。
「無駄な事を」
右手でブラウンの手首を殴り短剣を落とす。
「【雷獣脚】」
しかしこれを見越したブラウンは雷を纏った足でグリムの顔を蹴った。
グリムの兜が外れその顔が現れる。
グリムの顔は驚く程白く、鎧と同じ緑色の長髪が美しく見える。
「……ふん」
グリムはブラウンを掴もうとしたがブラウンは一旦引く。
「私の顔を出させてもお前達は私にダメージを与えることはできない」
「そんなのやってみなくちゃわかんねえだろ」
勢いよく飛び出すグレン、その剣は既に炎を纏っている。
「やっても、やろうとしてもそんなんじゃできない事ぐらいわかるさ」
グリムは兜を拾いグレンに投げる。
「こんなもの!!」
左手で投げられた兜をなぎはらってグリムに近づいていく、グリムの手には右の籠手を握りつぶして作った鞭があった。
「若いな」
グレンの剣に鞭を絡ませる。
「グレン!!」
グリムの鞭で剣を捕らわれたグレンは手を離そうとしたが、既に剣を持っていた手まで鞭に縛られており放せない。
そしてグレンは自身の意思ではない形でグリムの前に来た。
グリムの左手には地面に突き立てていたはずの剣が握られている。
「コルッシュ、切れ!」
地面より飛び上がったコルッシュがグレンを捕らえていた鞭を切断した。
グレンは地面に仰向けに倒れる。
「ここまで来れば十分」
しかしグリムの剣は確かにグレンを捉えていた。
「雷魔【サンダーフォース・ダガー】!」
これをブラウンがナイフで防ぐ。
「グレン一旦引くぞ」
「はあ!?なんだよそれ!」
「いいから!」
ブラウンはグレンを抱え逃げようとする。
「逃がすと?」
グリムは切断され短くなった鞭を収束させ球を投げる。
「氷魔【アイスシールド】!」
これを氷の盾で防いでグレン達はグリムから離れた場所に移動する、グリムはしばらくして動き出した。