守護者 ワイド・バッツ
8階、ブラウンは階段前にいる人物を見て立ち止まった。
「お前達やっぱり引き返せ」
生徒達がざわめく、
「先生、どういうことですか?」
レイが目の前の人物とブラウンを見比べながら尋ねる。
階段前に立つ人物は紙を仮面のように着けて顔の大部分が隠れている、唯一見える口許は笑っている。
「これは想像以上にまずかったってことだ。あの鎧男の言う通り生徒を上に行かせるのはかなり危険だ。お前達良いか?この塔を出てさっき水分補給をした建物まで行くんだ」
「下に残ったラザス君達は?」
「あいつらにも塔を出るように言え」
生徒達はブラウンの言葉が終わると同時に引き返す。
「おいおい、僕を無視しないでほしいな」
階段の前にいた人物は手を生徒達に向け風の刃を飛ばした。
「氷魔【アイスシールド】」
レイが展開した氷の盾に風の刃は防がれた。
「レイ、やってみるか?」
「はい」
「レイ!?何をしてるんだ、逃げるぞ!」
「悪い、少しの間こいつの攻撃を防がないと」
「だけど!」
「いいからさっさっと行け。レイの努力が無駄になる」
ブラウンの言葉に渋々従い、場にはブラウンとレイそして階段を塞ぐ守護者だけとなった。
「おやおや、せっかくいっぱい殺せると思ったのに」
「一つ質問がある。少し前この階の階段を軍が通ったか?」
「通った、というよりかは通したっていうのが正しいけどね。今頃はあいつの餌になってるよ」
顔に着けていた紙の面を外す、その顔はいたって普通で傷のようなものも見当たらない。
「ま、2人やれるんならまだましかな」
顔が歪み形を変えていく、やがてそれが収まればその顔は蝙蝠のようになっていた。
「魔族か…」
「ふふ、さて君達はどこまで僕を楽しませてくれるかな?」
いつの間にか身体全体が毛で覆われている蝙蝠男、
「ワイド・バッツ、君達が最後に聞く華麗な名前さ」
右腕に蝙蝠の翼のごとき物がある、翼は開きワイドは自身の毛を一本抜く。
抜かれた毛はちょうど矢くらいの長さに伸びる。
「まさか」
レイは銃を構える。
ワイドは弓矢のように毛を右腕にあてがい、引き絞り毛の矢を放った。
レイはワイドの動きからこの攻撃を予想できた為普通に避ける。
「これなら、僕でも…、なっ!?」
レイは高速で自身に迫るワイドを認識する、しかもその左手には白い刃の長剣を握っていた。
「氷魔【アイスシールド】!」
氷の盾でワイドの斬りを防ぎ、
「コルッシュ!!」
レイの使い魔である氷の魚が地面より飛び出しその尾びれでワイドを殴る。
ワイドな咄嗟に右腕でコルッシュの攻撃を受けた。
攻撃を受けた箇所は凍りこそしなかったがかなり冷たくなっていた。
ワイドは冷たくなった部分の毛を抜き右腕にあてがう。
「またか……」
「風魔【ウィンドフォース・スピア】」
ワイドが放った矢は風を纏い速度を上げてレイに襲いかかる。
「魔法を使えるのか!!」
レイはなんとか矢をかわすがワイドは次々に矢を放つ。
「氷魔【アイスシールド】!」
氷の盾をはるも矢が纏う風の力で破壊される。
「くそっ!!」
ワイドの攻撃は休むことなくレイはひたすらに避けることしか出来ない。
「レイ、何をしてるんだ?避けるだけじゃ負けるぞ!」
「そんなこと言ったって、くそっ!!」
レイはなんとかワイドに銃を向ける。
「引き金を引いて撃つ、引き金を引いて撃つ。氷魔【アイスボール】!」
氷の球が放たれる。
「馬鹿め、そんな攻撃届くと思ったか」
ワイドは氷の球に右腕を向けて、
「風魔【ウィンドフォース・スピア】」
風を纏った矢を放つ。
矢は全て氷の球にぶつかって氷の球は消滅した。
レイが走ってワイドに近づく。
「させるか」
再び右腕をレイに向けるが、
「コルッシュ!!」
コルッシュが地面よりワイドの足下を文字通りすくうように飛び上がる。
「なっ!!」
体勢を崩したワイドにレイは銃口を向ける。
「引き金を引いて撃つ!氷魔【アイスボール】」
氷の球を放つ、ワイドは間一髪剣で氷の球が自分に当たるのを防ぐ。
剣は凍り、ワイドが投げ捨てると割れた。
「中々やるじゃないか」
ワイドは翼を広げ飛び上がる。
「屋内で飛ぶとはな、一体何を考えている?」
ブラウンはワイドを見ながら言う。
「そういえば君は攻撃してこないんだね?さっきもアドバイスしかしてなかったし」
「俺が手出ししたら2対1どころじゃないぞ」
「偉そうに、君の大事な生徒が死んだって後悔しないでくれよ」
「氷魔【アイスロープ】」
レイは銃から氷の綱を放ちワイドを捕らえようとするが、
「風魔【ウィンドカッター】」
風の刃を放ち氷の綱を砕く。
「急かすなよ」
ワイドは一瞬でレイを捕まえ、そのまま8階内を飛ぶ。
そして少し離れた部屋の壁にレイを叩きつける。
「ぐあっ!!」
「風魔【ウィンドカッター】」
風の刃をレイに向けて飛ばす。
「くぅ…、氷魔【アイスシールド】」
氷の盾をなんとかはり、
「コルッシュ、憑依だ…」
か細い声でコルッシュに指示する、するとコルッシュは氷の盾に入り込んだ。
氷の盾は魚の鱗のようになり風の刃を防いだ。
「なんだと?」
レイは銃の弾倉に実弾を2発込めた。
「ふう、引き金を引いて撃つ。コルッシュ、憑依だ」
コルッシュは銃の中に入り込む、しかし銃に特に変化は無い。
「当てられるものか」
ワイドは再び飛び上がる。
「氷魔【アイスフォース・スピア】!」
レイの放った弾丸は槍のように鋭くなった氷を纏っている。
「なるほど真似たわけか、しかし」
ワイドは弾丸を避けレイに襲いかかる、レイはあることを確認してワイドの掴もうとした手から逃れる。
「ふん、まだまだ」
ワイドは右腕を構えて矢を放つ。
「今だ!」
レイが叫ぶと同時に弾丸に憑依して天井を潜っていたコルッシュが飛び出しワイドの背中に直撃した。
「がっ!!」
「氷魔【アイスフォース・スピア】」
レイは地面に落下したワイドに向けて氷の弾を放ち当てた。
「はあ、なんとか上手くいった…」
コルッシュには地面や壁、天井にある程度の深さを潜れる、また武器や物に憑依することも可能なのだ。
レイはそれを上手く組み合わせてワイドに攻撃を当てた。
その事実をワイドは左手に魔力を集中させながら認識する。
「豪風魔【サイクロンカッター】……!!」
瞬時に起き上がったワイドはレイに向けてウィンドカッターよりも鋭く速い風の刃を飛ばす。
レイは危険を感じたのか振り返りワイドを見た。
しかしその時既にワイドの攻撃はレイに当たっていた。
「……?」
右肩の感覚がいつもと違うのを感じ見る、それを見た時間をレイは永遠のように感じた。
右肩から先が風の刃で切断された事、切断された腕が地面に落ちている事、一瞬か何秒たったのかとにかくレイはこのままではかなりまずいと感じて肩の切り口を自身の魔力で作り出した氷で塞いだ。
「はぁ……」
目眩を感じる、目の前にいるワイドは右腕を向けて矢を引き絞っている。
このまま矢が放たれればレイの頭を貫くだろう。
しかしレイは動けなかった、考えれなかった。
腕を切り落とされた事実が全ての考えを押し潰して何も出来ない。
「さようなら」
ワイドの放った矢はしかし、突如として現れた雷の獅子に防がれた。
「うちの生徒をあまり苛めないでくれよ」
ブラウンはワイドの背中にナイフを突き立てながら言った。
しかしその言葉はワイドには届かない。ワイドは地面に倒れる、ブラウンは背中に刺したナイフを抜いてワイドの頭に刺した。
その一部始終を見たレイもまた倒れた。