終業シキがやってくる 二
「いやあね、実はさ。僕も自分のプログラムの前まではいたんだよ。それは副会長の二人も知ってると思うしね?けど気づかなかったからって二人のことはできれば責めないでほしいなあ。
僕は二人が式後の重要事項について話し合ってる間に抜け出したから二人は気づけなくても仕方ないような状況だったしねぇ。
ああそうそう、理由についてだけどね。まあほら、校長先生の話って長いでしょう?だから正直な話僕もちょっと飽き飽きしちゃってね。だから校長先生の話の途中に少し飲み物を飲みに行こうと思って。次は自分の話す番だし、それに体育館は飲食禁止だからと舞台裏から抜けて外で水を飲んでたんだよ。
そしたらさ、茂みからカサカサって音がしてさ。おや?何だろうと僕は思ったわけだよ。だ からこれは何か証明しなきゃいけない!と思ってね?
それで茂みにそーっと近づいて僕はその正体を解き明かそうとして…
「それが子猫だったため諸注意のことなど忘れて戯れていた。というのが正解ですか?」
ご名答。けど少し違うなあ。僕は忘れてたわけじゃなく、意図的だったんだよ。
ああ、猫ちゃん可愛いなあ。遊びたいなあ。
けど僕は話さなきゃいけないしなあ。
けどまあ、シン君がいるから安心だよね?とさ。」
長々と胡散臭い笑顔で言い訳がましく、いや、言い訳を長々とつらつらと述べながら自分の犯した罪を正当化していく会長のしていた行動や考えなど自分でも嫌なほどに御見通しだった深夜は静かな口調で会長がみなまで言う前に正解を言った。
が、少しだけ思った内容とは違ったようで会長はそう続けたけれど、どちらにせよ理由はクズ極まりなく、会長の言った理由の方が理由になってはいないくらいにクズ度は上だろう。
正直なところ目の前でニコニコと笑った後に「ゴメンねっ」とか言いながらぺろりと舌を出す会長を殴りたいとも深夜は思ったが生憎武闘派でもないしそう言ったことは他の人に任せた方がいいだろう。と決断を下すと深夜は右手でドアを開けて
「というわけだそうです。みなさんお聞き になられましたか?」とドアの向こうに立っていた人物たちに対して質問をした。
ドアの向こうに立っていた三人は静かに無表情で開けられたドアから入ってくると、真っ先に会長の元へと行き、一人が会長の胸ぐらをつかみ、一人はドアとドアの鍵を閉め、もう一人は静かに本を読みだす。
彼らを呼んだ当の人物である深夜はというと、会長が「ちょっと待ってシン君。いつの間に―」という焦った声でした質問を華麗にスルーしながら、「お茶を沸かしてきますね。」とだけ短く言うと、そのまま生徒会室奥に設置されている給湯室の中へと進んで行った。
生徒会室の方から聞こえる会長の謝罪と短く聞こえた悲鳴や青年の怒鳴り声を聞きながら深夜は水を入れたやかんをコンロにかけ、人数分のコップを用意して茶葉を探す。
そろそろ沸かして新しいのを冷やしておかないといけないだろうか。夏は水分補給をこまめにするためかストックしているお茶もなくなりやすい。昨日は緑茶にしたし、今日はウーロン茶にするか。そう考えて茶葉の入った袋を取り出すと沸騰寸前のやかんを火からおろし、お茶のパックを入れる。そして再度ふたを閉めると今度は冷蔵庫からキンキンに冷えた緑茶を取り出した。
透き通った色の薄緑色をした緑茶を透明なコップにとぷとぷと音を立てて注ぎ終えると、乱雑に冷蔵庫のドアを開け、ぽっかりと空いたスペースに取り出した緑茶を入れる。お茶菓子も必要だろうか。そう思い冷蔵庫を締めて代わりに横にある戸棚から砂糖菓子とおかきを取り出して閉める。
確かお皿は洗って乾燥機に入れたし、ぱぱっと盛り付けてしまおう。
砂糖菓子とおかきを皿に盛り付け、皿とお茶を入れたコップをお盆に乗せると給湯室を出る。数分前に怒号と悲鳴は止んでいたことからもう説教は終わったのだろうとは思っていたが、先ほどの地獄絵図の面影はすでになかった。
会長に天誅を下していた男子副会長は既に席に座って自主学習を始めていたし、女子の副会長はドアから離れて何か書類を見ていた。会長はというと回転椅子に三角座りをしながらぐるぐると回っており、会計に関しては先ほどと変わらず読書をしていた。
深夜はコトンと涼やかな音を立てて机にお茶を置いていくと、真ん中に茶菓子を置き、「お茶の準備も出来ましたし…会長?」と言ってぐるぐると回転椅子を回し続ける会長の方を横目でちらりと見る。
会長はそれを合図と見たのか、回転いすを足でキキッと止めると、パンと大きく手を鳴らして会議の開始合図をした。
男子副会長は自主勉強していたノートと教科書をとんとんと音を立てて整頓し鞄にしまい、女子の副会長は書類から目を離して机に置く。会計が本を仕舞い、深夜が今日の会議内容をまとめたファイルを机の下の収納から取り出すと、会長の「はじめようか」という号令が入り、会議が始まった。
「まず今日の議題だけど…。今日の議題はこの夏休み中の巡回パトロールの場所。それからここ 海出市の祭りのお手伝いに関することだね。ええとあとはクリーンアップ作戦だったかな?」
そうホワイトボードにすらすらと議題を書いていった会長。正直丸文字で馬鹿っぽく見える字体だが、おそらくはツッコミ待ちなので無視を決め込むことにし、深夜は「ええ、それだけですね。」と短く答えた。
渾身のボケをスルーされた会長は若干寂しそうな表情をした後、
「うん、了解。じゃあまずこのパトロール場所に関してだけどさ。今のところ候補として挙がってるのが 3 つほどあってね。まあ全部回るらしいんだけど、それでも強化する場所を決めておこうってなってるみたいだよ。
そんなわけでシオンショッピングセンター海出店、それから山田市との市境にあるあの辺り一帯の繁華街と、桜井市の方にあるゲームセンター街。そこの三つのどこかを強化しようって話になってるみたいなんだけど。どこをするかってことを決めないといけないみたいでね。
あ、あと新たな対象があったらあげていってほしいな?」と、再び胡散臭い笑顔で一つ目の議題の詳細を述べた。
夏休みの巡回。確かに先ほどの諸注意でも注意したとはいえ一部の生徒が近隣高校の生徒と入り混じる機会は少なくはない。
この学校は全国でも指折りの進学校と名高いけれど、それでも夏や休みとは人の心の理性をほどいていくものだ。普段なら近寄らない場所でも「ちょっとだけなら」という気持ちでそこに近づいては、その深みに嵌っていく。
そういえば中等部の時、高等部の生徒が先ほど候補に挙がっていた繁華街の方にあるバーで違法の薬物に手を染めてしまったという噂を耳にしたことがある。なるほど、そういったことならこうしてパトロールの強化を例年より強化することにも合点がいく。
…しかし、もし生徒たちが学校に咎められるような行為をするならばどういったところに行くだろうか?そういったことなら生徒たちと同じ年頃の生徒会に任せてしまえばいい。きっと生徒会なら同じ世代の子供たちなのだから目星が付くだろう。
…学校側はきっと、そう言ったことが言いたいのだろう。けれどいいことなのか残念なことなのか、生徒会は真面目な生徒揃い。そんなみんな自分が違反をするなら、などのようなことなど思いつくのだろうか?
そう深夜が思っていた時、書類を漁っていた女子の副会長は「そうねえ…」と呟くと発言するために手を挙げた。それに対して会長は「おおー、よかったよかった。意見、言っちゃってよ苅安くん。」と言って手を椀のような形にして発言を促した。
「そうねえ…私はシオンショッピングセンターよりは山田市の繁華街を強化すべきだと思うけれど?無断アルバイトをしている生徒たちを探し出したり炙りだすというなら違うけれど、去年の一件もあったし、それにあの辺りは違法薬物や風俗店も多いもの。
いくらうちの校風が固くパトロールが厳しいと言ってもまだ学生なわけだから、皆一回くらいバレないと思って行っちゃう子も多少なりともいるでしょうし。」
苅安先輩は、会長の合図から少し間をおいて優雅に席を立って意見を述べた。発言が終わった後に椅子を再び引き、席に着くその姿は凛としていて美しい。さすが茶道の家元といったところだろうか。
しかし、確かに今の苅安先輩の意見は的を射ている。ショッピングセンターは確かに生徒たちがたくさん行く場所ではあるが、その利便性と明るさゆえに鬱々としたものはないし安全だ。鬱々とした、危険な場所と言ったら真っ先に思い浮かぶのは繁華街の方だろう。
…けれど、繁華街をパトロールしたところで意味は果たしてあるだろうか。違法薬物や風俗店が多いとはいえ、いち教師が行けるような場所でもなければ、取り締まれるような場所でもないだろう。しかしそう考えているのは深夜だけはなかったようで、会長を先ほど殴っていた男の副会長、縹さんも手を挙げたのちに、会長の合図を待たずに着席したまま自分の意見を話し出した。
「確かに俺も、あげはの意見は的を射ているとは思う。けど繁華街のパトロールをしたところで生徒は捕まえられないだろうな。
生徒が薬物を直接受け取っていたり使っていたりするところや店から出てくるところを見たりすれば話は別だが、そこを歩いているだけだったりすればそれはプライベートと判断されてしまうだろうしな…。そういった意味では俺は繁華街のパトロールはあまり意味がないと思う。
だから繁華街に関しては海出自体の警察に任せて、学校側としては別の場所がいいんじゃないか?…たぶん俺は桜井市のゲームセンターの方がいいと思う。桜井市は海出からも比較的行きやすい場所だし実際桜井市から通っている生徒も多いからな。けれどあそこはあまりお世辞にも治安がいいとは言えな いし、薬物とまではいかなくともカツアゲや脅しなどの軽犯罪も報告されてるし。どうだろうか?」
「…なるほど、それもあるわね…。確かに教師という立場では生徒個人にはなかなか踏み込めないし、この件に関しては警察に相談して繁華街付近のパトロール強化を申請しましょうか。
うちの学校だけじゃなく海出高校をはじめとした近隣の学校と一緒に申請すれば向こうも断れないでしょうし。」
縹さんの発言に対して、苅安先輩も賛同し、また他の意見を出した。「ほかに意見ないー?」と聞いた会長に対し、会計は「ありません」と言い、深夜はこちらを見た会長から目線をふいと逸らし、書類に先ほどのことを書き留める。
会長は彼のその行動を賛成と判断し、「よーし、じゃあ次の議題に行こうか。」と言った。
次は確か祭りの議題だっただろうか。今年の祭りも例年通り、市立海出高校との合同だ。…とはいえど、海出高校とは何故か昔から折り合いが悪く、主に生徒というよりは教職員がばちばちと花火を散らしている。
全国屈指の進学校と誉れ高いここ「天河高校」と、公立ながら武に長けた生徒が多く運動系の部が全国大会出場を毎年している「海出高校」。文と武、違った特色を持つ両社の学校はまさに火と油であり、いつもいがみ合いを起こしている。
まぁ、とはいえそれはあくまで「教職員」たちの間だけであり、生徒たちはと聞かれればそんなことはなく、生徒たちは特になんの因縁もなく、「同じ市内に通う近隣の高校の生徒」として概ね良好な関係だ。そうは言っても文に長けた生徒たちと武に長けた生徒たちであるためか、積極的には関わり合わないしとても仲が良いと言えるわけでもない。普通の関係だ。
まぁそんな微妙な関係の高校は、 20 年ほど前からここ海出市で行われる「海出市納涼花火大会」という名前の夏祭りを合同で行っている。
元々は海出高校が単独で実行委員を行っていたのだが、私立のこの高校が出来てから数年、人口の増加により様々な学校ができたために海出高校の生徒数は年々減少の一途を辿り、は少なくないとは言えども以前の様に多いわけでもない。
そんな状況の中財源のこともあり天河高校と合同で実行委員をやるようになったのである。
まあそんなわけで今年もいつものように祭りを行うために、どんなプログラムにしようかということなのだろう。祭りと銘打ちながらもその本命は花火大会。けれどその花火が上がるのは祭りが始まる十六時半からから約二時間後の十八時半ほど。つまりその間の二時間、実行委員たちで毎年盛り上げを行わなくてはならない。その為のステージ編成を考えろということだ。
「会長。今年は海出高校は何をするかとか、聞いてますよね?」
そう今まで黙っていた書記の月代君が疑問を投げかける。会長は「えっとねー」と言いながら顎に手をやり、しばらく考えたのちに「ああ、そうだったそうだった」と行ったかと思うと突然に鞄をごそごそと漁り出し、
「これこれー。海出高校の生徒会長からこないだの会議議事録のコピー貰ったんだけどねー。えーとね、海出高校はブラスバンド部による演奏とその演奏をバックにダンス部によるステージを行うんだってさ。まあ甲子園常連の海出のブラスバンド部は関東大会の常連だし、ダンス部も全国常連組だからね。華やかでいいと思うよー。」
とべらべらと今年のステージ内容を言った後に無駄な感想を述べるとぺいっと机に議事録のコピ ーを放った。
放たれて机にぺちんと落下した議事録を自分の元へと持っていき、深夜は今回の項目を書き写す。…ハイレベルで力強い演奏のブラスバンドと、独創的で統一性のとれたダンス。盛り上がりは確実だし完璧だ。去年はチアリーディング部のパフォーマンスだったけれど、あれもだいぶ人が集まっていたようだったし。
…となると、ここはうちの学校も負けじときちんとしたものを出さなきゃならないだろう。確か去年は財力で巷で流行っていたお笑い芸人を呼んだと聞いたけれど、あれは反則だ!と海出高校の方からぶつくさと文句を点けられたらしいし。
「うーん。結構大きなもの出してくるんですね。去年みたいにゲストを呼んで逃げるわけにもいかないですし。正々堂々と何か大きなものをするべき…。
ですけれどうちの学校は部活動も盛んじゃないですし、全国大会に出場しているものなんて全部勉強系の文化部ですから盛り上がりにはつながらないですもんね…。」
そう苦笑いしながら言うと、月代君は腕を組んで悩ましげにうぅむとひとつ、唸った。縹さんや苅安先輩も案を考えてはいるけれど、ぱっと来るものはないのだろう。二人も同様に眉を顰めていた。
深夜もどうしようか、と考えていたがどうにも出てくる案は平凡なものばかりで面白い案などそう簡単には思いつかず、ちらりと会長の方を見る。だが会長もまた困り顔をして笑ったのちに
「じゃあ、これは保留で。先にクリーンアップのこと決めちゃおうか。」と言うと、大きな字で夏祭りの所に保留と書き赤丸を書いた。
「今年は海出中近くの遊歩道の方がいいんじゃないかしら。去年は市街地の方の清掃を行ったけれど、大人数だったから近隣からの苦情も入ったし。
それにあの遊歩道は中高生の通り道となってるぶん飲食物のポイ捨てが多発しているようですし。ちょうどいい機会なんじゃないかしら。」
議題が変わると苅安先輩は意見がまとまっていたようで、そう静かに意見を述べた。
「確かにそういえば、去年あの辺の住宅街のとこでぎゃあぎゃあケンカしてた人たちがいたみたいだからねえ。まあそれは海出高校の生徒みたいだったけど、うちとここの学校、ジャージ似てるからかこっちに苦情が来ちゃったみたいだしね。
まあ今年は避けた方がよさそうだし、最近あの辺に防犯カメラが設置されてポイ捨て数も減ったみたいだからちょうどそれがいいかもねー。じゃあ採用採用。シン君―。」
「もう書けてますよ。…けれど、反対意見や追記意見はありませんか?」
会長の書き留めておいて―というセリフを遮ってそう返事をすると、深夜は生徒会役員の顔を見回し、そう聞く。けれど全員特に反対もなく賛成のようだ。…となると、また先ほどの議題に戻らなきゃいけないな。
決まるかなあ。
そう思っていると会長は「あ、そうだ。」と間の抜けた声を出した。
「何ですか?」と少し眉を顰めて聞いた縹さんに対して、会長は「まあまあ、そう構えずに。いやー、夏祭りの案に関していい案が思いついたよー。」と言うと席から立ち上がり、先ほど書いた丸保留の文字を消した。
そうして立ったまま「あのね」と話しを始めた。
「去年はお笑い芸人をうちの学校で呼んだことで『他力本願だ―!』とか、『金を持ってるからって卑怯だぜ!』とかいう声が海出高校の教諭たちから上がったみたいだからねえ。まあだからうちの学校の誇れるものを出していこうってことだよねー。パフォーマンス力があり人を惹きつけるあの二つの部活に対抗できるもの…。って考えたんだけどさ。
うちの市の祭りで未だかつてやったことのないものを考えてみたんだよ。けどそれであって王道なもの。いやー、考えてみたんだけどさ、地味に面白いものを見逃してたよね。
ダンス部は衣装代がかかるし、ブラスバンド部は会場設営に多少は費用が掛かる。それを僕らは「賞金」に掛けちゃえばいいんだよ。…ってわけでさ、『ミスコン』なんてどうかな?」
「…へえ。なるほど。そんなものを祭りでやると?少々破廉恥と言いますか、うちの高校の品位を落とすことになるのではと俺は思いますが。」
「いやいやほらそんなに怒らないでよハナくんってばー。いやほらそんなものっていい文化だよ?コンテストだよ?軽い大会だよ?ほらうちの学園祭じゃできないようなことだしさー。
それにミスコンって言ったけどミスターコンでもいいんだよ?単にミスコンって言ったのは地域のおじさま方やお兄様方のウケがいいってだけでミスターコンもそれはそれでお姉さま方やおばさま方の支持ももらえるしね?」
「とはいえ、そう言っても上手くいくかしら?うちの学校はあまり頭の柔らかい先生はいないもの。そんな低俗なもの…!って反対されるのがオチなような気もしてしまうのだけれど。」
「うーん、あーちゃんも痛いところをついてくるねー。けどうちの学校の催しなんて他にはなかなかないし、それになんでかはわからないけど単純な成績の偏差値の他に顔面偏差値も高い方だしね?結構ぴったりだと思うんだよー。
賞金以外はお金もかからないし、生徒たちもはっちゃけられる。それに過去に学園祭の意見にミスコンやミスターコンの開催を!というものもあったんだよ。まあそれは学校内でふしだらだー!とかイメージが落ちる、とかいう理由で却下されちゃったんだけど。
でもこれは祭りの中での開催だからそこまで大きなものにはならないからね。
それに幸か不幸か天河高校と海出高校は教職員同士の中がすっごく悪いからねー。先生たちも文と武で決められない学校の差をこういった形でもいいから示してみたいというのはあるんじゃないかな?自分たちの学校がどちらも負けるだなんて思ってないからこそ割とすんなり通ると思うよー。」
縹さんと苅安先輩の反対案をひょいひょいとかわしながらそう意見のメリットをすらすら口に出していった会長。確かにミスコンやミスターコンなら賞金以外には費用はかからないし、まさに体一つで出来る。
それに普段は決めることのできない方向性の違った二つの学校の優劣が変な方向であるとは言えど決められるというならば先生たちも喜んでその意見に乗るだろう。
縹さんはまだその意見にはあまり納得はいかないようでううむと唸りながら何か意見はと考えていたが、やがてこれ以上考えたところで何も思い浮かばないということを悟ったのか
「…なるべく普通の内容のものでお願いしますよ。」と言うと、項垂れるように崩れ落ちた。真面目な彼にとって、こんなアホみたいな…いや、王道ではあるが少し公序良俗に触れそうな意見を容認して通すのは悔しかったのだろう。しかもこんなちゃらんぽらんした普段仕事のない会長が的を射た意見を出してくることもなんとなく嫌なのだろう。
…まあ正直、その気持ちはわからないでもない。
深夜はそう、未だしかめつらの表情を崩さないでいる縹に対して憐憫の感情を心の片隅で抱きながら、ミスコンまたはミスターコン。と祭りの事項について書類に書き留めた。