逆転劇
「おい、そこのニンゲン。やっと見つけたぞ」
後ろを振り向くと、そこには美しい金髪少女が立っていた。
目は透き通ったエメラルドグリーン、髪は腰あたりまである長さ、ぱっと見は外国人だが顔立ちは日本人っぽい。
こんなところに日本人がいるとは思えないがな。
「誰だ?お前だって人間じゃないか。何をアホな事を。俺は今別件で悩んでいるんだ。他をあたってくれ」
「そんなこと言うやつは……こうしてやる!」
「ちょっお前、手にかみつくな!ちぎれるちぎれるイタタタタタタタ……!」
「はなひをひふひひなっは!?」
「わかった、聞く、聞くから!離してくれ!?」
「っと。手がちぎれるかと思った……。では俺はこの辺でさようなら……」
「逃がすかボケ。また噛みつかれたい?」
見た目はいい感じなのになんて凶暴な奴だ。
しかも金髪って見たら即逃げないといけないってあの子が言ってなかったっけ?
そういえば名前聞いてなかったな。今度会ったら聞かないと。会えるかは知らないけど……。
まあ、逃げたら襲われそうだし聞くだけ聞いてやるか。
「で、要件はなんだ?」
「そもそもお主、ワシが誰かわかる?」
「え。お前みたいな奴、一度見たら忘れないと思うが。わからんな?」
っていうかお主とかワシってなんだ?お爺ちゃんじゃあるまいし。
女っぽい話し方に混ざると余計不自然だ。
「わからんか……。ちょっとだけ元の姿を見せてあげる」
そう言うと、目の前の少女の姿が大きく変化していった。
最終的に、ワニのような姿に……、ん?
こいつ、サイズは小さいが。
「お前、まさか個体名Aか?」
「個体名Aとやらが何かは知らないけど、誰かは分かったでしょ?」
ちょっと前の記憶が雪崩のように押し寄せてきた。
こいつに頭を持っていかれそうになったこと、火の玉をはいてきたこと、空を飛びやがったこと。
うん、トラウマしかない。逃げよう!
「ちょっと用事を思い出した。また後にしてくれ」
「だから逃がすかボケと言ってるでしょ?何、今すぐに喰ってやろうっていうわけじゃないのよ」
「『今すぐに』は……?」
「ああ、もうめんどくさい!!!とりあえず話を聞いて?」
これは相当いらだってるな……。とりあえずおとなしくしておくか。
「で、なんだ?」
個体名Aは姿を人型に戻すと、話を再開した。
「お主、前会ったときに白いものを投げつけてきたでしょ?」
「何か投げたか?あの時の記憶をちょっと封印していたものでな」
「あの、白くて薄くてフワフワしたいい香りがするやつよ」
「んん……?あ、もしかしてティッシュか?」
「多分それ!」
「がどうしたんだ?」
「ワシ、普段は木を適当に食べてるんだけど、そのてぃっしゅとやらがめっちゃ旨かったの!初めて食べたときは感動したわ……。でも作り方もわかんないし、量も少ないし。というわけであなたに作ってもらおうと思ったのだけど、何か言い残したことはある?」
おい、ちょっと待って。
「なんで今から殺すみたいな流れになっている??」
「ヤダヤダ、コロシハシナイワヨー。ちょっと『洗脳』、するだけだからね?」
「……は?」
「お主、ワシがいた川の水を飲んだでしょ?実はあれにはワシの魔素が大量に混ざっていて……」
ん?これはまずい流れでは。
「あれを飲むと身体能力がものすごい向上する代わりに、お主の体内にワシの魔素が混じるのよ。お主を発見できたのもそのおかげだし。そして何より……」
「…………何より……?」
「お主にワシの魔素を十分に取り込ませたことによって、ワシの魔法『強制服従』の発動条件が満たされるのよ。使用すれば、対象は意識を失った状態で一生命令を遂行する奴隷となるのね」
「なんて凶悪な魔法だ。ってことは……」
「そう、お主はもう詰んでるのよ!これからは死ぬこともなく私のためにてぃっしゅとやらを製造してもらうわ!」
ナ、ナンダッテー。いや、現実逃避している場合ではない。
このままだとやばい。時間稼ぎぐらいならできそうだが、解決策にはならないだろう。
頭をフル回転させて状況の突破口を考える。
実際には1秒も経っていないだろうが、頭の中でいろいろな可能性を考慮した結果。
「あっ……」
一つだけ、確実性はないが、上手くいくかもしれない方法が思いついた。
見たところ、目の前の少女は単純そうではあるし、上手いこと誘導してやれば成功する確率は高い。
この手のスキルはお手の物だ。
「どうしたの?」
「いや……、俺の負けだ。認めよう。でも洗脳される前に、一つだけお願いがある」
「何?」
「俺の意識があるうちに、お前のために心を込めたティッシュを作らせてくれないか?最後に、とても美しいお前、いや、貴方様の喜ぶ顔が見たいのだ」
「え、美しい……?そこまでしてくれるの?そう言われると悪い気はしないわね。いいでしょう。一回だけ作らせてあげますか」
「本当にありがとう。ところで、俺が最高の方法でティッシュを作るには、ある特殊な素材が必要なのだが……。俺にはそれらを入手するのは困難だ。材料集めの間、俺に従ってくれないだろうか?」
「そういうことね!ニンゲンごときに従うなんて屈辱的だけど、ティッシュのためなら仕方ないわね。どうせお主に逃げることはできないし」
「それでは……」
「ええ、少しの間だけお主の要求に従ってあげるわ!」
よし、かかったな?
後は一か八かだ。魔法の使い方もよくわかってないが、うまくいってくれ!
「『使役権』発動!」
「なに、魔法?お主のような黒髪ごときの魔法がワシに通用するとでも思って……思って…………?!」
目の前の金髪少女の足元に魔法陣のようなものが出現し、光り輝いた。
ー特殊魔法、使役権の発動が成功しましたー
どこかで聞いたような声がまた聞こえると、魔法陣が消えた。
すると不思議なことに、目の前の少女の髪の色が金色から黒に代わっていた。
おお、これで金髪日本人顔から日本人になったな。
「お主、お主ワシに何をしたーーーーー!?!?せっかく少しは気をきかせてやろうと思ったのに。えーい!もう許さん。『強制服従』発動!!」
ビクッと身構えるが、何も起きない。
「なん……で…………?『強制服従』!『強制服従』!!」
しかし何も起きない。
「お前はすでに俺に使役された身だ。主を服従させることなどできないだろう?」
「な……?ワシが……ニンゲンごときの……?」
目の前の少女は涙目になりながらこちらを見ていた。
一回殺されそうになったしな。もう少し復讐してやるか。
「そう、お前、いや、貴方様は私ごとき人間風情に使役された身となったのですよ!はっはっはっはっ!」
「うぐぐぐ……。いや、お主を殺せばいいか。死ねぃ!!」
そう言ってまた呪文を唱え始めた。
また火の玉でもはかれるのかと思ってビクッと身構えたが、何も来ない。
「え……?なんで、ワシの体内の魔素量がほとんどないに等しいんだけど……?」
「ところでお前、ご自慢の金髪が真っ黒になってるけど?」
「な、そんなバカなこと……。バカなこと………?わ、わわ、ワシの髪がーーーーーーー!?!?」
そう叫んで、目の前の少女は泣き出してしまった。
ふう。気分的にはとてもすっきりした、と思ったら。
あれ?世界が斜めってる……?
斜めっているのが自分だと気づいたのはこの世界に来てから二度目の気絶を味わってからであった。
更新予定日をあらすじに書いておくことにしました。




