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情報収集

 その屋敷はとても大きく立派であった。

 立派な飾りがついた大きな扉。高さは5階ほど。庭や豪華なテラスまである。

 ただ、いたるところがボロボロであり、庭も全く手入れがされておらず荒れ果てているが。


「恥ずかしいのであんまり見ないでください……。早く中に入りましょう」

「ああ、悪い」

 しばらく圧倒されていたが、声をかけられて正気に戻った。

「立派な屋敷だと思うがな」

「この家は先祖代々受け継いだものなのです。ちょっと前まではもっと美しかったのですが、手入れをしてくださっていた人たちが皆いなくなってしまって…………」

 暗い表情になってしまった。これは聞かないほうがよさそうだ。

「中断させてしまってすまない。中に入ろうか」

「はい!」


 屋敷の中にも、中央に立派な螺旋階段があり、所々に像が飾ってある。

 まさに貴族が住んでいそうな屋敷だ。

 ただボロボロだが。

「さあ、どうぞお座りください。今飲み物を用意します!」

 来客を想定してのことだろうか。案内された部屋はまだ手入れされているようであった。

 言われた通りソファーのような、フカフカそうな椅子に座る。

 ポスン、と音がして体が心地よい感覚に埋もれた。

「おお、これは良いものだな」

 楽しくなってボヨンボヨンと遊んでいるうちに少女が戻ってきた。

「お待たせしました。コップをどうぞ」

「早かったな。ん?粉しか入っていないように見えるが?」

「今から入れますよ!まあちょっと見ててください」

 そう言って目を閉じて集中したような姿勢になった。

 するとすぐに手が輝き始め、空中から水が湧いて出た。

 そしてこぼれることなくコップに入るとひとりでに粉と混ざり合い、湯気が立ち始めた。

 この香りは……!

「おお!!コーヒーか!」

「その通りです。どうぞお飲みください」

 一口飲む。久しぶりのコーヒー、うまい!

 実は俺はコーヒーがとても好きなのだ。心を落ち着けるのに最適だ。

 この世界でもコーヒーにありつけるとは。ありがたいことだ。


「さて、何から聞きたいからですか?」

「そうだな。まずはなぜ俺が異世界人というだけであのような反応がされたかを知りたい」

「わかりました。まず、イセカイジンがなんでこの世界に来るのかはわかりますか?」

「そうだな……。そういえば黒い男が、過去を変えて利益を得ようとする輩がいるとか言っていたような……」

「そう、その他にも、お兄さんのいた世界の摂理がくるってしまうようなことをしてきた悪い人たちがこの世界に飛ばされています。その人たちは、強力なスキルや魔法を持ち合わせています。彼ら、彼女らがこの世界に来てすることといったら……。わかりますか?」

「……そうか、この世界でも悪いことを始めるんだな?」

「はい、悲しいことに。といってもそこまで干渉はしてきません。でも常日頃から、ではなくてもたまに大きな事件を起こすので、イセカイジンには気をつけよ、見つけたら早急に始末しろ、というのがこの世界での常識です」


 なるほど、想像以上に大変な状況だ。

「そんな中でよく俺を助けてくれたな」

「実は私、識別眼というユニークスキルを持ってまして。人を見ればその人がいい人か、悪い人かなんとなくはわかるんですよ。あとは魔素の流れとかも」

「それで俺はいい人だと出たのか?」

「んー……。それに関してはノーコメントにしておきますか。あ、そうです!お兄さんの魔素漏れを何とかしないと」

「あ、そうだ。忘れていた。そんなすぐにできるのか?」

「そうですね。赤ちゃんでもできることだから一瞬で体得できると思いますよ。ただ、その年になるとちょっと強引にやるしかないかもですが」

「どうするんだ?」

「そうですね……ちょっと目をつぶっていてください」

 おとなしく目をつぶる。

 まさか……定番のキスか…………?


 胸をどきどきさせつつ待っていると、左ほおにすさまじい衝撃が走った。

 ビンタを食らったのだと分かったのは数秒後だった。

「痛っっっ……くない?」

「魔素の塊を手にまとわせてぶつけただけですからね。痛くないようには調整しました」

 とはいえこの子、華奢な体をしているのに想像以上に力が強い。

「想像以上に強引だったな……」

「道具が壊れたときは、斜め45度で叩けば治ると昔聞きました。それと一緒です」

「それ絶対俺の同胞が広めたデマだから信じちゃだめだぞ」

「…………そんなことより、体の表面に魔素を感じませんか?」

「……お、目には見えないが出ていく感覚がある」

「それが魔素です。体の表面で蓋をするようにイメージしてください」

 蓋をする?難しいな。

 お布団にくるまって体を休めている時をイメージしてみた。

 体の熱が、お布団に包まれて閉じこもっている感じ……。

「…………できてるか?」

「……想像以上に習得が早くて驚いています」

「流石はお布団の力」

「お布団?」

「いや、何でもない」

「一度できるようになれば、あとは呼吸をするのと同じようになるはずです。簡単にイセカイジンばれすることもないと思いますよ?」

「おお、それは一安心だ」

 出会い頭に命を狙われてはたまらないからな。


「次は魔法のことを教えてくれ。あとスキルと魔法の違いとか?」

 コーヒーをまた一口飲み、一度切り替えた。

 やはり魔法のことは知っておかねばらないだろう。

「わかりました。まずスキルと魔法の違いですが、スキルはいつでも使えるものです。オンオフはできますが、基本的には常時発動のものと思っておけばよいでしょう。私の鑑識眼もその類です」

「そして魔法は発動を要する、と?」

「そうですね。条件はいろいろありますが、杖を媒介にするものとか、詠唱するものとか」

「なるほど。ところで俺は、この世界に来るときに適当なスキルと魔法をもらっているはずなんだが、どうやって確認するんだ?」

「では、あなたにこの世界で最も基本的な魔法を教えましょう」

 おお、そんな簡単に使える魔法があるのか!

 彼女は立ち上がり、近くにあった机の引き出しをゴソゴソすると、羊皮紙のようなものを俺に手渡した。

「この紙を胸に当て、『アイン』と詠唱してください」

「わかった。……えっと?『アイン』!」

 すると、紙に黒い文字があぶり出しのように次々と浮かんできた。

 

 5秒ほどで文字が止まった。

「そこにはお兄さんの基本情報が書いてあります。読んでみてください」

「わかった……」

 そして、そこに書かれた自分のらしい情報に目を通し始めた。


正月にかけて更新できるか怪しいです

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