表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

ようやく始まる物語

 家の外の怪しい人の気配で目が覚めた。

 ゆっくり寝かせてほしいものだ。


 気配は人が10人分だが、それほど強そうではない。

 入り口は1つだ。強行突破してもいいが、事は荒だてたくない。

 特に迷うこともなく隠れる事に決めた。


 ドンッ、という音とともにドアが蹴破られ、警戒した様子で何人かが入ってくると家の中を捜索しだした。

「カイザーと名乗ったあの男はいるか!?」

「それがリーダー、先ほどまで人がいた気配がしますが、どこにもいる気配がありません」

「こちらも人体探知の魔法で調べていますが、特に反応はありません」

「チッ、逃げられたか!周辺を捜索するぞ!」

 そう言って家から出ていく音が()()()聞こえてきた。

 こんなこともあろうかと、カーペットの下に人一人が入れるだけの空間を設けておいたのだ。

 人体探知の魔法は予想外であったが、それほど精度が良くなかったのだろうか。

 真上に人がいたのも幸いしたのかもしれない。よかった。

 用心するに越したことはない。明日の朝までここで寝ていることにした。


                    ◇


 翌朝、図書館に行こうと思って家を出た。

「いい天気だな……」

 大きく伸びをして、息を吸う。空気がうまい。

 目線を正面に戻すと、そこにいた人たち皆が俺に視線を集中させていた。

「ねえ、あれ……」「やっぱり、そうじゃない?でも……」

 これはヤバい雰囲気だ。でも何故だ?

 よくよく見ると手に紙を持っている人がちらほらいる。

 遠目に内容を読んでみる。

 なになに……?この近辺で目撃情報、生死問わず、捕まえた人には賞金が用意されている、と。

 そしてど真ん中に俺の顔が大きく載っていたのだ。


「まさか指名手配されるとは……」

 とりあえずその気まずい目線から逃げることにした。


 街中を走っているだけで、こちらに視線が集中するのがわかった。

 注目されるのは嫌いなんだがな……。

 俺の顔は完全に知れ渡っているようだ。このままではまずい。

 しばらく街中を走り抜け、人がいないところにたどり着いた。

 城壁に囲まれた街だから探すのに苦労。

 川は流れているが、開発が難しそうな荒れ地である。

 いつ人が来るかもわからない。手早に済ますか。


 顔に手を当てるとベリッと変装を剥がす。

 俺は普段から顔を偽っている。

 これを剥がすのは最終手段の一つ。こんなところで使うのはもったいないが、仕方ない。

 変装用の顔は、あと一つしかない。デリケートな作業、ミスしたら終わりだ。

 慎重に顔に張り付けていく。

 5分ほどかけて、新しい顔を取り付けた。

「よし……と。これで大丈夫だな」

 川で確認するが違和感はない。大丈夫だ。

 これで指名手配の件は問題ないだろう。

 そうと決まればさっそく図書館に向かうか……!と体を起こす。

 そしてしばらく歩き、道に出たところで。


 パタッ。


 何かが倒れる音がした。

 それが自分の体だと気づくのに数秒かかった。

 指先一つ動かない。


 そういえばここしばらく何も食べてなかったな。

 エネルギーが全く足りていない。

 この状態になるまで全く気付かなかったのは我ながら愚かだ。

「ひもじい……」

 そして冒頭に戻る。 


 このまま死ぬのだろうか。 

 結局、異世界に来ても何もできなかったな。

 面白くない人生であった。

 ああ、それにしても。

 運命の出会いとやらがしてみたかったなあ…………。


 そして意識が途絶えた。


 数時間経過したとき。

「おじさん、大丈夫ですか?生きてますか?」

 そんな、かわいらしい声が聞こえてきた。

 そう、俺が生涯仕えることになる、彼女の声が。


ついに登場。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ