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便鬼洗記 -feces W.ash C.hronicle-  作者: 正髏丸
2/2

大2流 ようこそ、男爵邸へ


激しく荒ぶるお魚模様の風鈴。珍しく寝覚めの良い真夏の朝腹。


 お尻にイヤホンが刺さったままの音楽プレイヤーを黒いソファーに残し、苦し気に腹を張る網戸へと硝子の障壁をプレゼントすると、毘桜心咲(びさくらみさき)は長い嘆息を盛大にお漏らしした。


「はぁ~。我が事務所のチャイム君も、今日の風鈴ちゃん並に働き者だったら助かるんだけどなぁ……」


 高校を出たてほやほやの彼女は、田中探偵事務所の探偵見習いだ。プロの探偵である父の慎太郎がイギリスに出張している間、弟と共に事務所のお留守番をしているのだ。


 見習いとは言えど、心咲には自信があった。例え一人でも依頼を十分にこなせる自信がだ。故に、父に黙って勝手に看板を出していた。


 そう、これは彼女にとって絶好のチャンスなのである。


 父がいない今、多くの成果をあげることが出来れば、独立して一人で事務所を設立することが出来るかもしれない。


 しかし、こればっかりはどうしようもない、大きな問題が一つある。


「依頼人がまったくこないッ!」


 のである。


 まぁ、父がいた頃も依頼はさほど多くなかったのであるが。


『ピンポーンッ!!』


「!!?」

 

 それは、3日間貯まりに貯まった排泄物並みに長かった。待ちに待って1ヶ月ぶりっ! ついにこの事務所から、クイズ番組の正解音にも似たインターフォンのベルが鳴ったのだ!


「ブブー、残念、弟でしたー。ってな展開だったら、あいつぶっ殺す!」

 

 心咲はトイレへダッシュする漏れ掛けの小学生の様な形相で玄関のドアまで走ると、勢い良く扉を開けた。

 

「へい、らっしゃーいっ!!!」

 

 無論、ここは探偵事務所である。万屋とまでは行かないが、間違いなく八百屋でない事は確かだ。

 

「……あれ?」

 

 心咲はお漏らし間近で必死にトイレを探す小学生の如くキョロキョロと辺りを見渡すが、人影が何処にも見当たらない。

 

「ち、糞ガキのピンポンダッシュかよ。折角依頼人だと思ったのに」


 そして、小さなお尻のような大きな胸の谷間から髑髏マークの付いた小瓶を取り出すと、心咲は笑顔で呟いた。

 

「よし、決~めた。インターフォンに毒塗って入ってきた奴にだけ解毒剤渡すシステムに変~えよ!」

 


 ペタペタペーターペーター。ペーターは山羊飼いよ。


 

「あと一応、ドアノブにも塗っとこ。糞ガキざまぁ。ペタペタペーター♪」

「穴、穴、穴。穴は良くても、口悪し。美尻な物知り探偵さん、少々お時間よろしいですかな?」

「だ、誰っ!?」


 突然、何処からか声がした。

 

 確かにそこには人影は無かった。しかし、尻影ならば、そこにあった。

 

 身長169㎝で自称スタイル抜群の心咲の目線では、背が低すぎて視界に入らないのだ。この、お尻頭で、二頭身の、貴族風な装いをした奇妙な生き物は。

 

「シルクハットのお尻の化け物……あぁ、夏の暑さで幻覚が」

「化け物とは失敬な。ワレはお洒落で利口なジェントルマン。皆の憧れ汚尻男爵だ」


 何とも得たいの知れない人間? お尻? がやって来た。


 見た目は人間離れしているが、何処かマスコットキャラクターのようなきも可愛さがある。いや、やはりきもい。きもいだけだ。ただただ死ぬ程きもい。


「……」


 心咲は何とかよっこらせと頭の中のレバーを大の方へ引き、フリーズした思考を回転させる。

 

 問題はこの男が依頼人、いや、このお尻が依頼尻であるか、否かだ。


 このお尻、見た目に反し、お尻の匂いはしないが、お金の匂いはプンプンする。


 そして、事件の匂いもまたプンプン。


 取り乱してはいけないのだ。これが大チャンスであるが故に。

 

 

「失礼致しました。今日はどのような御用件で?」 

「さっそくだが……」


 男爵の真剣、かつつぶらな瞳に心咲は息を飲む。


「ワレの屋敷のトイレ掃除をして欲しい」

「……成る程、承知しました。では、どうぞ御かえりください」

 

 心咲が引き攣った笑顔で応じると、部屋に入ろうとした汚尻男爵は思いっきりドアに挟まった。

 

「痛っ! ちょ、おい、挟まっておるのだ!」

「挟んでんのよ!」

「何故!? 今のは御入りくださいの流れではなかったのか!?」

「ちげぇよ! どう考えても完全に御帰りくださいの流れだろが! ここはトイレ業者じゃねぇんだよ! 腐ってても探偵事務所じゃぼけッ!」

「それはワレも知っている。しかし、普通の業者では駄目なのだぁ!」

 

 男爵は涙目になりながら持っていたステッキを巧みに使い、テコの原理でドアを無理矢理抉じ開けた。手足が短い割には、まるで人形劇を見ているかのような軽快な動きだった。

 

「はぁ、はぁ、というと?」

「トイレ事態に問題は無い。問題があるのは……はあ、はあ、紙の方なのだ」

「紙?」

「そう、言うなればこれは……」

「これは……?」

「紙の神隠し事件なのだ」

 

 

 田中探偵事務所の応接室。


 向い合わせの黒いソファーにそれぞれ座り、紅茶が香るティーカップを乗せたお洒落なテーブルを挟んで、美咲はさっそく汚尻男爵の話を聞き始めた。

 

「それで、紙の神隠しとは?」

「その前に、このソファー、何故か一部びしゃびしゃなのだが」

「あー、これ、そういう柄なんです」

「水玉模様というやつだな」

 

 本当は心咲の涎であったが、適当に誤魔化した。


「話を進めましょう」

「うむ。まず、ワレの屋敷には、30を越えるトイレがある」

「何故!?」

「ワレは今、廃校になった小学校に住んでいるのだ」

「ふーん」


 廃校をリノベーションし、地域活性プロジェクトなどに活用する事例なら聞いたことがあった。懐かしさは勿論、校舎という個性を生かしたお洒落な施設が出来上がるのだ。宿泊施設やレストラン、美術館といったものならば聞いたことがあった。しかし、個人の家に使うというのは初めて聞く事例だった。そこで、一つの疑いが生まれる。


「失礼を承知で聞くけど、勝手に住み着いている分けじゃないわよね?」

「ワレを侮辱するかッ!」


 汚尻男爵はテーブルを拳で叩いた。紅茶の入ったティーカップと受け皿が、場に緊張感をもたらす甲高い音を産み出す。どうやら非常にプライドが高い性格のようだ。


「取り乱してすまない。許可ならちゃんと取っている」


 許可ならちゃんと取っている。何とも引っ掛かる表現である。買い取ったならば、買ったという表現を使えば良い。しかし、買ったとは言っていない。つまり、許可しか取っていないという可能性はないか? しかし、許可だけ取っている状態とは一体なんなんだ? やはり、このお尻、どうも怪しい。


 まるで腸にガスが溜まるように、心咲の疑心は膨らんでゆく。


「誰の許可を取ったんですか?」

「前の持ち主の許可だ」

「……前の持ち主?」

「そうだ。金貨100枚と交換でな」

「……前の持ち主という方の風貌を教えて頂けますか?」

「ん? 確か、ニット帽を被った、歯の欠けた男だ」


 ホームレスだこいつッ!


 心咲は落胆した。目の前のお尻がただのホームレスであることを知って。


 これは、このお尻を警察に預けて終わりだろうか?

  

 しかし、確かにこのお尻からは事件の香りがした。それだけはまだ、心咲の探偵としてのモチベーションを保たせていた。

 

「因みに紙の神隠し事件って何ですか?」


 神隠し。一般的には、人間がある日忽然といなくなる事。誰にも行方不明になった説明が付かないために、神様の仕業と捉えられる不思議な現象の事だ。

 

「実は、ワレの豪邸からトイレットペーパーが盗まれたのだ!」


 お前の豪邸ではない、ただの廃校だ。そう思いながらも心咲は話を続ける。

 

「因みに、被害にあったトイレットペーパーは何処から取ってきたんですか?」

「ケツケツケツ。よくぞ聞いてくれた。あのトイレットペーパーは、ワレが多くのダンジョンを攻略し、手に入れた戦利品だ。酷く過酷な旅だった。ケツケツケツ、良く死なずにあれだけの数を集められたものだ」


 汚尻男爵は胡麻のような黒い目を瞑り、語ってくれた。鉄で出来た象の鼻に頭を掴まれて抜け出せなくなったこと。首輪を付けた獰猛なモンスターに砂の大地で追い回されたこと。子供兵が操縦する鎖付きハンマーを心の眼で躱し続けたこと。子供兵から逃げる為に、言うことを聞かない木馬に必死で前へ進むよう命令したこと。


「しかし、流石のワレも子供兵に捕まり、鉄篭の中へ幽閉させられた時は流石に終わったと思った」

「公園だろそれっ!!」


 心咲は我慢出来ずにつっこんでしまった。もはや事件のこと等どうでも良くなった。寧ろ、こいつが犯人だ。公園のトイレ利用者が被害者だ。


「もう帰って下さい。あと、警察には黙っておくんで、もう二度と公園から紙を盗まないで下さい」

「ちょっと待て、金ならある」


 そういえば、このお尻、ホームレスっぽい男に金貨を渡したと言っていた。


「ちょっとそのお金見せて貰っても良いですか?」

「これだ。屋敷にまだ沢山あるぞ」


 心咲は汚尻男爵から巾着袋を受け取る。


「おもっ!」


 巾着袋にはメッキとは異なる確かな重みがあった 。取り敢えず、その中から金貨を2枚取り出し、虫眼鏡で確認した。


 金貨には誰かの肖像画が彫られていた。汚尻男爵そっくりのチョビヒゲの男である。男の肖像画は2枚ともに寸分の狂いもなく同じものだった。


 次に心咲は磁石を取り出すと、それを金貨に近付ける。メッキであれば磁石にくっつくはずであるが、磁石に反応はなかった。


「うーん。偽物とは言い切れないなぁ……」


 心咲は考える。この男が何者であるかを。


『何でホームレスが金貨を持っている? 普通に考えて偽物だろ。でも、こいつ豪華な服を着ている。 いや、いやいやいや、馬鹿か私は。そもそも……』


 この生き物は一体なんだ? 


 

「何か分かったか?」

「へっ!?」

 

 汚尻男爵が汗でびしゃびしゃに成りつつある心咲に語りかける。


「何も、何も分からない」

「言っとくが本物だぞ」

「……分かった。男爵の屋敷に私を連れてって」

「おお。やっとやる気になってくれたか」

「報酬は金貨3枚で良いわ」

「それだけで良いのか?」

「ええ。問題ない」


 取り敢えず金貨は専門家に見てもらわなければ分からない。


 その為にも、まず、汚尻男爵の調査がてら事件の解決を行う。


「ふふふ……」

 

 正直、心咲はわくわくしていた。


 汚尻男爵が持ってきた事件にではない。


 汚尻男爵の存在。それこそが何よりの事件だからだ!


「じゃあ、汚尻男爵の屋敷に案内して」


 

3ミ♪


 休憩を挟みつつ森の中を歩くこと15時間。屋敷に付く頃にはすっかり夜が更けていた。


「ぜぇ、ぜぇ、こんなに歩くとは思ってなかった……何があと少しよ。あと少しから14時間経ってんぞ」

「探偵なのに足腰尻が軟弱だな。ワレはこれの往復だぞ」

「化け物め……」   

「ようこそ、ここがワレの屋敷、汚尻男爵邸だ。立派であろう」


 相当古い校舎であり、蔓に覆われたその見た目は完全にお化け屋敷だった。夜の学校、しかも、普段使われていない場所となれば最恐の心霊スポットである。


 そして、何より事実として、この汚尻男爵が住んでいるのだ。もはや、お化け屋敷というよりかは、お尻屋敷と呼んだ方が正しかろう。


「やっぱり帰ろうかな……」

「また歩くのか」

「何でもない」


 どちらにせよ、この汚尻男爵の正体を突き止めるまでは、絶対に逃げることは出来ないのだ。

 

 心咲は頬をパシリと叩き、気合いを入れると校舎の中へ進んでいった。


 

 光源は燭台に灯された蝋燭の炎だけだった。所々にクモの巣が張られており非常に不気味な雰囲気である。


「蝋燭の火は誰が付けたの?」

「これは、前に住んでいた住人の持ち物だ。こう見えて全部電化製品である」

「電気通ってんの?」


 というか前の住人は一体何者だ?


「細かいことは気にするでない。取り敢えず、3階へ行こう。衣装室がある」

「衣装室?」


 玄関ホールの螺旋階段を登り、ギィギィと軋む木造の廊下を歩くこと3分弱。心咲達は衣装室とやらに辿り着いた。


「まず、これを着るのだ」

「は?」


 汚尻男爵が手に持っていたのは白と黒のメイド服だ。恐らく昔、文化祭か何かで生徒が使ったものだろう。同じものがあと9着程ある。


「何故、私がこれを?」

「犯人に探偵を雇ったことがばれないようにだ。メイドを雇ったとなれば、別におかしくはあるまい」

「まぁ、いいわ。理には敵ってるし取り敢えず着てあげるから部屋から出てって」

「安心したまえ。お洒落で利口なジェントルマンがレディの着替えを覗くなどありえん。あとその前に、これを持っておけ」

「これは……きもい」


 手渡されたのは一丁の拳銃とレッグホルスターだ。しかし、銃口部分に肌色の粘土がくっついている。恐らくお尻の形を模している。


「中に入っているのは麻痺弾だ。犯人を見つけたら躊躇いなく撃ってくれ」

「何でこんなもの持ってんのよ」

「細かいことは気にするな」

 

 心咲は汚尻男爵がいなくなったことを確認するとメイド服に着替えた。先程借りた拳銃はスカートの中に隠してある。勿論、粘土は邪魔になるのでゴミ箱に捨てた。


 部屋には姿見があったため、自分のメイド服姿を確認する。


「私、超似合ってるじゃん。ちょっと胸がきついけど。探偵止めてアイドルになるのもありかもーなんて」

「うわぁああああっ!!!」

「!?」


 突然、汚尻男爵が声をあげた。


「どうしたの!?」

「突き当たりの廊下を何者かが走って行ったのだ」

「右左どっち!?」

「左だ!」


 心咲は突き当たりの廊下を左に曲がる。部屋は教室が3つに、トイレが一つ。あとは行き止まりだ。


 取り敢えず、教室の中を確認する。

 

「男爵! 犯人が他の部屋から出てこないか見張ってて!」

「承知した」


 教室の中を隈無く探す。が、何処にもいない。となると、残るはトイレのみだ。

 

「男子トイレってこんな感じなんだ」


 先に男子トイレへ入ったのは単純に興味があったからだ。女性が男子トイレに入る機会というのはあまりないわけで。


 男子トイレの中には個室トイレが3つ、小便器が4つ並んでいる。そして、窓が開いていた。


「まさか、ここから降りて……いや、3階よここ……」


 窓から下を覗いて見るが、この高さから下に降りられるとは到底思えない。


 しかし、その後女子トイレを探してみるも、犯人は見つからなかった。


「よし、こんな時はおしっこしようっ!」


 決して心咲はおかしくはなったわけではない。

 

 説明しよう。心咲はおしっこをしている間、IQがそこそこ跳ね上がるのだ。


「せっかくだし、男子トイレでしよう」


 トイレ事態は何故か綺麗に掃除されていた。恐らく、前の住人か汚尻男爵が掃除したのだろう。


 心咲が便器の蓋に手をかけた、その時、不思議な事が起こった。


「なにこれ」


 便器の蓋が突如ガタガタと震え出したと思えば、いきなり蓋がぶっ飛び布のようなものが飛び出してきた。


「ちょ、え、何? やめてよ」


 布のようなものは心咲の体に絡み付き、トイレの中へ引き摺り込もうとしてくる。


 完全なる心霊現象に心咲は大泣きした。心咲だって女の子なのだ。

 

「止めで、許じて、もう便座に嫌いな人の写真張らないがら。許じて下さい、トイレの神ざまっ!」


 次第に心咲の下半身も恐怖でびしゃびしゃになった。


 しかし、そこで、心咲は冷静になる。IQが跳ね上がったのだ。


 心咲は力を振り絞りトイレのドアまで体を引っ張ると、体に絡み付く布をドアのロック部分に引っ掛けた。


「よし、これで」


 しかし、引っ張る力が急に強くなる。緩急を付けて何者かがトイレの中から引っ張っているようだ。


 トイレのドアは鍵部分を中心に膨らんでいった。ドアがしなっているのだ。


「汚尻男爵っ! 助けてーっ!」


 しかし、汚尻男爵には聞こえない。それもそのはず、汚尻男爵は今ヘッドフォンでボン・ジョヴィを聞いているのだ。


 ドアを引っ張られること7回目、ついにトイレのドアと鍵部分は見事に分離した。

 

「そんな馬鹿なっ!」


 繋ぎ止めるものがなくなった心咲は便器の中へ勢いよく引っ張られる。


「ひーーッ!!!」


 すると、今度は便器の中から大量の水が噴き出してきた。

 

「グエっ!」


 心咲は便器の反対側へと吹っ飛び、尻餅を付いた。


「あいたっ!」


 何が何だか分からなかった。


 体は布のようなもので雁字絡めにされ、身動きが取れない。


 そして、目の前には一人の男が立っていた。


 肌は黒い。その分、オールバックの長い白髪と綺麗に整った白髭、そして瞳が存在しない白一色の眼が一層映えて見えた。


 男はよく分からないことを口にした。願いを一つだけ叶えると。


「……夢?」


 そう思った。しかし、尻餅を付いたお尻が確かな悲鳴を上げていた。


 心咲のお尻は言った。これは夢ではない。しっかりして心咲ちゃん。と。


 であれば、導かれる真実はただ1つ。


 目の前の男が犯人である。


 心咲は男の腹部に麻痺弾をぶちこんだ。


 本当に麻痺弾が出てくるのか心配であったが、どうやら本物だったようだ。


 腹に麻痺弾を直撃した男はワナワナと震え出す。


 そして、履いていた袴を下ろすと、便器に座った。

 

「ひゃっ! 見えてる! 乙女になんてもん見せんのよ!」


 大人の男の下半身など、幼少の頃見た父親のものか、ネットの動画でモザイク加工されたものしか見たことがなかった。


 しかし、目の前にあるのはモザイク加工されていない本物だった。


「我輩はめちゃくちゃ下痢であるっ! フンフン!!」 


 男は顔を真っ赤にして叫ぶ。


 すると、目の前がモザイクになった。


 薄れ行く意識の中で心咲は思った。


『あっ、やっぱこれ夢だわ』


 しかし、これは夢ではない。


 本当の悪夢はこれから始まるのだ。

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