プロローグ『始まりの予兆』
真っ白な世界。そこには何もなく、ただただ広がる白の空間だった。
「どうして戦争が起こるか知ってるかい?」
誰かがそう言った。その問いに僕は答えられなかった。いや、答えられなかったんじゃない。答えたくなかったんだ。それが一番の正解だと思ったからだ。
答えたとしてもどうとでもなるわけではないと分かっていたから。
「答えてくれないのかい?それとも……なんにせよ君は優しいんだね。」
何を言っているのか理解は出来なかった、出会ったこともないし、何故優しいと言えるかが不思議だった。
「今はいいさ、今はね。でも今度同じ問いを出したら答えてほしい。それが君の為でもあるし、僕の為でもある。」
今の声は僕の心が生んだ幻聴だったのかもしれない。それが最後の言いたいことだったのか静寂が続く。
ああ、この時間がずっと続けばいいのに。
「……ちゃん」
「おにいちゃん」
「おにいちゃん!あ・さ・で・す・よー!」
「おはようございます。…なんだ梓か」
「なんだとはなんだー!なんだとは!」
こいつは僕の妹の梓。ちょいと頭が花畑になってしまっている。それはそうと…あまり大事ではないところを二回言うのか。我が妹ながらやはりバカなのかこいつは?あるいは天然か?
ふわぁ〜と大きなあくびをして、口をむにむにさせて、のんびりとしていると、僕の頬に妹の梓が高速で殴るという梓の得意技で、見事にクリティカルヒットを決められた。こういう時に使うのだろうか。ほっぺが落ちるという言葉は。
僕 倉主 勇太は妹に負わされたダメージを、妹が作ってくれたおいしい朝食で回復するという複雑な展開を迎えたのであった。