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異世界神様の文明開化計画〈アナザードライブ〉  作者: 記角麒麟
序章 進撃のマーシェ帝国
8/18

飛竜と氷の壁

 全高五メートル、幅三メートルの、二ホウ化レニウムを主成分に構築された、黒紫色の防壁を抜けると、上空を舞うワイバーンを、空を見上げるだけでも二頭確認できた。


(狙えるけど……)


 このライフル銃の射程距離は、およそ二百五十メートルほど。

 上空に向けて撃つのだから、弾丸の重量を加味すれば、対空射撃の場合射程が落ちる。

 しかし、彼我の距離は二十メートルあるかないか。


 俺は目測で彼我の距離を確認すると、頭を振って奴に掌を向けた。


(動かない的じゃないんだから、当たるか分かんないし……)


 とは言え、二体同時……最悪五体も同時に相手しないといけないのはキツイか……。


 隊列を入れ替えている間にやられたらたまらない。

 ……いや、八発あるんだし、二回続けても何とかなるんじゃないか?


 全弾外すなんてことはないだろうし。


 問題は二頭同時に仕掛けてきた場合だ。


 弾速はおよそ秒速八百四十メートル。

 この距離なら威力十分だし、反応もできまい。


 俺はそう考え直すと、音魔法で遮音し、ワイバーンに悟られないように守護者たちに指示を下した。


「残弾確認!ライフル用意!」


 ――ガシャガシャガシャ


 全員が、その号令とともに銃口をワイバーンの一等に向けた。

 その様子は、さながら戦車のようである。


 俺は上空でグルリと首を回すワイバーンを睨むと、偶然そいつの首がこちらを向いた。


「撃て!」


 ――ズパァァン!


 計五門の銃口から放たれた弾丸は、俺の風魔法によるアシストを受けて、その胴体を貫いた。


 それは、やつがこちらに気づくのとほぼ同時であった。


「グワァァァン!!」


 ワイバーンが仲間を呼ぶように大きく吠えた。


(拙い、五頭同時は耐えられないかもしれない!)


「残弾確認!ライフル用意!」


 仲間の叫び声に、突然仲間が血を吹き出したことに気づいて慌てたワイバーンBが、その元凶を眼に捉える。


 ――ガシャガシャガシャ


「撃て!」


 ――ズパァァン!


 今度はワイバーンBの頭部に命中した。

 しかし、まだやつの生命活動は止まっていない。


(なんて生命力だよ、コイツ!)


 一体目は胴体を貫通した。

 二体目は目をやられた。


 しかし二頭ともに、まだまだ動く。


「隊列、換え!残弾確認!ライフル用意!」


 ――ガシャガシャガシャ


 すぐさま隊列を換えて、再びワイバーンに照準を合わせる。


 しかし、Bが手負いとなるその隙間の時間に、一体目のワイバーンは咒の準備をし始めていた。


「撃て!隊列、換え!残弾確認!」


 三射目。

 今度は炎を吐き出そうとしていたワイバーンの脳天に命中すると、そいつは生命活動をやめてぐったりと崩れ落ちた。


「グワァァン!」


 しかし、それとほぼ時を同じくして、新手のワイバーンが二頭登場する。


(拙い拙い拙い!)


 間に合わない!

 今のペースだと絶対に間に合わない!


 それでも今回のワイバーンの討伐は、この世界始まって以来最速で成し遂げられたことであったが、そんなことは今の彼らに関係なかった。


 新手のワイバーンは、咒を準備しつつこちらに迫ってきている。


(距離は約百メートルちょっとか)


 俺の魔法も、銃も届かない距離からの火炎放射。


「くそっ!」


 ならばまずは、先に近い方から仕留めてしまおう。

 一瞬で総判断した俺は、守護者たちに指示を飛ばした。


「ライフル用意!撃て!」


 ――ズパァァン!


 まるで雷のような破裂音を響かせて、五発の弾丸は正確にヤツの心臓を貫き、生命活動を停止させる。


 それとほぼ時を同じくして、百メートル向こうのワイバーンから、火炎ブレスが解き放たれた。


「総員、盾!」


 俺が号令をかけると、四十人の守護者はすぐさまに身を盾の後ろへと引っ込めた。


 そして俺は、水魔法を使い、その攻撃に対抗する。


「蒼壁!」


 瞬間、守護者達の前面に、分厚い氷の壁が生まれる。


 氷の厚さは、約二メートル。

 高さは四メートルほどで、土魔法による硬化が施されていた。


「うっ……!?」


 火炎ブレスが氷の盾に阻まれるその瞬間。

 多量の蒸気が発生し、視界を覆い尽くす。


(拙った!忘れてた!)


 スズメの行使した蒼壁という魔法は、空気中の窒素分子と酸素分子を減速させ、個体を生み出すものである。

 そこに高温の炎が急にぶつかればどうなるか。


 俺は相手が炎なら冷やせばいいか程度に考えて使ったが、それが裏目に出る。


「ぐっ!?」


 突然発生する熱風の嵐に吹き飛ばされ、俺は傷を負う。


「あっつ!」


 直ぐ様水魔法で傷を癒やすと、俺は空中で躍る怪物に目を向ける。


 おそらく、このままだと盾の中は超高温になっているはず。


「全員撤退!」


 このままだとやられる!


 本能的にそう判断した俺は、防壁の外まで守護者を撤退させた。


⚪⚫○●⚪⚫○●


 飛竜がテリトリーから外れたと判断したのか。

 防壁を抜けると、もう奴らは追っては来なくなった。


(飛竜……あんなに強かったのか……)


 いや、今回のは俺のミスだ。

 蒸気圧で壁が破壊されることくらい、すぐにわかったはずなのに……。


 俺は全員が盾を放り投げるのを確認すると、全員に回復魔法を掛けた。


「大丈夫か、神様よ?」


 唇が噛み切れそうなほど噛んでいた俺を見つけて、ふとトンビが話しかけてきた。


「ごめん、トンビ……。

 俺のミスだ」


 そう言って項垂れる俺に、トンビは微妙な表情をしながら、俺の背中を叩く。


「いや、気にすんな。

 あんな短時間で二頭も倒せたんだ、十分すげぇよ」


 トンビはそう俺を励ますと、くしゃくしゃと俺の髪をかき混ぜた。


 それが俺にはどうも情けなく感じて、責任を感じて、負い目を感じて。

 もしかしたら全員を死なせることになったかもしれなかったという、その事実に押し潰されるように言葉を返す。


「それでも、あそこで俺が術の選択をミスらなければ、あのブレスは塞き止められたはず――」


「無理だ」


 しかし、そんな俺の言葉を彼は途中で遮ってみせた。


 たったの三文字で。


「なあ、神様よ。

 最初に言わなかったか?

 普通ワイバーンってのは、一頭を軍隊が相手にするような化物だって」


「……」


「ワイバーンってのは、仮にもドラゴンの一種だ。

 そいつのブレスってのは、そう安易に防ぎきれるような代物じゃねぇ。

 つまり、お前が何をしようと、あの炎は防げなかった。

 むしろ、あの爆発のお陰で火の勢いが弱まったんだぜ?

 そのおかげで逃げ出す隙きができた。

 お前の選択は間違っちゃいない」


 諭すように、ゆっくりと彼はそう断言する。


 俺は、そんな彼を恐る恐る見上げた。

 するとそこには、ニカリといつもの笑顔が、俺を見下ろしていた。


(……なんだか、安心するな……)


 どんな感じかって言えば、父親のような安心感がある。

 トンビといれば、俺は間違った道には進まないだろう。

 そう、確信できるような。


 親友のような、父親のような。

 そんな、包容感にも似たようなそれに、俺は暫く身を預けることにした。


⚪⚫○●⚪⚫○●


 暫くして、俺は再び同じ戦法で飛竜に臨むことを守護者たちに告げた。


 そこに文句を垂れる言葉は放たれては来ず、俺は少しだけホッとする。


(大丈夫だ。

 二頭も倒した。後三頭だけ。

 行ける、次こそは上手く行く!)


 俺は両頬を掌で引っ叩くと、気合を入れるように叫んだ。


「やるぞぉ!!」


「「おおおぉぉぉぉ!!」」


 それから先は、快進撃であった。


 防壁を難なく突破した俺達は、警戒状態だったワイバーンに銃口を向ける。

 当然ワイバーンはその予備動作が何を示すか理解していたので、空へと羽ばたき、一気に高度を取ろうとする。


 しかし、そんなことはさせない。


 俺は飛竜の翼が動く事を察知すると、直ぐ様その翼の皮膜を、創造魔法で創り出した斧で切り裂いた。


「ライフル用意!」


 間髪入れずに、俺は守護者達に支持を飛ばす。


 四列横隊になった彼らは、左五人は頭を、右五人は心臓を狙うように照準を定める。


「撃て!」


 俺は風魔法で弾道を誘導し、確実に当たるように術を使った。


 ――ズパァァァァン!


 さっきよりも大きな銃声が、訓練場内に木霊する。


「隊列、換え!残弾確認!」


 ワイバーンが生命活動を停止したことを横目に確認すると、俺は次々と指示を飛ばした。


 すると、案の定炎を準備しているワイバーンを発見する。


「ライフル用意!撃て!」


 逸早くそれに気づいた俺は、守護者に指示を飛ばして、そのブレスを放とうとしているワイバーンを射撃する。


 直後、雷のような破裂音が響き渡り、またもやワイバーンはその一生に幕を閉ざした。


(これで、あと一体!)


 俺は視線を巡らせて、最後の一体を探す。


 しかし、どうやらこの場にはいないようだった。


「……どこに行った?」


 俺は隊列を五列縦隊に編成し直させると、守護者たちを連れて訓練場の防壁を伝って最後の一頭を探す。


 そうやって探していると、訓練場となっているコロッセオの外壁に大きな穴が空いていることを確認する。


「トンビ」


「間違いねぇな。

 ヤツは中だ」


 そう言いながら、たまたま最前列に来ていたトンビは、内側に崩れている壁と、まだ埃が少し舞っていることを指し示した。


 俺は守護者達に指示を出すと、そのままコロッセオの中へと足を踏み入れるのだった。

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