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異世界神様の文明開化計画〈アナザードライブ〉  作者: 記角麒麟
序章 進撃のマーシェ帝国
6/18

飛竜と鉄砲

 その日、俺は護衛にトンビを連れて、例の訓練場へと向かおうとしていた。

 しかし、そんな俺の前に土下座するようにして待っていた人物がいた。


「お願いします、神様!」


「……唐突だなぁ」


 スズメは苦笑しながら、五歳児に頭を下げる十代後半の男を見下ろした。


「で、なんの用事?」


 面倒臭いが、聞いてあげなければ何度でも鬱陶しく付きまとわれそうだったので、俺はため息をつきながらそう尋ねる。


「ご厚意に感謝します!

 実は、ここから東へ行ったところにある集落に、巨大な魔物が現れ、壊滅状態になってしまいまして」


 俺は彼の言葉を聞いて、心底嫌そうな顔をする。


 うっわ〜……。

 何、もしかしてその魔物を討伐してきてほしいの?

 面倒だなぁ……。

 そういうのはトンビに頼んでよ……。


「つきましては、私共一同を、この集落へ移住させていただきたく!」


 と、思っていたら、どうやら違うようだった。


「……移住?」


「はい!是非!」


 男はガバリと頭を上げると、必死そうな表情でそう訴えかける。


(移住……。

 移住かぁ……)


 人口が増えることはいい事だ。

 だが、今は食料に余裕があるかわからない。

 農業担当者に一度話を通さないと、勝手に決めてはこちらが餓死する可能性が出てくる。


 俺はちらりとトンビに視線を向けた。

 すると彼は、俺の方に向けて一つ頷くと、土下座している男性に問いかけた。


「何人だ?」


「え……?」


「移住するのは何人だと聞いてる」


 すると、男はパッと顔をほころばせて、その質問に回答する。


「丁度七十人です!」


 七十!?

 予想してたよりちょっと多いなぁ。


 そんな俺の驚いた様子に、男は気づくと、概要を説明した。

 曰く、狩に出ていた男たちが、遠くでその魔物(ワイバーンだったらしい)を見つけて、それがやってくる前に逃げ出したのだという。


 しかし、逃げ遅れた人が何人かいて、その人たちはおそらくワイバーンに食われて死んだらしい。


(ワイバーンなんているのか、この世界には)


 今までそんなメジャーな魔物に出会ったことがないから、正直驚いた。


「トンビ、ワイバーンってどれくらい強いの?」


「行商人から聞いた話だと、大陸では軍隊で対処に当たらないとマージンが取れないらしいぞ」


 軍隊がどれほどの規模なのか全くわからないが、少なくとも家の守護者が当たるには大きすぎる獲物だな……。


「その、ワイバーンはどこからどう来たんだ?

 その、お前たちの集落に」


 彼らは東から逃げてきたと言った。

 つまり、ワイバーンは西ではなく東の方向にいることがわかる。

 そして、そんな魔物が近くにいるというのならば、こちらも対処せざるを得なくなってしまうだろう。


 そんな意図も込めて、俺は男にそう尋ねた。


「南の方角で、最近変な建物らしきものが現れた場所です」


「なん……だと……!?」


 それって、もしかしなくても俺が造った訓練場じゃないか!

 硬化の魔法を加えたとは言え、それがいつまで持続するものなのかわからない内以上、放置する訳にはいかない。

 それに、最近忙しくて行ってなかったから、もしかしたら巣にされているかもしれなかった。


「どうすんだ、神様?」


 そんな考えを読んで、トンビはそう俺に問いかける。


「決まってる。

 トンビ、お前はミドリさんのところに行って、移住可能か聞いてこい。

 俺は一人で彼処に行く!」


 彼処は俺の実験場も兼ねている上に、別荘でもある。

 それに、外観も結構こだわって作ってるんだ、壊させる訳にはいかない!


「待てよ神様!正気か!?

 いくら神様の魔法がえげつないからって、相手は仮にもドラゴンの一種なんだぞ?」


「でも!」


「建物ならいくらでも作り直せる!

 だが、死んじゃ元も子もなくなる!」


「……」


 俺は、彼の正論にぐうの音も出ず、口をつぐんだ。


「……あとは俺がなんとかするから、神様は有事に備えて武器防具を用意しててくれ」


 トンビは頭を掻きむしり、仕方なさそうにため息をつくと、そう告げた。


「……ごめん」


 そんな自分に、俺は情けなく感じて、小さくそう零した。

 しかし、それに対するトンビの答えは、それを否定するものだった。


「そこは、ありがとうって言うんだぜ、神様よ?」


 彼はそう言ってニカリと笑うと、ほとんど空気になっていた男を連れて、その場を離れていった。


 俺はそんな彼の後ろ姿を見ながら、小さく微笑む。


「……うん、ありがとう」


 小さくつぶやかれた言葉は、果して彼に届くことなく虚空へと吸い込まれるように消えていった。


⚪⚫○●⚪⚫○●


 トンビが離れた後。

 俺は黒板に何やら図のようなものを描いていた。


「…………」


 咒はイメージによって構築される。

 咒は呪力によって構成される。

 呪力は肉体とは違う位相にある、呪力を貯める器官に保存され、そこから使用される。

 なので、一度に扱える呪力量は、その人物の体積に比例する。


 俺は現在五歳。

 身長は百センチもない。

 そんな俺は、相応に呪力が低い。


 しかし、咒はイメージが的確であればあるほど、その消費するコストは低く、効率的になっていく。


 これは、あの訓練場の建設によって判明した事柄である。


 コストの削減は、イメージの明確さ以外にも、練度というものがある。

 同じ術を何回も使えば、次第にその術で消費する呪力量が小さくなるというものだ。


 現在の俺の創造魔法の練度は、訓練場の建立などによって、かなりの水準まで高められている。


 その上でイメージを明確にしてアイテムを創造することで、更にコストの削減を務めるのだ。


 一度創ってしまえば、もう慣れの問題なので、作っているうちに休憩時間も短く、作成時間も短くなる。


 俺は書き上げた図を見ながら、よしと気合を入れると、その通りに創造魔法を行使した。


⚪⚫○●⚪⚫○●


 しばらくすると、作業部屋に入ってくる人がいた。

 西の集落からやってきて、住み込みで働いている女中である。


 俺は慣れた手つきで武器を組み立てながら、彼女の言葉に耳を傾ける。


「神様、お客様が参りました」


「今忙しいんだけど。

 なんの用事?」


「北の方角にある、ラセという村から参られた、駐屯兵隊の副隊長様です」


(村?集落じゃなく?

 あと駐屯兵隊って言った?)


 怪訝な表情をして、一瞬手を止めるが、しかし今はそんな時ではないと作業を再開させる。


「話だけ聞いて、メモを取っておいて。

 あとで見る」


「かしこまりました」


 女中は、見向きもせずにそう返答する俺に、深々と頭を下げると、その部屋を後にした。


 暫く作業を続けると、かなりの数の武器が出来上がった。


 作る武器に関して、さほど知識がなかった俺は、手探りで最初の一丁を完成させると、あとはそれをコピーして創り出していた。


 そうして出来上がったそれは、この集落にいる守護者と同じ数にまで増える。


「うし、できた!」


 俺は、への字型で黒い艶を見せるそれを並べてみると、満足そうに口角を上げた。


 俺が手探りで作った兵器。

 それは銃であった。


 特殊な能力は付与できないが、形だけならば作れるだろうと踏んで、仕組みを頭の中で考えながら、必死に図に描き出して完成させた、ライフル銃。


 まだ自動拳銃とまでは行かないが、それでもこの時代に回転弾倉の取り付けられたライフル銃があるのは、大きなアドバンテージとなるだろう。


 因みに装弾数は八発。

 中折式ではなく、シリンダーを横にスライドさせて装填するタイプの銃だ。

 薬莢の排出をどうするか考えたが、流石にそこを自動で行う手立ては思いつかなかったので、装填するときに出すという形を取ることにした。


 経口は十ミリ。

 一回目の作成で、テストとして試射をしてみれば、かなり煩かった。


 お陰で、周りに人がいっぱい集まってきてしまったが、風魔法と火魔法を混ぜて爆発を起こす実験をしていたと言い訳して誤魔化した。


 銃の威力はかなりの物だ。


 ダイヤモンド製の厚さ五センチの板を、半分ほどまで削ることができたのだから。


 ちなみに弾丸は、創造するときに圧縮して高度を増した上に、硬化魔法を施したウルツァイト窒化ホウ素を使用した。

 ウルツァイト窒化ホウ素は、生前では「世界で最も硬い物質」と言われていたもので、高硬度鋳鉄の切断にも使われている。


 俺は完成した兵器のでき具合を確認して満足に頷いた。


 ……そういえばトンビの方はどうなったのだろう?


 俺はふと気になって、作業部屋の扉を開けた。


「うわっ!?」


「うおっ!?」


 扉を開けると、そこには一人の男性が立っており、いま正にノックをしようという体勢で仰け反っていた。


「なんだ、トンビか」


 俺は、見覚えのある無造作ヘアーのフケ顔を見上げると、安心したように胸をなでおろし、しかし次の瞬間その意味を悟った俺は、顔を顰める。


「神様よ、武器の準備はどうだ?」


「それなら問題ない。

 あとは盾と鎧で終わりだ」


「そうか……」


 トンビはそうつぶやくと、ボソリと「思ったより時間かかるな……」とボヤく。


「それで、お前がここに来たってことはつまり……」


「ああ。

 丁度、さっき斥候部隊が帰ってきたところでな。

 話によれば、ワイバーンは三頭らしい」


「てことは、群れか」


「ああ。

 巣の規模は壁で見えなかったが、目視した限りでは三頭いる。

 これじゃあうちの集落だけじゃ対処できない」


 彼は心底嫌そうな顔をしながら、そう言って肩を竦めた。


「ところで今更なんだけど、ワイバーンってどんなの?」


 ずっとワイバーンの事を、ゲームとかで見るあんな感じかなと思って聞いていた。

 しかしそういえばここは異世界で、そんな知識が役に立つ可能性は極めて低いだろうと考え直した俺は、本当に今更ながらそんな質問を彼にぶつけてみる。


「まあ、空飛ぶでかいトカゲだな。

 尻尾にでっかいコブみたいなのがついてて、そこには毒針が生えている。

 もし喰らえば、一瞬であの世行きだな。

 ドラゴンとの違いは、後ろ足の有無で、ワイバーンには後ろ足が無い」


 と、なると、ほとんどセオリー通りってことか?


「じゃあ、そいつしっぽでバランスとってたりする?」


「お、よく知ってるな。

 ワイバーンを狩るときは、まず尻尾を狙う。

 そうすれば飛べなくなるし、何より脅威の毒針による攻撃がなくなる」


 俺は、その言葉を聞いてふむと考える。


「ちなみに、そいつどれだけ硬いの?」


「んなぁ〜、結構硬いぜ?

 生半可な武器だとすぐに折れるしな」


「じゃあ、どうやって退治するんだ?」


「斧か、もしくは爆弾がいいだろうな」


「大砲は?」


「大砲?

 何それ?」


(大砲、この世界にないのか……?)


 爆弾はあるようだし、銃についての説明はかなり簡単にできそうだな……。

 それと、聞いた話によれば、あの銃でも十分に活躍できそうだ。


 俺は一つ頷くと、ニヤリと笑みを浮かべるのだった。

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