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異世界神様の文明開化計画〈アナザードライブ〉  作者: 記角麒麟
序章 進撃のマーシェ帝国
15/18

慟哭

 作戦会議が終了すると、俺は来る決戦に備えてとある物を創っていた。


「ホント、神様ってものづくり好きだよなぁ……」


 そんな様子の俺を眺めながら、トンビはポツリと言葉を零す。


 現在、俺が行っているのは機織りである。

 と言っても、織られているのは、特殊な合金による細いワイヤーである。


 基本の素材はCNTと呼ばれるものだ。

 それに鋼の糸を編み込んで、中でハニカム構造を形成し、衝撃に強い素材を作る。

 そのための特殊な機織り機を使って、俺は金属の布を織っている。


 この機織り機を作るのにも苦労した。

 もともと機織り機の仕組みなんて知らなかったし、機械工学の知識なんてほとんど無い。


 ほぼ直感で作り上げたのだ。


 制作にかかった時間は四時間ほど。

 すでに日は高く登り、真昼の空気が流れている頃合いだった。


 昼食はワイバーンの肉が残っていたので、それの干し肉と穀物(お米ではなく、この世界特有と思われるイネ科植物)で済ました。

 ワイバーンの肉は、かなり味が濃かった上に固かった。

 トンビは喜んで食べていたが……。


「暇ならちょっとくらい手伝えよ」


 俺は、そろそろ慣れてきた手つきで竿を操作しながら、トンビに愚痴を吐く。


「いんや。

 俺は今神様を護衛するのに忙しい」


 言って、欠伸をしながらソファへと背中を預け、横になるトンビ。


 俺は盛大なため息をつくと、踏み車を踏む。

 すると、ちょうどタイプライターの様にレーンが一つズレる。

 これを何回も繰り返して、素材となる生地を作る。


 創造魔法では、あいにく完成品をそのまま創り出すことはできない。

 せいぜい大まかな形やサイズを設定できる程度だ。


 組み立てるのは残念ながら、すべて手動である。


 本来なら、この織機も半自動化したかったのだが、どうすればいいか思いつかなかったため、この有様であった。

 いつかは全自動化を目指すことを、心の中で決意する。


 数時間ほどして、俺は「くぁ……」と小さなあくびを漏らした。

 気になって中庭に続く窓を見てみれば、かなり暗くなっていた。


 ソファの方へ振り返れば、すでに眠りについているトンビの姿がある。


「コイツ……」


 俺は盛大なため息をつくと、そういえば最近ずっとたため息をついているな……と苦笑した。


⚪⚫○●⚪⚫○●


 あれから一ヶ月が経った。

 未だに来ると思われていた刺客は一切やって来ず、集落の警戒態勢は徐々に緩み始めていた。


 どちらかといえば俺も、もうアイツラ来ないんじゃねぇの?

 と思い始めていた次第である。


 と、言うわけで会議が開かれることになった。


「なあ、すぐ来るんじゃなかったの?」


 俺はジト目で睨みながら、そう訴えかける。


 あれからもう一ヶ月だ。

 あの時コイツは、刺客は今夜から明朝にかけてやってくるだろう、的なことを言っていたような気がするが、そんな気配は一切やってこない。


「もう逃げたのでは?」


 とは、第一分隊を任せらている分隊長のハヤブサの言葉である。

 彼の言葉に、その場に集う誰もが首を縦に振ると、キツネは「うぐっ……」という奇声を挙げてたじろぐ様子を見せた。


「どうなんだ?」


 俺がそう追求すると、彼は決まりの悪そうな目で顔をしかめながら、弁明を始めた。


「い、今は守護者たちの気が緩んでいる時期です……!

 こんな時に限って、危険というものはやってくるもの。

 忘れた頃になんとやら、と言うやつです。

 ですから、厳戒態勢はそろそろ強め直さなければと――」


「それで、来なかったらどうするんだよ?」


「そ、それでも、警戒するに越したことはありません!」


 キツネは必死そうに叫ぶが、でもなぁ……と俺は集められた分隊長、分隊副隊長たちに視線を巡らせる。


「そうは言うが、いつまでもこういう事に人員を欠いているのは、どちらかと言えば損にしかならない気がするんだがな」


 最近、集落の人たちは現状の生活をどう感じているのか、ということでアンケートを取らせてもらった。


 結果、何だか息苦しいとか、早く自由に外に出入りしたい、だのという苦情が住人から寄せられている。

 俺もそろそろ警戒を緩めてみてはどうかと思うのだが。


(それに、そろそろ外交を元の状態に戻さないと、物資が底をつきそうなんだよなぁ……)


 外交。

 他の集落との交易には、現在色々と取締がきつくなっている。


 万が一、行商人に紛れて敵が侵入してこないように、という判断に基づく政策だったが、これが意外と苦しいのだ。


 この集落の人口は、そこまで多いものじゃない。

 徐々にだが、訓練場住まいだった人達もこちらへと移住を開始しており、現在では十五世帯ほどになっている。


 土地は広いので、住む分には問題ないが、食料自給率という観点から見れば、あまり豊かとは言えない。


 作物の促成栽培だっけ?

 あれの仕組みはなんとなく想像がつくんだが、やったとしても本当に一瞬で実がなるわけじゃない。

 そもそもそんなことになったら土が死ぬし、植物自体に負担が掛かって、変なことになりかねない。


 この世界には、咒と呼ばれる魔法のような現象が普通にある。

 その影響が何にどう現れるかわからない以上、無茶なことは避けたいのだ。


 それでも、まあ色々頑張ってはいるのだが。

 何しろまだ日が浅いため、結果がわからないのが残念だ。


 閑話休題。


 俺はそういった事情をキツネに説明してやると、周りのやつらはウンウンと頷いて、それに賛同する。


「し、しかし……!」


 むぅ……。

 懲りないやつだな。


 俺は内心肩をすくめると、黒板に向かって考え始める。


 考えながら、黒板に構想を書き出し、あーでもないこうでもないと書いては消し、書いては消すを繰り返す。


「……よし、こんなもんだろ」


 俺はできた図に満足げに頷くと、それを全員が見えるように指し示した。


「これは……なんだ?」


 開口一番、トンビは頭上に「?」を浮かべる。


「手錠という。

 犯罪者の手首と、柱に掛けることで縛る道具だな」


 俺はそう言うと、目の前でそそくさと部品を作り出し、手錠と鍵を作ってみせる。


「縄で良くないか、神様よ?」


 実物をとりあえず一個作ってみて、俺はそれをテーブルに置いた。


 それを見たトンビが、怪訝そうな顔をする。


「いいか、トンビ。

 縄だと、縛るのに時間がかかるだろ?」


「んなの当たり前じゃねぇか。

 だから守護者には拘束術を覚え込まされる」


 何を言ってるのかわからない。

 彼はそんな様子だった。


「だな。

 だが、これは素人でも人を縛ることができる」


 俺はそう言うと、ユリを側に寄せて、手錠の実演を行う。


「ここをこうやって、こうすれば――」


「ぅえ!?なになに?

 どうなってるんですか神様!?」


 カチリ、とユリの細い手首に、無骨な銀色の手錠が、テーブルの足を跨いで掛けられる。


 ユリが暴れて、着ていた貫頭衣のような服の裾がはだけ、一瞬だけ彼女の下着が見え……え?


(穿いて……ない……だと……!?)


 そこに一瞬だけ見えたのは、未だ未熟な幼さが残る、割れた肌色だった。


 ハイテナイが、穿いてないだった。


「これで、拘束は完了だ」


 俺は頭を振ると、あれは幻覚だったに違いないと記憶を無理やり修正した。

 忘れることはできなかったんだ。

 俺には刺激が強すぎた。


 たとえ、それが小さな子供のものだったとしても。


「「おおぉ……!」」


 俺は手錠で繋がれたユリをみんなに見せると、彼らは何か、別な意味も孕んだため息をついた。


(こいつら、絶対何か……)


 いや、考えるのは止そう。

 精神衛生的にも、俺の願望的にもそれはあまりにも汚らしすぎる。


「そんで、解除するときには、この穴にこの突起を差し込んで、クイッと回してから、ここの鍵穴に鍵を入れて……ほい、開放完了」


 俺はユリを急いで開放してやると、早く立たせてあげることにした。


 それから、俺は後でこれと同じものを全員分支給するという話をしてから、なぜこの話をしたのかを話すことにする。


「俺が提案するのは、見張りローテーションだ」


「見張り……なんだって?」


 トンビが頭を掻きながら尋ね返す。


「見張りローテーション。

 見張りをするグループを少人数のグループに分けて、ローテーションを組むんだ」


「ろーてーしょん?」


 今度はどうやらユリが首を傾げる番であるようだ。


「交代で任務に就くってこと。

 今までは厳戒態勢ってことで、総出で警戒してたからな」


「へぇ。

 神様って、やっぱ物知りです!」


 ユリはニコリと微笑むと、そんな感想を述べた。


 こうして、警戒態勢は緩められることとなった。

 それが、オウガイの誘導であるということにも気づかずに。


⚪⚫○●⚪⚫○●


 オウガイは空から飛来してきた鳥が目の前に着陸すると、閉じていた目を開いた。


「……」


(概ね、作戦どおりに踊ってくれているようで何よりだな)


 彼はニッと口角を上げると、その鳥の頭に指を翳した。

 するとその指から黄色いオーラのようなものが滲み出て、鳥は一枚の札へと姿を変える。


 その札には、何やら魔法陣のようなものが描かれていた。


 オウガイは札を懐にしまうと、背後に控える獣人の三人と、五人の軽鋭に視線を投げ入れる。


「作戦の決行は一週間後じゃ。

 よいな?」


「「ハッ!」」


 オウガイがそう言えば、彼らは短く返事を返した。


「かなり時間は掛かったが、これでもうすぐ帰ることができる……」


 彼は木の葉に覆われた空を見上げると、目を瞑って一言呟く。


「もう……原始的な食事は嫌じゃぁ……!」


 それは、彼らの思いを代弁した慟哭であった。

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