ノロノロ
2011/8/15にメルマガの「日刊 毒舌ニュウス by KuR0NeK0 怪談特集」で配信されたものです。
夏だなあ、夏はやっぱり怪談だよなあと思って引っ張り出してきました。
文章に統一性が無かったので、少々修正した以外は、配信いただいたものと同じです。
一つ、不思議なお話をしたいと思います。
私は子供の頃、父の仕事の関係でアメリカの東海岸にあるノースカロライナ州にいました。ここはインディアン達がたくさん住んでいることでも有名ですが、化石がたくさん見付かることでも有名です。肉食恐竜の全骨格が出てきた日には、学校中大騒ぎでした。
私たちは学校が終わると、バイクにまたがって化石掘りに行ったものです。無論大人達がやっているように爆薬を使って大々的には掘れません。ツルハシを使って、地層をブッ叩くだけでも、運がすごく良ければ巨大なサメの歯が見付かったりしました。化石掘りは、子供達の身近な楽しみの一つなのです。
その日、私は大人達が爆破させた跡地にいました。大人達は大きな恐竜の化石にしか興味はありません。地層を爆破させ、その震動で大物が隠れているかどうかをコンピュータで見るそうです。それで大物がなければサッサと引き上げます。ところが子供達にとっては、そこは宝の山でした。バキバキに割れてはいても、大きなアンモナイトが出てくるのです。それをボンドでくっつければ、まさしくお宝です。
既にちょっと暗くなっていましたが、私は夢中で化石を探していました。すると、サムとイリーの兄妹がやって来ました。彼らはインディアンです。私は笑って手を振りました。彼らも歯を見せて手を振ってくれました。私たちは良く一緒に化石を探しました。こう言っては何ですが、やはり肌の色や髪の色が近いと親近感が湧きます。サムは海百合の化石を見付けると、これは僕らの部族の神様が笛として使っていたんだと、彼らの神話の話をしてくれました。私はサムの話が面白かったし、私たちは仲が良かった。ワイワイ言いながら化石を探していると、ジョン、トーマス、キムらがやって来ました。
「何だ、お前らも来てたの?」と、屈託なく笑います。彼らは、いわゆる普通のアメリカ人です。彼らは流行の歌を大声で歌いながら同じように化石を探します。
ふと取り上げた石に、大きな黒い塊が付いていました。のっそりと乗っているその黒い塊は、巨大な三葉虫に見えなくもありませんでした。僕はそれを、イリーに見せました。イリーはさっと顔色を変えると、サムの服を引っ張りました。サムはそれを見ると、
「マサル、それをジョンに渡すんだ。ジョンにあげるんだよ」
と言いました。私は訳が分かりませんでしたが、サムとイリーの真剣な表情に押されました。
「ジョン、良いもの見付けた。パスするぞ」
私はそれをジョンに渡しました。ジョンは嬌声を上げて珍しがっていました。私はサムとイリーに急かされ、その場を離れました。
翌日、ジョンとトーマスが学校に来ませんでした。僕が二人の席を見つめていると、サムがやって来ました。
「あれ、ノロノロって言うんだ。どうやら捕まったのはジョンとトーマスだけだったんだね」
私はサムを見上げました。
「あいつら、僕のことを原始人と言って笑った。
インディアンは原始人だって。だから僕は神様の笛を吹いてノロノロをあそこに呼んだんだ。
まさかお前がノロノロを拾い上げるとは思わなかったから、焦った」
私は意味が分からなくて、少し笑ったと思います。
「僕はノロノロを呼んだ。だから、もう会えないよ。バイバイ、マサル」
私はサムの背中にバイバイと言いました。それきり、サムには会えませんでした。
後日、サムのことが気になった私はサムの家を訪ねました。インディアンが隔離され、居留地が定められていたのは遠い昔の話です。サムのご両親と、イリーは普通のアパートに住んでいました。
私はサムと最後に会った日に話してくれたことをご両親に話しました。イリーは途中で席を外してしまいました。私の話が終わると、お父さんが深い溜息をつきました。
「君がノロノロに捕まらなかったのは、とりあえず良かった。ジョン達はノロノロに捕まったのだろう。そして、私の息子もね。」
お父さんは、インディアンの神話を詳しく話してくれました。
「ノロノロはその昔、まだ神が大地にいた頃だよ、人に操られるだけの存在だった。召使いのようにね。ノロノロはずっとそうだった。だから、人間が大嫌いで、でも人間の命令には従ってしまう。
サムは神の笛でノロノロを呼んだ。知っているかな、海百合の化石だよ。ノロノロは人間であるサムの命令を聞いてジョン達を食べてしまった。そして、大嫌いな人間の命令を聞いてしまったことに腹を立て、サムも食べてしまった。
ノロノロは黒くてぼんやりした存在なんだ。大きさは自由に変えられる。そして無数の歯を持ち、人をばりばりと食べるそうだよ。
ノロノロのお腹の中は、全く光のない漆黒だという。そして食われたものは輪廻も無く、宇宙が縮み始めるまでその中にいるそうだ。つまり、永遠なんだ」
お母さんのすすり泣きが聞こえます。
「この大地は私たちのものだった。いや、神々のね。だけど、彼らはそれを奪った。私たちからも、神々からも。だからってサムがやったことは許されることじゃない。でも、私には理解できるのだよ、あの子の気持ちがね」
ジョン、トーマス、サムがいなくなったのに、周りはとても平静でした。まるで、何もなかったように、まるで最初から彼らがいなかったかのように。私は三人がいなくなった教室に半年程いて、雪が降る頃に帰国しました。
2011/8/15日刊 毒舌ニュウス by KuR0NeK0 怪談特集
怪談。ネタが無いなあ。
何とか面白い話にならないかなあとは思うのですが、ない。