K
「まぶしい・・・」
春は苦手だ。暖かい日差しが、きらきらしすぎているから。柔らかい風が、なにかが起こりそうな予感を運んでくるから。むせかえるような花の香りと、新しいエネルギーが充満するから。木々の芽吹きが、自分を急かしているような気がするから。
新入生を迎え、キャンパス内は浮足立っている。そんな中、自分だけが変わらない。変われない。うつむきながら、ゆっくり、ゆっくりと教室へむかう。その足を支えているものが何なのか-義務感なのか、意地なのか、恐れなのか・・・自分でもよくわからなかった。
貴恵は24歳。普通であれば、もう働いている年齢だ。大学3年生。大学に入学してから4度目の春を迎えた。1年生の時、同じ教室にいた友達は4年生になっている。当たり前だが、教室についてあたりを見渡しても知っている顔はひとつもなかった。
24歳。世間では、まだまだ若いお嬢さん・・・と言ってもらえるだろう。だが、自分は「ばばあ」だと貴恵は思っている。それだけで顔をあげられなくなる。最近はほうれい線も気になり始めた。肌のキメやハリも周囲と比べるまでもなく、どんなに着飾っても自分のみすぼらしさがにじみでるように感じられ、恥ずかしくてたまらなかった。
アルバイトも、サークルも縁がなかった。「はやくかえろう・・・」貴恵はぼんやりとそう思った。