第六話 勧誘
「おう。やるじゃねぇか坊主! 恐れ入ったぜ。それにしてもお前さんの戦闘スタイル、どっかで見たことがあるような気がするんだが、俺たち初対面だよな?」
イベントクエストクリア後、誰一人欠けることなく安どの表情で互いの戦果をたたえ合う中、ヴェイグは門のすぐ横で壁に背を預けているスレンに声をかけた。
メニュー画面の『アイテム』からドロップアイテムを確認していたスレンはヴェイグに視線を向けることなく答えた。
「男に言うなんて新手の口説き文句か? 悪いが俺とおっさんは初対面だよ」
(そのごつい顔……一度見たら忘れられないだろうし)
口には出さないように軽口の返答。
「ただ、俺の戦闘スタイルについては分かんないな。クエスト中に戦闘だけ見かけた可能性もあれば、ASOGPの中継で見たかもしれないだろ」
ASOGP──────Another Select online Grand Prix
年に一回ASO内で行なわれる大会のことである。予選を通過した者は、本選トーナメントに出ることができ、優勝者にはこの大会でしか手に入らない装備が手に入る。
ASOGPでは予選から決勝戦までの内容が中継で見ることができる。スレンも毎年出ているため、試合中継に何度か映ることがあった。
「いや、でもそいつは確か二刀流だったような……」
「──────あ」
「ん? どうかしたか?」
「いや。もしかしたらあの人の戦闘スタイルと勘違いしてるのかもな」
「あの人?」
懐かしく思い出すように、だけどどこか悲しげな表情をしながらぽつりと呟く。ヴェイグがその先を聞いても、なんでもない、とはぐらかされてしまった。ヴェイグも気にはなったがそれ以上何も聞いてこなかった。
「そうだ坊主。これもなんかの縁だ。フレンド登録しとこうぜ」
「いいよ。ただ、そろそろ坊主ってやめてくんない? おっさん」
「ならそっちもおっさんと呼ぶのは止めろ。これでもまだ二十代なんだぞ」
「……冗談だろ」
「おい!」
フレンドリストに新しい名前が載るのは何ヶ月ぶりだろうか。そんなことを思いながら彼は笑う。
これからどうするのかをヴェイグに聞いてみるとギルドを創ると答えた。ついさっきの戦闘でどこのギルドにも所属してないプレイヤーが大半だったらしく、ヴェイグが誘ったらしい。ギルド名はまだ決まってないらしい。
「坊主もどうだ? 俺たちのギルドにはいんねぇか?」
誘われるとヴェイグを見てから空を見上げる。データによってできた現実と見間違うほどの青空。雲が綿あめのようにふわふわと浮いている。
少し考え込み、首を横に振る。
「悪いが遠慮しとく。一応、別のギルドに籍を置いてるからな」
「なんだそれならしかたねーな。けどなんですぐに答えなかった?」
「ん……いや、ほかのギルドメンバーがログインしてないから現状俺一人だから一旦抜けようかと考えたんだよ。ただそうすると色々とめんどくさいから止めただけだ」
一度ギルドに入り、そこから抜けるときにはギルマス……ギルドのトップに許可をもらわないとできない。いや、正確には許可がなくても抜けることはできるが、もっとめんどくさいことになるため今のままを選んだ。
「そうか。坊主がメンバーになったら色々と心強いと思ったんだがな。ま、しゃーない。ギルドメンバーじゃなくても俺たちはもうフレンドだからな。困ったことがあったらいつでも連絡してこい」
「そうさせてもらうよ」
二人だけで楽しそうに喋ってるのを見てた他のプレイヤーたちが二人の会話に参加してきた。これからどうするか、これを中心に話し合う。
二時間を過ぎたころには話は終わり、ヴェイグはギルドメンバーを連れて都市内に消えていった。
一人残ったスレンは宿屋《やすやす亭》目指し歩き始めた。これからこの世界で生きていくため、今日から本物の家になった宿屋。部屋に戻ると大きくため息をつく。フラフラと蛇行しながら最後には死んだようにベッドに崩れ落ちた。そのまま少年は夢の世界へと旅立っていった。