第五話 都市防衛戦
【特殊クエスト】都市防衛戦
【クエスト内容】迫りくるモンスターの群れから都市を守れ
【勝利条件】モンスターの全滅
【敗北条件】プレイヤーの全滅もしくは防衛都市へのモンスターの侵入
目の前に現れた半透明の画面。
スレンを含め、ここにいるプレイヤーたちには見覚えのある画面。これは数か月に一回定期的に行われるイベントクエストであり、防衛に失敗すると防衛対象の都市の機能が数日間使えなくなる。
(もしこのクエストで敗北条件を満たして都市機能が使えなくなったら洒落になんないな)
すでにスレン以外のプレイヤーたちは戦闘を開始していた。銃を扱うもの。拳一つで挑む者。鞭を使って変幻自在にモンスターを翻弄するもの。あちらこちらで起こっていた。その中、ヴェイグは最前線で一人暴れていた。両手に持つ大剣を力いっぱい振り回し、次々にモンスターをなぎ倒していく。
「すげぇな……俺も行くとしますか」
グッ、と脚に力を籠め、一気に大地を蹴る。それはまるで風の様に集団を駆け抜ける。50mも離れていた距離を一瞬にして縮める。敵はゴブリンが5体。その内、一体はストレートボアに跨ってロデオしている。
ストレートボアに跨るゴブリンを先頭に4体のゴブリンが後ろからついてくる陣形。ストレートボアの前でさらに足に力を込める。つま先部分の大地が小さく割れた。刹那、ストレートボアに跨るゴブリンの背後を取る。
「まずは一つ」
煌めく一閃。周りのゴブリンたちにとっては何が起きたか理解できずに、ただただストレートボアの上に立つスレンと頭部が転がり落ち、頭脳を失った体躯が崩れ落ちる姿を見上げるだけだった。
スレンの右手には左腰に差していた斬刀【暁烏】が握られていた。
烏刀【暁烏】。刀武器、烏刀シリーズの一つ。
鍔を持たず、柄から切っ先まで弧を描くことのない、まっすぐ伸びた刀身。夜闇を連想させる漆黒。しかしその中に曙色の暖かな線が刻まれていた。それはまるで夜明けを知らせる烏のよう。
【暁烏】はレアリティが非常に高く、今では入手不可能な武器。
その美しい曲がることも歪むことのない真っ直ぐな刃。フォルムや色合いから見ても芸術性にも優れた一品である。
「ギ……ギイイイイイ!!!」
冷たい目で見降ろされるゴブリンが我に返ったのか、手に装備している剣を振りかぶりながら跳びよってきた。それに同調するように残りのゴブリンも一斉に跳びかかる。
あと数センチで刃がスレンに届くといった瞬間、無数の斬撃が四方から迫るゴブリンを切り裂いた。細切れとなり、落ちていくゴブリンは地面にぶつかった瞬間ガラスの様に音を立てて割れた。
「あとはお前だけだな」
そういって足元のストレートボアに視線を落とす。
激高したスレンを背に乗せたまま走り出す。うぉ、と一瞬グラついた体を何とか留めた。まっすぐ直線するストレートボアの正面には《アグリス》の門があった。こいつはこのまま都市に侵入するつもりであった。
「させねぇよ」
大きく振りかぶったスレンは一気にストレートボアの背中から真横に切り裂いた。
軽やかな足取りで背中から飛び降りるとそのまま別のモンスターに向けて歩き出す。背後では断末魔のような咆哮を上げながらストレートボアは失速していき、胴体が真っ二つに別れ、消し飛んだ。
「ほぉ、やるじゃねぇかあの坊主。しかしあの動き。あの戦闘スタイル。どっかで見たことがあるような……おっと!」
スレンの戦い方を見て感心するヴェイグにバウウルフと呼ばれる狼型モンスターが噛み付いてくる。軽口をたたきながら大きく開けられた口に大剣を叩き込む。
ぐしゃ、と嫌な音を立てながらバウウルフ砕け散る。今のでヴェイグの周りにいたモンスターは全て殲滅した。他のモンスターも別プレイヤーが死の恐怖に苦戦しながらも何とか倒していた。そんなこんなで残り一体となったゴブリンと対峙していた。
「あれが最後か。それもゴブリンの群れを統率していたゴブリーダーじゃねーか。普段なら楽勝だが、死を背中合わせにしている今はちと厄介かもしんねぇな」
言うが早いか、ヴェイグはスレンに向かって走り出した。周りの敵を倒したプレイヤーたちもヴェイグと同じ意見のようで危なくなる前に囲って倒そうと考えていた。
(おっさんたちも心配性だな。さすがに最初はビビッて動きが鈍かったが、今はいつも通り……いや、いつも以上に動けてる。だってさ、こんな所でもたついてるわけにはいかねぇしな)
目の前のゴブリーダーを睨みながらスレンは微かな微笑みを浮かべていた。両手にカットラスを手にし、兜で頭部を守るゴブリーダーは気勢を上げながら跳びかかる
重力落下しながら二本のカットラスの刃をしっかりとスレンへ向けている。【暁烏】で上手く斬撃をいなされ、地面に着地する。着地と同時にゴブリーダーのカットラスの刃が上方に切返し、そのまま上段切りをお見舞いする。
「あぶねぇ!」
ヴェイグの叫びが聞こえた。しかしスレンは焦ることなく、体を後方へ逸らし紙一重で避ける。上体を戻すと同時にゴブリーダーへ斬撃をお見舞いする。
「グギッ!」
ギリギリでカットラスを斜め十字に構え受け止めた。
鍔競り合う状況でスレンは上から斬りつける形になっていたのを方向を変え、斜め下へと軌道をそらす。それによって斜め十字で構えていたカットラスの一本が崩れた。それを見逃さず、左足をゴブリーターの横っ腹目がけ蹴り抜き、見事にヒットした。
「ギャッ!?」
予測してない場所からの攻撃に吹き飛ばされるゴブリーダー。地面に何度かバウンドし、転がる。ダメージがあったようで立ち上がりが遅い。その隙に一気に距離を縮め背後を取る。
「悪いな。低レベルのモンスターにもたつくわけにはいかないんだよ。これからのことを考えたら特になっ!」
夜闇の中に閃く曙の閃光がゴブリーダーを背後から切り裂く。胴体が真っ二つに砕け散る。
「運が良かったな。夜闇を照らす暁の一撃を見ることができたんだから……」
【暁烏】を鞘に納めた時、イベント終了のファンファーレが頭上で鳴り響いた。