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第095話 信頼

 ハーネイスが乗った馬車が暗闇へと走り出す。


 帰りの馬車にはサイラスは乗っていない。レイが見た限り、ハーネイスとサイラスの仲は良好ではなさそうだった。一言も声を交わすこともなければ、視線を合わすこともない。


「あんな生活をしている母親なんて誰でも嫌だろうけど」

「え?」


 馬車の中、向かい側に座るギルが首を傾げた。


「サイラス様だよ。仲、良くなさそうだね」

「そうだね……一度もお屋敷に来たこともないから……。ハーネイス様は寂しいんじゃないかな。だからあんな生活をしているのかもしれない。どうにかして良い方向に導けるといいんだけどな」


 聖職者としての言葉なのだろう。ギルはハーネイスに対しても慈悲深い。


「ははは。ギルは優しいな」

「え、そうかな? 母親なら誰でも子供を大切に思っているよ」


 そう微笑むギルの心があまりにもキレイで、何でも疑ってかかる自分に苦笑いが溢れる。

 それに嫉妬で周りが見えなくなるなんて、諜報部隊失格だ。


 レイは、ギルの澄んだ瞳から逃れるかのように視線を窓の外に移した。

 未だしくしくと痛む胸を抑え、ため息をつく。目の前にいるギルの視線を感じながらも、暗い景色を眺めた。


 早く犯人を突き止め、国に帰ろう。

 そうすれば……。


 窓から見える景色にレイは眉間に皺を寄せた。何か違和感を感じる。


「……ねえギル。こっちって屋敷の方だっけ?」


 外は暗くてよく見えなかったが、来た時の道順が違うよう感じた。


「ん?」


 そう言われギルも窓から外を目を凝らして眺める。


「いや、違うかもしれない。ちょっと待って、荷物にコンパスが………………あれ……?」

「どうしたの?」


 ギルが鞄から取り出したコンパスをレイに渡した。


「ほら、シルバドールより南西に向かっているみたい。どこへ行くつもりだろう?」

「南西……」


 小さな村や町はあるが、そこに何の用事で行くのか分からない。レイは胸騒ぎがした。


「一応動ける準備はしておこう」


 持ってきていた魔力で強化された護衛服に着替え、いつでも動けるように準備をする。ギルもそれにならい準備をした。不安げな面持ちでいるギルに気が付き、レイが笑う。


「大丈夫だよ。ギルは俺が絶対に守るから」

「わー、凄い。その言葉、女性だったら絶対に惚れているなー」

「あはは。うん、ギルが女の子じゃないのが残念だ」


 ギルは酷いなと言いながら笑った。不安だったギルの気持ちが少しは解れたように思える。


「でも戦闘になったらギルは隠れていて。自分優先でいいから」

「……わかった。足手まといにならないようにする」


 出会って間もない二人。三歳年下のレイに対し、ギルは既に心を許し信頼していた。


 レイがいない半年は死んだように生きていたギルだった。しかし、レイと共に考え、学ぶ。言葉を交わし合うことで、生きる道筋が見えた。やることがあるということは生きるのに必要だ。それをレイが与えたからだった。


 ギルは少しでも恩を返したいと思っていた。

 肝心の魔法。レイが求めている遠隔魔法がまだ上手くいっていない。

 万が一戦闘になれば、ギルは足手まといになるだろう。

 まだレイの力になることができないギルは少し落ち込んだ。


「ギルの魔法はさ、凄いんだよ。アトラスにとって、重要な人材なんだ。だから、これを悪用する人も出てくるかもしれない。もし教会に戻ることができたら隠しておいた方がいいよ。それか、早めに信頼のおける人の側に仕えるといい。例えば、シトラル陛下やエリー様とか……。ね? ギルはそれだけ凄いんだよ」


 落ち込んだことを見透かしたのか、レイはギルを褒めた。


挿絵(By みてみん)


 よく見ている。

 こういうところもギルは凄いと思っていた。


「こんな俺でも欲しがるかな。ハーネイス様は気に入って下さったようだけど……。それにどうせ俺たちはハーネイス様にずっと仕えなければいけないじゃないか」


 それを聞いてレイが薄く笑う。


「ギルがこの生活に満足しているならそれでもいいけど、違うよね? 最初に言ったけど、俺はギルの力になる。必ず元の生活に戻して見せる」


 なんの根拠もないような台詞だったが、何故か何とかしてくれるのではないかとギルは思えた。


「うん、ありがとう。シリルって凄いね」

「ん? 何が?」

「何て言うか恥ずかし気もなく、そういうことを言えちゃうところ?」

「あはは、ひどー。ギルだってピュア度が酷すぎるからね」

「ピュア? それは自覚ないけど……。例えば?」

「んー、例えば――――」


 二人で色々な話している間に目的地に到着したらしく、馬車がゆっくりと止まった。レイが先に馬車から下りると後ろにいたギルが小さく驚いた声を上げた。


「こ、ここは……」

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