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第082話 アーニャの心配

 ◇


 アーニャから伝言を聞いたジェルミア王子はにこりと微笑んだ。


「ありがとう。では君、時間まで僕の話し相手になってくれるかい?」

「え?」


 今すぐにでもマーサのところへ向かいたかったが、王子の頼みを聞かないわけにはいかない。

 しかし目の前の男は眩いほどの美貌を持ち、圧倒的なオーラを放つ。アーニャはどうしていいのか分からず、入り口の前で立ち尽くしてしまった。


「そんなところに立っていたら話が出来ないよ。さ、こちらに座って」

「えっ……あ、あの……っ?!」


 ジェルミア王子が立ち上がり、腰を抱きながらアーニャをエスコートをする。頭の中は真っ白なのに顔は火を噴くかのように熱い。成すがままにソファーに座らせられ、ジェルミア王子は寄り添うように隣に座った。


「君、凄く可愛いね。滞在期間中は君が僕の世話係になって欲しいな。勿論悪いようにはしないよ」


 アーニャの髪に触れ、しっとりと見つめてくる。その瞳に逃れるように俯いた。男性とこんな至近距離にいたこともなければ、触れられたこともない。アーニャの心臓は狂った時計のように時を刻む。


「た、大変有難いお言葉ですが、私はエリー様にお仕えしておりますのでお言葉だけ頂戴いたしますっ」

「そうなの? 僕、君を満足させてあげられる自信があるんだけどな。少し試してみる?」


 そう言いながらアーニャの顎を持つと、ブルーサファイアのような瞳にアーニャを捕らえられた。はっと息を飲む。その時、とすっと胸に何か刺さったような気がした。


挿絵(By みてみん)


「ジェルミア様……。あ……いえ……。あの、困ります……私……」


 そうは言いながらも瞳をそらすことが出来ない。

 するとジェルミア王子はくすくすと笑い出した。


「やっぱり可愛いな。大丈夫、何もしないよ。暫く滞在する予定だからたまに話し相手になって欲しいだけさ。お願いね」

「……は、はい……」


 頭をポンポンと撫でられ、アーニャはぽうっとなったまま約束をしてしまった。




 ◇


 ジェルミア王子がエリー王女と一緒にいたのは一時間ほどだった。

 アーニャは約束通り、ジェルミア王子の部屋を訪れる。


「こちらにおいで」


 ジェルミア王子は優しく、楽しい話を沢山聞かせてくれた。アーニャも自分の話などをし、エリー王女について聞かれると当たり障りのない話だけをした。


 アーニャは雲の上にいるようにふわふわとした心地だった。


「僕はね、本当にエリー様のことを好きになってしまったのさ。だけど彼女は僕のことに興味はないようだ」


 悲しそうに笑うジェルミア王子にアーニャの胸は小さく痛む。


「ジェルミア様はとても素敵です! きっともっと沢山お話をされたらエリー様も分かって下さると思います!」


 元気付けたくて、アーニャは力一杯伝えた。その言葉には嘘はない。


 どうしてエリー様はジェルミア様ともっとお話をなさらないのだろうか。話せば良さが分かるのに……。




 ◇


 その日の夜、マーサの部屋にいたアーニャは眉間に皺を寄せた。エリー王女の夜の支度をレイがすることになったと耳にしたからだ。


「レイ様とマーサさんがお付き合いしているのを知っているのに酷くないです? アラン様にやっていただいたらいいのに」


 アーニャは口を尖らせながらマーサに訴えた。


「そんな事を言うものではありませんよ。私達にとってエリー様が最優先です。これはエリー様の意思ではなく、非常事態に備えての訓練でやっています。それにエリー様も私のような者に気を遣ってくれておりました。ですので、アーニャも気にしなくても大丈夫ですよ」

「でも、エリー様は……」


 二人が抱き合っていたとは言えず言葉を飲み込んだ。

 アーニャはエリー王女のあの喜んだ顔が忘れられなかった。



 もしも、エリー様がレイ様を好きだったら?



「ですが、私のためにありがとう」


 マーサがそう言って微笑んだので、それについて話すのはもう止めた。しかし、アーニャの胸にもやもやと不安が溢れてくる。


 エリー様が抱きついた際、レイ様はそれに応えていた。

 お風呂の補佐もあるのだ。

 万が一、エリー様が誘惑したら断れるのだろうか?

 見えないところで二人っきりにするのは良くないことなのではないか?


 アーニャの頭の中に次々と嫌な想像が膨らんでいく。


 何気なくポケットに手を入れると固いものが入っていることに気が付いた。それは、今朝預かったまま返していないエリー王女の部屋の鍵だった。


 アーニャはすくっと立ち上がる。


「少し散歩してきます。レイ様の仕事が終わる頃には戻りますね」


 マーサに伝えると直ぐ部屋を出た。ポケットから鍵を取り出すとそれをじっと見つめる。


「少し確認するだけだし……」


 アーニャは鍵をぎゅっと胸に抱き、エリー王女の部屋に視線を移した。

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