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第081話 エリー王女の想い人

 レイが突然姿を現さなくなってから既に二週間は経つ。


 その間、王となることを決めたエリー王女は、政治を学ぶのに忙しい日々を過ごしていた。そのため、エリー王女は寂しさで悲しみに暮れることはなかったものの、やはりレイのことを毎日想っていた。


 早く会いたい……。


 しかし、レイが頑張っているのだと思えば自分も頑張れた。目的がエリー王女に前を向かせる。




「今日はアーニャがエリー様を更に美しくしちゃいますっ」


 侍女のアーニャの明るい声に鏡越しに笑顔を返すと、アーニャはサイドの髪を揺らしながらにっこりと笑う。

 今日はマーサの代わりにアーニャがエリー王女の身の回りのお世話をしていた。


「そういえばレイ様はまだお戻りにならないんですね」

「そのようですね……」


 レイという名前にエリー王女の心がきゅっと縮む。


「きっとマーサさんは寂しいと思うんです。あまり顔には出してはいませんが。だって、レイ様は挨拶もなかったらしいんですよ?」


 アーニャが口を尖らせると、エリー王女は困ったように微笑む。


「突然の任務の場合は、誰にも会わずにすぐ遂行するのだそうです。そうアランが教えてくれました」

「そういうものなんですねー。マーサさんのためにも早く帰って来て欲しいなー。もぅ、本当に仲睦まじいですよぉ。いいなぁー、アーニャもあんな素敵な彼が欲しいです」


 アーニャから聞かされるレイとマーサの話は耳を塞ぎたかった。どんな風にレイとマーサが過ごしていたなんて知りたくはない。

 それでもエリー王女は、胸に秘めた想いを悟られぬよう笑みを浮かべながら話を聞いた。


 アーニャは本当に嬉しそうで、偽りの関係だとは微塵にも思っていないとよく分かる。


 もしも私が王となり、レイを王配に選んだらアーニャはどんな風に感じるのだろう……。


 エリー王女は小さな不安を感じた。



 ◇


 午後、エリー王女は庭園のカゼボの中で書類に目を通していた。橙黄色の小さな花を密生させたキンモクセイが鼻腔をくすぐる。

 書類に影が落ち、涼しい風に乗ってふわりと優しい声がエリー王女の耳に届いた。


「エリー様、ただいま」


 聞き覚えのある声に素早く顔を上げる。


 太陽を背負い、眩く光る笑顔。

 エリー王女の胸は急激に高鳴った。


「レイ! ああ、レイ……。おかえりなさい」


挿絵(By みてみん)


 嬉しさのあまり、エリー王女は思わず立ち上がりレイに抱きついた。

もう何年も会っていないのではないかと思うほど懐かしく感じ、エリー王女は人目も忘れ、回した手に力を入れる。

 

「うん、ただいま。何も言わずに出かけてごめんね」


 エリー王女はレイに会えたことで胸がいっぱいになり、声にならず首を振った。

 レイもエリー王女を抱き締め返し、髪を撫でる。エリー王女からの想いを受け止めるかのようにぐっと引き寄せた。


「エリー様、レイ。ここは人目につきますので……」

「す、すみません」


 アランの言葉が二人に割って入る。エリー王女ははっと我に返り、慌ててレイから離れた。

 熱くなる頬を押さえながらもエリー王女はレイに微笑みかけ、レイはそれに応えるように優しく笑みを返す。


「失礼します。デール王国のジェルミア様が参りました。エリー様とお会いしたいそうです」


 そのタイミングで突然降ってきた声に三人の心臓は跳ねた。見ればカゼボの外側にアーニャが立っている。


 アランは何事もなかったかのように表情を変えず、アーニャの側に降りた。


「分かった、お会いする。十五分ほどお待ち頂くよう伝えて欲しい」

「畏まりました」


 アーニャは無表情のまま一礼して立ち去り、三人は無言でそれを見送る。アーニャの姿が小さくなるとエリー王女がレイを見上げた。


「ごめんなさい。アーニャに見られてしまったかしら……」

「うーん。一応フォローを入れておくよ。エリー様は気にしないで、ね?」


 レイは安心させるように微笑んだ。


 そのアーニャはというと、胸を押さえながら真っ直ぐ前を突き進んでいた。


「あれはどういうこと?」


 アーニャは二人が抱き合っているところを目にしていた。それよりも前、エリー王女が飛びつくところから……。エリー王女の嬉しそうな顔はまるで好きな人の帰りを待ちわびていたようではないか。


 挨拶とは違う雰囲気にアーニャは混乱し、きゅっと手を握る。


「もしかしてエリー様って……」


 アーニャは立ち止まり、遠くに見えるカゼボを振り返った。


「まさかね……」


 自嘲気味に笑うとアーニャはまた前を向き、歩き始めた。


「それよりレイ様が戻られてマーサさんきっと喜ぶわ」


 アーニャは早くこの事を伝えたくて急いでジェルミア王子の待つ部屋へ向かった。





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