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第079話 セインの記憶(2)

――――リアムから仮面を受け取る。


「お前は顔を隠せ」

「……うん」


 セインは城を出ることを禁じられていた。

 初めての外出。

 しかしリアムの表情から察するに、心躍る雰囲気ではない。


 セインは何も言わず、リアムに付いて行った。

 北東に進み国境を越えると、黒雲が色濃く広がってくる。

 その空を見ながらセインは馬を走らせた。


 険しい山道で、身なりの悪い者たちに襲われた。

 しかし、リアムはいとも簡単にその者たちを切り捨てる。

 セインはただ真っ赤に染まる土の上で、馬に隠れるようにそれを見ているだけだった。


 足元に転がる男と目が合った気がして、ぎゅっと目を閉じる。


「……兄さん……この人たち……みんな死んじゃったの……?」

「目を開けてしっかり見ろ。これが、外の世界だ」


 リアムの表情は冷たく、心のない人形に見えた。






――――リアムに連れてこられたその場所を見たセインは声を失った。


 火がまだ(くすぶ)る焼けた町。

 人が焦げた異臭が鼻につく。

 そこは、本で読んだ戦争後の地獄絵のようだった。


 町の中をゆっくりと馬を進めるリアムに、セインは怯えるように後に続く。


 人であったであろう黒い塊が転がっている。

 中には子供もいるようだった。


「……この町に何があったの?」


 リアムの背中に問いかけると、立ち止まり振り返る。

 その表情はまた人形のような冷たい顔になっていた。


挿絵(By みてみん)


「俺がやった」

「えっ……」


 セインにはリアムが放った言葉の意味が理解できなかった。


「ここには町があった。商業が盛んでとても豊かな町だ。この国の第二の中心都市を見せしめのため、俺が全てを焼き払った」

「それが父さんの手伝い……? 見せしめ……何のための……?」


 セインの言葉にリアムは苦痛に顔を歪める。

 しかし、それは一瞬だった。

 顔を隠すようにリアムはまた背を向けた。


「手を汚すのは俺だけでいい。セインはもっと知識を付けろ」


 セインはもう一度焼けた町に視線を移した。


 リアムが伝えたいことは何なのか……。

 何が起きているのか知りたい。






――――セインは仮面をかぶり何度も城を抜け出し、外の世界を見て回る。


 歯向かう者は力で捩じ伏せる。

 国民、貴族さえも脅える世界。


 力は正義?

 何のために国を広げるのか?


 父ダルスはただ、脅える者を見るのを楽しんでいるだけのように見えた。


 王とはいったい何なのか?


 どの国を見ても、侵略された国に答えなどなかった。


 だからセインはまだ侵略していない南を目指すことにした。

 そこは高く聳え立つ山があり、一般の者が越えるのは不可能なほど、険しい道のりである。


 未開拓の地。

 

 セインは火、風、水、土の魔法の力でなんとか山を越えた。

 そしてとある国に辿り着いた。


「ここは天の国?」


 今まで見てきた国との違いにセインは衝撃を受けた。

 本の中の異世界。

 それほどまでの違いだった。




 その国の名はアトラス王国。






――――セインはアトラス王国に感銘を受け、その国について調べた。

 調べれば調べるほどセインの胸は高鳴った。


「夢物語なんかじゃない。実際にそういう国があったんだ」


 ローンズ王国に戻ると直ぐに、母メーヴェルとリアムに見てきたこと、調べたことを伝える。

 メーヴェルは困ったように微笑み、リアムはただ静かに聞いていた。


「父さんのやり方はやっぱりおかしいよ。兄さんだってそう思っているから、俺を自由にして世界を見せてくれているんだろ? 兄さんもあの国を見てきて欲しい。お願い、この国を変えられるのは兄さんしかいないんだ」


 少しの沈黙の後、リアムは立ち上がる。


「……わかった、見てこよう」


 一言残し、リアムは直ぐに部屋を後にした。

 二人になると今度はメーヴェルと向き合う。


「母さん、俺はもっと兄さんの役に立ちたい。そしてこの国を変えたいんだ」

「わかってる。それはリアムにも伝わっていると思う……。だけどあの子は全部一人で抱え込んでしまうと思うの。あなたはリアムにとって光。セインのその笑顔でリアムの心を癒してあげて」

「……うん」


 それだけじゃ足りない。

 もっと、もっと役に立ちたい。






――――それから数ヶ月後のことだった。


「クーデターを起こそうと思う。セインにも協力してほしい」

「兄さん!」


 何でも一人でやろうとするリアムの言葉にセインは喜んだ。


 どのように進め、どのように国を立て直すのか。

 ただダルスを討つだけでは理想の国にはならない。


「俺、実は前から考えていたことがあったんだ。この国を立て直す方法」


 それは自らアトラス王国の捕虜になり、同盟を結んでもらうというものだった。


「だめだ。セインにそんなことはさせられない」

「兄さん、違うよ。させたくないじゃダメなんだ。俺は色んな国や町、人々を見てきた。そして俺は無力だということも良くわかった。俺が国のためにできること。兄さんや母さんのためにできること。無力であっても、大切なもののために、今できる最善の策を講じなければならない」


 自分にとって何が大切であるかセインには分かっていた。

 輝く太陽を背に、セインはリアムをしっかりと見据える。

 そして笑顔を作った。




「兄さんはこの国の王になるんだ。そして俺は、その支えでありたい」





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