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第078話 セインの記憶(1)

 レイの体が男に戻り、体調に問題がないことを確認すると、リアム国王はベッドに横になるよう指示した。

 言われるがまま、横になり瞳を閉じる。


 これで何もかもが分かるのだ。

 そうは思っていても、自分が自分ではなくなる気がして怖かった。


「心配ない」


 不安が伝わったのだろう。

 リアム国王はレイに声をかけ、額に手を置いた。


 暖かい。


「ありがとうございます……」

「……いや……では始める」


 リアム国王の言葉と同時に頭の芯に一つの光の点が落ちた。

 その点がじわじわと大きくなり、真っ白な世界が広がる。


 すると突然フラッシュバックが始まった。

 レイは記憶のかけらを拾い上げる。


 それはセインがまだ六歳。リアムは十四歳の頃の記憶……。






――――リアムが長い間留守にしていたことがあった。


「兄さんはまだ帰ってこないの? どこに行ったの?」

「そうね。どこへ行ったのかしら? あ、そういえば――」


 セインの問いを母メーヴェルは曖昧にはぐらかす。

 それは三ヶ月も続き、幼かったセインは寂しさを募らせ不安な日々を過ごした。


 暖炉の傍でメーヴェルに本を読んでもらい、セインは暖かさの中で現実と夢の中を行ったり来たりしている。

 そんな寒い日のことだった。


「ただいま戻りました」


 聞き覚えのある声がして現実に呼び戻された。

 振り返ると扉の前に立っているリアムの姿が目に飛び込んでくる。


「兄さん! ずっとどこ行っていたの?」


挿絵(By みてみん)


 セインは飛び跳ねるようにニコニコと笑いながら走り寄った。

 いつもなら頭を撫でてくれるのに今日は違った。

 視線すら合わせず表情も硬い。


「……父さんの手伝いだ。セインは気にする必要はない」

「兄さん?」


 いつも優しかったリアムはこの日を境に口数が減っていった。






――――セインはメーヴェルと王宮奥の別塔で暮らしていた。リアムは時間さえあればその別塔を訪れていたが、父ダルスは一度も顔を見せたことはない。だからセインは生まれてから一度も父親の顔を見たことがなかった。


 いつかダルスやリアムの役に立つために、セインは王族の(たしな)みや剣の稽古を日々怠らない。また、メーヴェルからは魔法の使い方などを教わり、目を見張るような成長を遂げていた。


 いつものようにリアムと庭園で剣の稽古をして過ごしていると、遠くから使者がやってくる。


「失礼します。リアム様とセイン様、陛下がお呼びです」

「え、僕も?」


 セインが十歳になった年、初めて父ダルスからお呼びがかかった。

 メーヴェルは咄嗟にセインを抱き締める。その手は僅かに震えていた。


「母さん?」


 セインがキョトンとしていると、リアムが従者に聞こえぬよう耳許で告げた。


「俺の話に口裏を合わせろ」

「え……う、うん……」


 ただならぬ雰囲気にセインは頷くしか出来なかった。






――――謁見の間で、初めてみる父親の姿にセインは胸が踊った。


 左目は眼帯で隠れていて見えないが、右目は冷たく鋭い。ダルスは苦々しくセインを睨み付けると、台座から下り蹴り上げた。

 後ろに吹き飛ばされたセインは、蹲りむせる。


「かはっ……! けほっ、けほっ……父さん……?」

「分かっていないようだな。私はお前の父ではなく、王だ。父の愛を期待するような目で見るな。我にひれ伏し、(めい)に従え!」


 (さげす)むように見下ろすダルスにセインはメーヴェルが怯えていたことを思い出した。視界に入るリアムは跪いたまま動かない。


「使えそうか?」

「いえ、セインには魔力も少なく、体力もありません。この通り貧弱です。俺だけで十分かと」


 リアムがダルスに静かに答えた。その言葉にセインはびくりと反応する。リアムの声はとても冷ややかで、いつもの優しい兄とは違った。


「失敗作か……。ならリアム、任務だ。来い」

「はっ」


 二人は何も告げずに謁見の間を後にする。

 残されたセインは蹲ったまま混乱していた。






――――リアムに言われた言葉が頭から離れないセインは認められようと努力をした。

 力をつければ父さんも兄さんと同じように僕に任務を与えてくれるはず。

 ダルスは恐ろしい人でしかなかったが、尊敬している兄が忠義を示していたため、セインも同じように忠義を示したいと思っていた。


「兄さん、どうしたら僕を認めてくれる? 剣技はまだまだかもしれないけど、魔力は兄さんくらいある」

「セインには無理だ。母さんの傍にいろ」


 どうして認めてくれないのだろう。

 毎日のようにダルスと何処かに出掛けているリアムが羨ましかった。

 メーヴェルもまたいつもリアムを気にかけている。


 父さんも母さんも兄さんばかり……。


「なんで? 僕だって父さんの役に立ちたい! 兄さんばっかりズルい!」


 セインはついに、リアムに胸に溜まった不満を吐き出した。十一歳の時だ。

 リアムは苦痛に満ちた表情を見せたあと、セインと向き合った。


「セイン……わかった。連れていきたいところがある」







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