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第072話 憂慮(ゆうりょ)

 セロードの執務室を出たレイは扉の前で立ち止まった。


「アラン、ごめん」

「……もう何度も話し合った。悔いのないようにやれ」


 アランはため息交じりに応えながらも、瞳は優しい光を放っている。レイの拳に自ずと力がこもった。


「うん……。じゃ、俺、ジェルドの所に行ってくるね」

「ああ」


 もう先に進むしかない。

 レイは精一杯笑顔を作ってその場から離れた。




 ◇


 ドドドン酒場の地下室。その一画にある事務室では、書類に埋もれるように大柄の男、ジェルドが机に向かっていた。


「忙しいところごめん。ポルポルで知らせた件だけど、どこまで分かったか教えて欲しいんだ」

「おう、任務お疲れ。エリー様を襲ったやつならまだ目ぼしいことは分かってないが……ほら、これ」


 机の前にレイが立つとジェルドは見上げ、書類を手渡した。ジェルドはドドドン酒場のオーナーでもあるが、秘密情報機関の隊長でもある。

 レイは手渡された書類に目を通し、一人の人物に目を止めた。


「ねぇ、ここ。なんでチェックが入ってるの?」

「ああ、調査員を送ったんだが、そいつの報告がなーんかいつもと違う気がするんだよ。ほら、これ」


 そう言って報告書も手渡す。


「うーん。これといっておかしいところもないようだけど……」

「そうなんだがなぁー。当たり障りがなさすぎんだよ」

「ジェルドはなんか匂うと思ってるんだ……。なら追加で送る?」

「送りたいのは山々なんだが、そこは顔が良くねーと入れねー。レイに手伝いを頼みたいところだが、今のところ厳しいな」

「……ねぇ、この案件情報をもっと教えて。あと、俺が入れるように準備しておいてくれない?」




 ◇


 シトラル国王はアトラス王国の騎士団とローンズ王国の騎士団のために宴を開いた。この宴にはアランとレイの参加も許可している。エリー王女を守り抜いたことへの労いだ。


 エリー王女を国外に出すことに全く不安がなかったわけではない。

 過去にレナ王妃が事故で亡くなっている。


 事故……。


 本当に事故だったのだろうかとシトラル国王は訝しんでいた。

 そして今回の件でより疑惑が深まった。


 やはり外に出すべきではなかった。

 大切なエリー王女までも失うわけにはいかない。


「お父様、今日はこのような場を設けていただきありがとうございます」


 エリー王女の花のような喜ぶ顔を見て、シトラル国王も心に花が咲く。娘の前ではやはり目尻が下がってしまう。本当に無事でよかったと改めて感じた。


「我が娘を二度も守ってくれたのだ。当たり前のことをしたまでだよ」


 シトラル国王は守ってくれた者達を盛大にもてなした。

 床に絨毯が敷き詰められ、低い長机がいくつも並べられている。その上には豪華な料理とお酒。

 騎士等は初めのうちは緊張した面持ちではあったが、お酒が進むにつれて賑やかな声が溢れだした。


 その様子をエリー王女と共に台座に座り、遠くから眺める。

 エリー王女の横顔はとても優しく、その姿はレナ王妃によく似ていた。


 シトラル国王の手に力が入る。

 なんとしてでも犯人を見つけなければならない。


 エリー王女の視線を辿るとそこにはレイがいた。ローンズ王国の騎士達に囲まれ、楽しそうに笑っている。レナ王妃が亡くなったあの頃とは違うことといえば、ローンズ王国の支援を得られたことが大きい。彼らは今回の件にも協力すると申し出てくれた。


「レイはローンズの者からも愛されているようだ。エリー、ローンズはどうだった?」

「は、はい。リアム陛下は私達にとても良くしてくださいました。あ、セイン様にはお会いすることができず残念です。お父様はお会いしたことはございますか?」

「いや、一度もないんだ。早く良くなると良いんだけどね……」

「そうですね……。あっ、あと!」


 エリー王女は何かを思い出したかのように体を跳ねさせ、シトラル国王の耳元に口を寄せた。


「リアム陛下の宝とは何ですか?」

「聞いてきたんだね。それはいずれ教えてあげるつもりだよ。だからそれまでは待っていて欲しい」

「……はい、わかりました」


 そう声に出したものの、エリー王女の顔は曇っている。


「不満そうだね」

「いえ……。あ、あの……返してあげることは出来ないのでしょうか? リアム陛下の大切なものとお聞きしました。もう、リアム陛下が信頼に足る方であると分かったことですし……。きっと返してもこれまでの関係は変わらないと思います」

「お前は優しいね。だけど、今となってはそれは難しくなってしまったのだよ。リアム陛下もそれは理解している」

「難しいのですね……。どうにか返してあげられたら良いのですが……」


 エリー王女は小さく呟いた。


「そうだな……」


 シトラル国王もまた、小さな息を吐き宴会場へと目を移した。

 ローンズ王国はアトラス王国の力を借りずともやっていけるほど大きく成長している。彼らの後ろ盾はシトラル国王にとって、今ではとても重要なものになっていた。



挿絵(By みてみん)


※挿絵は雪華さんが塗ってくれました。

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