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第071話 レイの願い

 ◇


 エリー王女の帰還を待ちわびていたかのように、アトラス城は輝く太陽と共に一行を出迎えた。蹄の音も心なしか弾んで聞こえる。


 シトラル国王はエリー王女の姿を捉えると、顔を(ほころ)ばせた。


「無事で何より」

「ご心配おかけしました」


 二人が無事を確かめるように抱きしめ合う。


「アラン、レイ。この度は大儀だった。今宵の宴は二人も参加するように」


 シトラル国王は感謝の意を込めて伝えた。まっすぐなその目にレイは視線を反らしたくなるのを堪え、敬礼のため胸に手を当てる……。




 ◇


 挨拶を済ませた後、レイがエリー王女を部屋まで送り届けた。

 エリー王女は部屋に入るとゆっくりと辺りを見渡す。


「どうしたの?」

「……いつの間にかここが自分の場所なんだと実感しておりました。初めてこの部屋に来た時は、あんなに不安でしたのに、今はほっとしております」


 優しく微笑むエリー王女をレイはそっと抱きしめた。


「レ、レイ……?」

「ごめん、少しだけ……。エリー様を無事、連れて帰ってくることが出来てよかった……」


 これまで護衛の任務を何度も行ってきたが、これほど神経をすり減らしたことはない。レイもまた心から安堵していた。


「はい……守ってくれてありがとうございました」


 エリー王女はレイの背中に腕を回す。

 久しぶりのレイの温もりと優しさを噛みしめていた。




 ◇


 アランとレイはビルボートにエリー王女を任せ、アランの父親であるセロードの元に向かう。緊張した面持ちのレイを励ますようにアランは背中を軽く叩いた。


 部屋に入ると執務机からセロードは顔を上げ、眼鏡を外す。二人が執務机の前に立つと眉間に皺を寄せ、訝しげに二人を見つめた。


「二人で来るとは、何かあったのか?」


 セロードの表情はアランとどこか似ている。レイは乾いた喉を潤わせるように唾を飲み込み、アランより一歩前に進み出て胸に手を当てた。


「本日は、謝罪とお願いに参りました」

「謝罪?」


 セロードの眉毛がピクリと動く。


「はい。この遠征期間中にエリー様と……関係を持ってしまいました。……申し訳ございません」

「関係……まさか……そういう……」

「親父さんの考えている通りです……。本当に申し訳ございません」


挿絵(By みてみん)


 深く頭を下げるレイに対し、セロードは瞳を閉じ左手で頭を支えた。重い空気が流れる中、アランもまた一歩前に出る。


「責任は俺にもあります。処罰を与えるなら俺にも与えてください」


 アランの申し出にセロードは右手を上げて言葉を静止し、レイを見据えた。


「レイ、顔を上げなさい。まず経緯の説明を」

「……はい」


 セロードは言葉をさえぎることなくレイの説明に最後まで耳を傾けた。


「……経緯は分かった。それで、願いとは?」

「はい。処刑される覚悟は出来ています。ただ、その前にエリー様を狙う者だけは捕えたい。その許可を頂きたくお願いに参りました」


 レイの力強い視線を受け、セロードも負けず劣らず見つめ返す。


「側近という立場から離れるということか……」


 確かにこのまま隠し通すのは困難だろう。離れていれば疑われることもなくなる。そして万が一……。


「いつか露見されて死罪になるなら、愛する者を守ってから死にたい……か……。自ら名乗り出たことは評価したいが、お相手がエリー様となるとお前を守りきるのは難しいかもしれない……」

「もちろん承知です」

「親父、レイのことを頼む……」


 アランは自分の父親なら何とかしてくれると思っていた。じゃなければ、レイがセロードに打ち明けることになど賛成していない。


「ああ。お前を側近に推薦した私にも責任はある。この件について私が持とう。それまではお前たちの作戦通り上手く隠し通しなさい」

「本当にすみません……。アランにだって親父さんにだって本当は責任なんてないのに……俺のせいで……」


 レイは困惑した表情で見つめている。


「罪を犯したのになんで親父さんもアランも俺を責めないんですか? 俺は二人の厚意を裏切りました。なのになんで二人は自分の責任だなんて……俺は……」

「レイ……」


 気遣わしいアランの声を振り払うかのようにレイは頭を振った。


「……そうだよ。これは俺が負う責任なんだ。だけど親父さん……犯人を捕らえるまででいいんだ。それからならどんな罰も受け入れる。だから諜報部隊への異動の許可をお願いします」


 頭を下げたままのレイの体は細かく震えていた。


「私はお前を家族だと思っている。家族はどんなことがあっても見捨てないものだ。出来る限りのことはする」

「……ありがとうございます」




 レイが落ち着いた頃、二人は部屋を出て行った。

 セロードは頭を抱え深いため息をつく。指で一定のリズムを刻みながらこれからのことについて考えていた。


 そしてトン……トン……トン……と鳴っていた音が止まる。


「消えてもらうしかないだろうな……」


 呟いたセロードの声は誰の耳にも届くことなく消えていった。

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