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第070話 陰謀

 煌びやかなホールにゲスト達の華やかな声と美しい音楽が重なり合う。それを満足そうに見つめる女が、赤いワインをくいっと口に含んだ。


「ハーネイス様……」


 そこへ美しい顔をした使用人がそっと声をかける。

 ゲストに挨拶を交わし、ハーネイスはテラスへと足を向けた。


 ホールからの明かりがテラスにもかかり、手すりに真っ黒な鳥ポルポルが羽を休めているのが見える。

 ハーネイスはポルポルに近づくと胸を撫で、足に取り付けてある手紙を受け取った。

 さっと目を通すと冷たい笑みを漏らす。


「やはりあの男は役に立たないな。所詮小物は小物」


 ハーネイスは漆黒の闇に瞳を向け、底から沸き上がる憎しみを堪えた――――。






 今から四十二年前。

 セルドーラ公爵家と一位、二位を争うほどの地位を持つルイヴィス公爵家でハーネイスは長女として生を受けた。


 自信に満ち溢れた凛とした姿、引き込まれそうなほど力強い瞳、ハーネイスは息を飲むほど美しく成長した。美しく身分も高い彼女を人々はもてはやし、甘やかす。


 欲しいものは全て簡単に手に入った。


 恐れるものはなにもない。

 世界は自分を中心に回っている。

 誰もが自分を愛している。


 ハーネイスは自分の立ち位置を理解し、周りを上手く利用することを覚えた。


 そして初めての社交界で恋を知る。

 相手はシトラル王子だった。


 誰よりも身分が高く、誰よりも美しい男。

 彼は自分に最も相応しい相手。

 自分こそ王妃になるに相応しい。


 周りからも王妃になるのはハーネイスしかいないと言われ続けてきた。

 だからこそ自信があった。


 しかし、シトラル王子が選んだのはレナという身分の低い貴族。


 ハーネイスは初めて敗北というものを味わった。

 自分よりも身分が低く美しさも劣る者に負けたと思ったハーネイスは、固く大きな岩を打ち砕かれるほどの衝撃を受ける。


「私があんな女に負けたとでもいうのか?」


 心の底から怒りを感じたのは初めてだった。

 レナに憎悪を感じたハーネイスは、敵対心を静かに燃やす。


 その後、シトラル王子の実の弟であるグレアム王子との婚姻が決まったが、それでもハーネイスの心は満足を得ることはなかった。


 相手がシトラルでなければ意味がない。

 王妃にならなければ意味がない。


 そんな中、ハーネイスは男の子を出産した。

 少しシトラルに似ている……。


 彼女の愛情は息子サイラスに向いた。

 そして、ふと気がついたのだ。


 レナもグレアムもいなくなれば、シトラルは国のために自分を王妃と迎え入れるのではないか。

 サイラスが次期国王となるのではないか。



 二人がいなくなれば――――!



 タイミングを見計らっているうちにレナは娘を出産した。


「娘だったから良かったものの……」


 これ以上、レナに子供が産まれてはその計画も崩れてしまう。

 早くしなければ!


 レナが二度目の妊娠をしたとき、ハーネイスはついに手をかけた。

 事故に見せかけた殺害。


「ふはははは! 初めからこうしていれば良かったのだ!」


 勢いづいたハーネイスはグレアムも殺害した。


「さようなら、愛しいシトラルに似た男」


 もう邪魔する者はいない。

 思ったとおり、シトラルとハーネイスに婚姻の話が持ち上がった。


 しかし、シトラルは首を縦には振らなかったのだ。

 さらにはエリー王女と婚姻を結んだ者を王にするという命令を出した。


 ハーネイスの体は震え、血流が極限まで増加する。


「くっくっくっくっく……。どこまでも私を否定するのか」


 体の奥底から込み上げてくる笑いの中で、ハーネイスの瞳は怪しい光を放った。


「シトラル、お前が悪いのだ」


挿絵(By みてみん)




 ◇


 エリー王女一行は、あれから何事もなく明日にはアトラス城に着くところまで帰って来ていた。


 今回の奇襲についても指揮官を捕まえることが出来なかった。傭兵を集めただけの軍勢。それは前回と同じであり、人数が増えただけのものだった。


 黒幕は同じような気はしたが、黒ずくめの男を見たものはいない。

 エリー王女を狙うものはどれくらいいるのだろうか。


 見えない刃。


 それは確実にエリー王女を狙っている……。

 レイは窓の外を見つめ、深いため息をつく。


「どうした? 最近ずっと考え事をしているみたいだな」


 最後の滞在所に着き、一通りの仕事を終えたアランがレイに声をかけた。


「あー……、うん」


 振り返ったレイの顔には強い意志が宿っているように見えた。


「アラン」


 名前を呼ぶレイの声色にアランは何故か嫌な予感がし、身を構える。


「俺、側近の任から離れようと思う」

「……は?」

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