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第007話 朝市

 ドドドン酒場を出て、大通りを抜けると、大広場が広がっていた。そこには色とりどりの野菜や果物、肉や魚、パンや総菜など加工した食材や様々な工芸品が各露店に並べられている。そこでは大勢の人々の声が飛び交っていた。子供からお年寄りまで、年に一度のこの日を待ち望んでおり、沢山の笑顔がそこにはあった。


 エリー王女は初めて見る光景に頬が紅潮し、目を輝かせ立ち止まった。こんなに胸が高鳴り、ワクワクしたことはない。まるで絵本のなかに入り込んだかのように思えた。


 エリー王女が急に立ち止まったのを感じ、アランが振り返る。


「どうされました? 人混みはお嫌でしょうか? 行きたくないのであれば……」


 エリー王女の表情を見て、そうではないと気付き言葉を止めた。アランは薄く笑みを浮かべる。


「エリー様、ここは年に一度開催される朝市でございます。エリー様の誕生をお祝いして毎年行われるようになりました。朝市とは言いますが昼過ぎまでお店は出ております。遠方の町や村の人達が名産物を持ってこの露店で販売しておりますので、各地の話を聞きながらそれぞれのお店で購入されると良いでしょう」


 それを聞いた途端、エリー王女の瞳が更に輝いた。


「わ、私が購入しても宜しいのですか?」


 恐る恐るアランに聞く。


「もちろんです。これも各地域の方々のお話を聞く機会にもなりますのでお好きなものをご購入ください。こちらは、エリー様用のお財布になりますので肌身離さぬようお持ちください」


 アランがピンク色に染色された皮の財布を手渡す。財布を両手で受け取ると、エリー王女はそれを大切そうに胸に抱いた。


「あまり無駄遣いなさらぬようお気をつけください。それにあくまでも各地の方々のお話を――」

「あはは。大丈夫だよ。とにかく気軽に楽しまなくちゃ! ね?」


 アランの話が長くなりそうだったので、レイは会話に割り込み、エリー王女の腕に自分の腕を絡めた。エリー王女は驚いてきょろきょろと辺りを見渡し、何やら一人で納得するように頷く。


「どうしたの?」


 不思議に思ったレイがエリー王女に訊ねる。


「え!? あ、あの……。レイは私がはぐれないように腕を組んでくださったのでしょうけど、女の子同士で腕を組んだりしたら他の人から変な風に見られないのかと思い、周りを確認いたしました。それで皆さんが手を繋いだり、腕を組んで歩いたりしておりましたので、これが女の子同士の友達の在り方なのだなと納得いたしました」


 真面目な顔をして説明してくれたエリー王女を見て、レイはたまらなく可笑しくなった。


「あはは。そうそう! 俺らは今、女友達同士だもんね? だからエリー様も存分に俺にくっついていいからね?」


 女友達という言葉を聞いたエリー王女は、少し顔を赤らめながら一旦レイの腕をほどく。少し躊躇いながら、エリー王女はレイの腕にしがみついた。


「こ、これがお友達ということですね?」


 顔を真っ赤にしながら、真剣に取り組む姿が可愛くて、アランとレイは顔を見合わせて笑ってしまった。エリー王女は何故笑っているのか分からず、首を捻る。


「ぁ……」


 小さく声を上げたエリー王女は、間違ったことをしたのだと思い、レイから離れようとした。


「ああ、ごめん。間違ってないよ。俺にくっついていいから」


 レイは笑顔でそう伝えると、エリー王女は恐る恐るまたレイの腕に掴まる。レイは満足そうに頷くと、エリー王女も安心したように微笑んだ。


 その笑顔は朝の綺麗な日の光を浴びて、輝いて見えた。


「では、エリー様。好きなお店を見て回ってください。私は後ろから参ります」


 人混みに慣れていないエリー王女は戸惑いながらも、レイに掴まっていることで安心できた。それにレイは、人にぶつからないように守ってくれてもいるようだった。


 少し店を見て回ると、エリー王女が急に立ち止まり、レイは後ろにひっ張られた。


「どうしたの? 何か気になるのがあった?」


 レイがエリー王女の視線の先を辿ると、ドーム型のガラスの中に小さなお城が入っていた。


「あぁ、これ可愛いよね。これはね……」


 レイがそのドームをひっくり返して戻すと雪が降ってきた。驚いたエリー王女は、ドームに釘付けになった。


「やってみる?」

「宜しいのですか? あ、ありがとうございます」


 両手でドームを受け取ったエリー王女は、レイと同じように逆さにしてから元に戻してみた。ひらひらと舞い落ちる雪。この小さな世界に雪が降り積もる。まるで自分が雪の精になったようだった。


「キレイなお嬢さん方、それ気に入ったかい? それは、この国のアトラス城だよ。色々な国のお城もあるんだよ、ほらこのお城なんかもステキだろう?」


 突然お店の主人が話しかけてきたため、エリー王女は僅かにレイに隠れてしまった。


「うん、凄く可愛いです。おじさん、もしかして色んな国に行ってお城を見て作ってきたの? すごーい! ねぇねぇ、おじさんにとって一番良かった国ってどこだったの?」


 代わりにレイがおじさんの問いに答え、さらには質問までしてくれた。それはまるでお手本を見せてくれているかのようだった。そしてその質問は、エリー王女にとって興味を湧かせた。エリー王女はレイの横から顔を出し、露店のおじさんに目を向ける。


「そうだな~。このアトラス王国が一番平和で豊かな国で良いけど、ローンズという国は軍事国家ではあるがアトラスの後押しもあって国の皆が活気づいていて良かったな~。あとシロルディアは自然豊かでみんなゆったりとしていて、のんびり過ごしたいやつには良いところだな」

「へぇ~、行ってみたいな~! それは、どのお城になるの? これ? なんかこのお城も可愛い~。ねぇエリー、私はこのローンズっていう国のお城にする~! エリーはどうする?」


 エリー王女はハッとして、慌てて自分の国、アトラス城を選んだ。それを見たレイは優しく微笑む。


「ねぇねぇおじさん。二人でこれとこれを買いたいんだけど、二十ルピを十五ルピにしてくれたら嬉しいんだけどなぁ~」


 ニコッとレイが微笑んでみる。が、おじさんはうーんと悩んでいる。あともう一押しだ。レイがエリー王女に耳打ちをする。


「わ、私がですか? ……あ、あの……お、お願いします! おじ様……?」


 エリー王女が真っ赤な顔をして、おどおどしながらも上目遣いで頼んだ。それはとても愛らしく、おじさんも思わず見入ってしまった。


「わっはっはっはっは~。分かった分かった! こんなに可愛い子二人に頼まれちゃ~しょうがない! 十五でいいよ!」

「やったぁ~! おじさん大好き!」


 レイが調子に乗って投げキッスをすると、後ろの方で見守っていたアランが渋い顔をする。


 エリー王女がドキドキしながら初めての支払いを済ませ、ドームを手に取った。そこには太陽の光を受けて小さなお城が手の中でキラキラと輝いていた。



挿絵(By みてみん)


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