表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/234

第060話 意志

 しばらくの間、エリー王女はレイの胸の中で顔を(うず)めていた。暖かさと心地よい心音でエリー王女はやっと落ち着きを取り戻す。それでも、レイから離れたくなくて動かずにいた。その時、リアム国王の言葉が()ぎり、エリー王女はもぞもぞと顔あげる。


「レイ……」

「ん……?」

「もしも……もしもレイが貴族であれば……レイと一緒になれますか?」


 真っ赤な瞳に涙でぐしょぐしょになった頬。レイは優しく髪を撫で、困ったように笑った。


「アトラス王国の貴族であれば可能性はあるけど、他国の場合は難しいかな」

「そう……ですか……」


 レイの答えに対しエリー王女は険しい表情をしたまま黙っていた。


「どうしたの?」

「あの……。ではもし、私が王となった場合は一緒になれる可能性はございますか?」

「……え? 王に?」

「はい……」


 エリー王女はリアム国王から聞いた話をレイにした。


「動機が不純ではございますが、私……レイと一緒になれるのであれば王になりたいです……」

「エリー……。確かにエリーが女王として君臨したら、王配の一人にはなれるかもだけど……」


 少しは喜んでくれると思っていたが、レイの表情は曇ったままだった。


「嫌ですか?」

「ううん、違うんだ。エリーと一緒になりたいし、その気持ちも嬉しい。だけどまだ決まったわけじゃない。王になることが出来ないかもしれない。もしなれたとしても、王配にはなれないかもしれない。そういう不安が期待してはだめだと心を抑えているだけなんだ。でも、本当に嬉しいよ! エリーが俺のために色々考えてくれて」

「レイ……」


 明るく振る舞うレイに、胸がズキンと痛んだ。あんなに明るかったレイが自分のせいで苦しんでいる。どうしたら笑顔になってもらえるのだろう。エリー王女は瞳を揺らしながらレイをじっと見つめた。


「ごめんね。俺がこんな顔をしてたらエリーも笑えないよね。大丈夫。どんなことがあってもずっと傍にいるから。だから笑って。ね?」


 レイはいつもの笑みを浮かべた。

 それは優しくて温かな笑顔。

 エリー王女の頬を撫で、元気付けようとしてくれていた。


 その笑顔につられて、エリー王女はぎこちなさはあるものの笑顔を作った。

 

 結局、笑顔にしてもらったのはエリー王女の方だった。


 レイに何もしてあげられていない。

 エリー王女の胸の中にはもやもやとしたものが広がっていた。


「うん、エリーは笑っている方がかわいいよ。よしっ! じゃあ俺、そろそろ行くね。あんまり長くいると……ね……」


 すっと立ち上がるレイの姿に思わず腕を掴んだ。


「ま……待ってください……あの……そう! マーサと一緒に……三人で過ごすのはどうでしょうか? 恋人……になったわけですし、不自然ではないですよね?」


 少しでも一緒にいたくて、そんなことを口走ってしまう。レイは少し驚いた様子だったが、優しく微笑んでくれた。


「そうだね……ありがとう」


 全く一緒にいられないわけじゃない……。





「……エリー様」


 マーサはレイに呼ばれて部屋にくると、直ぐにエリー王女の傍へと寄った。目元に触れ、僅かに乱れた髪を直す。涙のあとを見て、マーサは気遣わしげに微笑む。


「私がこちらの部屋におります。エリー様はこの奥のお部屋でレイ様とゆっくりお過ごしください。そうすれば誰も疑うことはないと思いますから」

「マーサ……私……」


 マーサはゆっくりと首を振り、エリー王女の言葉を止めた。


「私は何も知りませんし、何も聞きません。そして、ここで起きることも何もわかりません。ですので、悲しむのは止めましょう」

「マーサ……」


 胸に飛び込んできたエリー王女を抱きしめ、背中を優しく撫でる。マーサは少し悲しそうに微笑むと視線をレイに移した。


「レイ様にご相談がございます。あってはならないことではございますが、先日の襲撃事件の時ように、私がお側にお仕えすることが出来ないこともあるかもしれません。そこで、今後のためにエリー様の身の回りのことも覚えていただけないでしょうか? そうすれば一緒にいる理由も増えますから」

「……ありがとうございます。そうですね。よろしくお願いします」


 レイはマーサに深く頭を下げる。


「あ……あの……」


 二人の話を聞いていたエリー王女はマーサから顔を離し、ソファーから立ち上がった。手を組み、きゅっと握り締めると、顔を上げる。


「私にも教えてください」


 自分で何も出来ないものが王になれるだろうか。

 何もかも用意されたものをそのまま受け入れ従うだけ。


 後宮にいたこと。

 結婚のこと。

 どこに行って何をするのか。

 着る服さえ決められている。


 ただ言われるがままに動いているだけ。

 自分はただその場にいるだけの意思のない人形と同じ。


 守られているだけではダメなのだ。

 レイを守れるような人になりたい。



――――変わりたい。



 エリー王女の中で何かが動き出した。




挿絵(By みてみん)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ