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第050話 家族

 エリー王女の声が僅かに漏れてきた際、アランは混乱した。一体何が起きたのか分からず、止めるべきなのにどうするべきか悩んだ。


 性的奉仕はアトラス王国内でも存在する。また、そういった行為は精神安定にも繋がるとアランは本で読んだ内容を思い出した。最近のエリー王女の情緒不安定なこともあり、命令であるならばそういったことも必要なのだろうか。

 しかし、アランは頭を振りその考えを否定した。性的奉仕など大抵男性が受けることであり、女性は稀有ではある。ましてや、俺たちはそんなことをするためにいるのではない。


 アランは二人が愛し合っているなどとは思いもせず、何故そんなことが起きるのかと理解に苦しんでいた。


 手をこまねいている間に、エリー王女の声は直ぐに聞こえなくなった。レイが部屋を出ていってから数時間たっていたが、聞こえたのは数分。この短さなら最後まで行っていないのではと考えた。むしろ、そうであって欲しい。少しだけ時間を空けて、アランはエリーの部屋へと向かった。




 ◇


 二人は部屋に戻り、向かい合うようにソファーに座る。張り詰めた空気の中、アランは真っ直ぐレイに視線を注いだ。


「レイ……念のため確認するが……エリー様と何をしていた? まさか、最後まで行っていないよな?」

「……ごめん」


 俯いたまま手をぎゅっと握り締めるレイを見て、アランは頭を抱え、目をつぶる。あの声は最初ではなく、最後だったのだ。


挿絵(By みてみん)


「何で……お前……何をやったのか分かっているのか? 王女だぞ……」


 アランは低い声で呟き、深い溜め息を吐いた。


「取り敢えず全ての経緯を俺に報告しろ」

「はい……」


 レイはぽつりぽつりと静かに言葉を落とす。好きだと言われたこと。一度は距離を置いたこと。今日のこと……。そして自分の気持ちも包み隠さず伝えた。


 アランは何も言わず額を押さえ、目を瞑りながら静かに耳を傾ける。レイが全てを伝え終わっても黙ったままだった。




 これは自分が招いた結果だ。

 責任は自分にある。




 報告を受けたアランはそんな風に感じた。

 不安定な状況下で優しくする者がいれば、恋愛に発展する可能性がある。そんなことも考えず、女性の扱いがよく分からないアランは、エリー王女の精神的な問題は全てレイに任せていた。


「……経緯はわかった。しかし、お前の行動が肯定されるものではない。今日のことはかなり軽率な行動だ。このことが他人に知られればお前は死刑で、俺の親父も俺も何らかの罰を与えられるだろう。そして側近になるために支えてくれた仲間たちをも裏切ったことになる」

「はい……」


 今にも消え入りそうな声が返ってくる。俯くレイにアランまでもが胸を抉られているような気がした。なんとかしなければ。


「……エリー様の精神的な状況からは、今すぐにお前を遠ざけるのは得策とは言えないだろう。次期王が決まるまでの間にエリー様の精神状態を安定させ、お前がいなくても大丈夫な状態にしなければならない。それまでは……エリー様の気持ちを優先してもいいが二人の関係に気がつかれるなよ。後は……離れる覚悟もしておけよ」


 俯いていたレイの頭をわしゃわしゃと撫で、最後に小突いてから立ち上がった。レイはアランを見上げ、驚いた顔をしている。


「とりあえず万が一に備えてお前の過去をもう一度調べようと思う」

「俺の過去……?」

「お前は四年前、すでに完璧な教養が備わっていた。そのことでかなり上流階級にいたことがわかる。貴族であれば万が一の場合でも、死刑は免れる可能性が高い。お前の安全確保のために調べる」

「アラン……」


 涙目のレイから視線を反らし、アランは話を続けた。


「お前が側近になるための試験を受ける際に一度過去を調べたが、アトラスで行方不明になっている貴族等は見つからなかった。隠しているのか本当にいないのか……」

「そんなことまでしてくれていたの……?」

「ああ。その方が手っ取り早いと思ったからな。国外という可能性もあるし、ちょうどローンズにいることだ。こっちで調べられるだけ調べるさ。ただ、期待はするな。貴族だとしても死刑が免れる可能性が高いだけで、エリー様との婚姻は絶対にない」


 アランは期待をさせないようにきっぱりと言い放った。その為に調べるのではない。レイの身の安全の確保の為だ。


「うん、分かってる。アラン……ごめん。そしてありがとう」


 レイは立ち上がり、頭を下げる。その頭をアランは小突き、「寝る」と一言呟くと寝室に向かった。お礼なんていらない。レイとは血の繋がりはないが、アランにとって本当に大事な家族であり、兄弟だった。自分の失態でレイを失うわけにはいかない。




 ◇


 レイは座ったまま今後どうしていくべきかを考えていた。


 アランはこんな自分のために色々と考えていてくれた。出会った時からそうだった。いつも怒るのではなく叱ってくれる優しい兄。そして、いつも自分の責任だと言ってかばってくれた。今回もきっとアランは自分の責任だと感じているに違いない。そんな風に感じさせてしまったことに、レイは心苦しかった。


 しかし、それでもエリー王女への気持ちは止められない。


 大切な家族と愛しい人との間に挟まれ、レイの心は深い闇の中を歩いているようだった。


 どこに向かえばいいのか分からない。

 見えない出口にただ立ち尽くしていた。

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