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第045話 危険な恋

 リアム国王とエリー王女は、幻想的な景色を静かに眺めていた。その姿はまるで恋人同士のようにも見える。


 心落ち着かせている様子のエリー王女をレイが複雑な心境で見つめていると、リアム国王の視線がレイに移った。目があったレイはエリー王女に対する気持ちを咄嗟に隠し、笑顔を作る。その笑顔につられたのか分からないが、リアム国王は僅かに表情を緩めた。


「先ほどのレイくんの戦いはとても良かった。しかし、普段は魔法を思い切って使う戦闘はなかなか出来ないのではないか?」

「はい、弊国には魔力を使える戦闘部員は私しかいないため、訓練は主に剣技を行っています。陛下が仰るとおり、全力を出すことは残念ながら出来ません」


 陛下は険しい表情で頷くと、今度はエリー王女に向き直った。


「エリー王女。レイくんもアランくんももっと強くなれる。ここに滞在している間は私に相手をさせて頂きたい」

「リアム陛下自らですか? そのような……」


 エリー王女はどうするべきかわからなかった。訓練は必要なのかもしれないが、誰かが傷つくのは見たくない。それにリアム国王に側近の相手をしてもらうのは失礼なのではないだろうか。


「私に対しての遠慮は無用。むしろ私がお願いしたいのだ。先の戦いでは久しぶりに腕が鳴った。もう少し楽しみたい」


挿絵(By みてみん)


 悩んでいる様子のエリー王女に対し、リアムは優しくそう付け加えた。


 レイにとって願ってもいない申し出だった。世界一とも言われるリアム国王と毎日手合せをしてもらえるのだ。レイは瞳を輝かせた。


 エリー王女はレイの嬉しそうな表情を見て心を決める。レイの喜ぶことならなんでもしてあげたかった。


「では、お言葉に甘えさせていただきます」




 ◇


 エリー王女を部屋へ送り届け、側近用にあてがわれた部屋に戻ったレイはアランの帰りを今か今かと待つ。アランが訓練場の片付けを終えて戻ってくると、ご主人さまを待っていた犬のように嬉しそうに駆け寄った。


「アラン! リアム陛下が!」

「わかった、聞くから座らせろ」


 アランはレイを落ち着かせ、ソファに向かい合うように座る。レイは前のめりになりながら、リアム国王の申し出について話した。


「そうか、それはありがたい。陛下は本当に良くしてくださる」


 その申し出は、アランにとっても喜ばしいことで、頬をほころばせた。


「あっ。帰り際にさ、ハルさんから俺がセイン様と雰囲気が似ているから、リアム陛下の話し相手になってほしいって頼まれたんだけどそれと関係があるのかな」

「そうか。そうかもしれないな……。昔はよくセイン様と手合わせしていたと言っていたし、お前と重ねているのかもな」


 食事の際に話していた内容を思い出し、アランは答えた。


「セイン様っていつから病気になったんだっけ?」

「もう四~五年になるはずだ。仲の良い兄弟だったと聞いている。心中穏やかではないだろうな」


 セイン王子はダルス国王が生きていた頃はあまり表舞台には出てきてはいなかった。元々身体が弱かったのかもしれない。


「んー、だから魔法薬にも力を入れているのかもね。早く治したくて。でもさ、リアム陛下と話せと言われても恐れ多くて話しにくいよね」

「は。お前がそれを言うか。エリー様には初日から馴れ馴れしく接していたくせに」


 乾いた笑いと冷ややかな視線を浴びせてくるアランに対し、レイは苦笑いするしかなかった。


「あー。エリー様と言えば、リアム陛下はなんで婚姻を希望されなかったんだろう? 二つの国の王になるのはそりゃ大変かもだけどさ、エリー様と結婚しちゃえば渡した宝だって返して貰えるかもだろ?」

「まあ、そうだな。国を大きくするよりも、今のローンズを安定させる方を取ったのかもな。アトラスとの絆はその宝で補えたわけだし、わざわざエリー様を王妃に迎える必要はないと判断されたのだろう。それに、そんな必要はないと強気の姿勢でいることが他国への強国としてのアピールにもなっているようだしな」


 アランの推測にレイは顔をしかめる。


「ふーん……ちょっと残念だな。どうせならリアム陛下が良いなと思ったんだけど……」

「確かにな。しかし、エリー様も今までで一番心を開いているようだし、この数日間でもしかしたらリアム陛下やエリー様の気持ちが変わることもあるかもしれないからな。まぁ、様子を見よう」


 自分で言い出したことだったが、アランに肯定的な言葉を言われると先ほどまで高鳴っていた胸が沈み、痛みだした。


 報われない恋ならば、せめて自分の憧れる相手の方がまだ良いかもと思っただけであり、望んでいるわけではない。国のことだけを考え、動いていたレイだったが、今では自分の都合でエリー王女の相手をみるようになっていた。


 レイの抑えきれない想いは、甘くて危険だった。

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