第004話 偽りの姿
エリー王女が部屋で待っていると侍女が数名やってきた。一人は、何着も服がかかったハンガーラックを奥へと引っ張ってくる。何人かは、大きな鏡の前にエリー王女を立たせ、いくつかの服を選んで体に当てた。
鏡に映る自分の姿を見たエリー王女は、顔を赤らめる。
「あ、あの……本当にこちらのお洋服に着替えなければならないのでしょうか……。スカートの裾丈が膝までしかないようですが……」
ふわふわの揺れる淡い水色のスカートに、肩にリボンの付いた白のカットソー。見ている分には可愛い服ではある。しかし……。
「うふふ、エリー様。城下ではこういうスカートが流行っているんですよ。若い子は、もう誰も丈の長いスカートは履いていませんから! 大丈夫です、私に任せてください!」
後宮の頃から仲良くしていた年下の侍女が、エリー王女の気持ちを無視して着々と準備を進めた。
エリー王女はこれまで丈の長いドレスしか着たことがなく、膝が見えるスカートなんて初めてだった。成すがままに着させられたその服は、なんとも足がスカスカして落ち着かなかった。しかし侍女達は満足そうにエリー王女を見つめ、部屋を出て行った。
静まりかえった部屋で、エリー王女は大きくため息をついた。鏡の前の自分は、今まで見ていた自分と全く違う人物のようだった。昨日までの自分は何処に行ったのだろう……。
暫くするとアランが部屋に戻ってきた。アランは先ほど着ていた側近用の服ではなく、シンプルな紺色のジャケットにベージュのパンツを合わせていた。それはアランにとてもよく似合っていたが、エリー王女はアランの顔は見ずに、部屋へと招き入れる。
「エリー様、大変良くお似合いです」
俯いていたため、頭上からアランの真面目な声が聞こえてくる。顔に熱が集まるのを感じたエリー王女は、両手で頬を抑える。こんなことでいちいち動揺してはダメだと、目をつぶり気合を入れてから顔を上げた。
「ありがとうございます。アランもとてもお似合いです……」
エリー王女は、精一杯微笑んでみせる。しかし、目が合うとすぐに視線を逸らしてしまった。やっぱりダメかもしれない……。いつか慣れる日が来るのだろうか。エリー王女はスカートの後ろの裾を気にしながら、押し黙っていた。
「……エリー様、これから城下町へと参ります。今回は、王女とは分からないようにするため、そのような格好に着替えていただきました。また、城下町の若者に溶け込むよう、ご友人の振りをさせていただきますので予めご了承ください」
そわそわしているエリー王女をよそに、アランは淡々と説明を行った。アランとしても、説明をしている方が楽だった。これなら気まずくない。城下についての雑学を交えながら暫く説明をしていると、ドアを叩く音と共にガチャリと扉が開いた。
「お待たせしましたー!」
元気で明るい声の、レイらしき人物が笑顔で入ってきた。二人が疑問に思ったのはレイと似ているが、良く見るとレイとは少し違う。
アランは念のため、腰に下げた剣に手を添え、エリー王女を守るように戦闘体勢に入る。睨み付けながらまじまじと目の前にいる人物を見た。
髪型や顔などはレイだったが背格好などは紛れもなく女性の体つきをしている。また、腰に巻いた赤色のチェック柄のシャツに白色のパーカー。アランは、その服に見覚えがあった。それは昔レイが着ていたのと同じものだ。
その女性は腰に付けている帯剣用ベルトを外し、足元に剣を置いた。
「エリー様。俺はレイです。こちらの剣が証拠です」
レイは剣から少し離れると、アランが目の前に置かれた剣の柄の部分を確認した。そこには側近の証しである青い宝石が埋め込まれ、小さく持ち主の名前が刻まれいた。それは間違いなく、レイの剣だった。
その様子を静かに見守るエリー王女には、アランが持つ剣の音がやけに大きく響いて聞こえた。一体何が起きているのか? 胸の前で組んだ手に自ずと力が入る。
「で、どういうことか説明してもらおうか」
アランがため息をつきながら警戒心を解き、立ちあがってレイに剣を渡した。レイは剣を受け取ると、アランに向かって満面の笑みを浮かべる。
「魔法薬だよ。この前さ、実験の手伝いをしていたときに間違って出来た薬なんだけど、凄くない? 本当に女性の体なんだよ」
レイは自分の胸を強調してアランに見せた。確かに女性の体をしており、アランは嫌そうに顔をしかめて視線を反らした。
「あの……本当に女性になられたのですか?」
ずっと後ろで見ていたエリー王女は、恐る恐るレイに歩み寄り、全身をゆっくりと見てからレイの手を取った。
「本当に女性ですね……。あの……なぜ男性をお捨てになられたのですか?」
「あー、えっと……エリー様。捨てたわけじゃなく一時の間だけです。魔法薬師の話によると十時間ほどで効果が切れるそうなので」
レイはエリー王女にニコッと笑顔を見せて答えた。しかし、その笑顔を見てもエリー王女は全く動じることなく手を握ったまま聞いていた。その様子にレイは満足そうに微笑む。
「確かに女性は苦手じゃないみたいだね。よかった。じゃあさ、しばらく男と女の中間みたいな俺で男に慣れていけば良いと思うよ」
エリー王女は首を傾けた。レイの笑顔の意味を考えてみたエリー王女は、小さく声を漏らす。
「あ……確かに今のレイにはちっとも緊張しません……顔はほとんど同じなのに……。凄いです……」
少し顔を赤らめたエリー王女は、とても感動しているのか目を輝かせてレイを見つめてくる。そんなエリー王女に対し、逆にレイが視線を揺らした。
「私のためにありがとうございます。あの……ですが、そのような体を変化させるようなお薬は体の負担が大きそうですが、お体は大丈夫なのですか?」
「え? あ、んー、物凄く臭くて不味いし、まだ試作品だから副作用とかまだよくわかってないみたい。まぁ、こういうのは慣れているから大丈夫だよ」
あははと事も無げに笑いながら答えるレイに対し、アランは険しい表情を向けた。