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第029話 悩み

 結婚式後の宴会はまだ続いていたが、三人は午後三時頃にはアトラス城へと戻ってきた。まだ明るい日差しが差し込むエリー王女の私室では、マーサが笑顔でエリー王女を迎える。


「じゃ、俺は部屋に戻るね」


 レイは着いたと同時にエリー王女に声をかけた。その声にエリー王女がぱっと隣に顔を向ける。


 次はいつ会えるのだろうか。こんな風に話すことはできるだろうか。昨日までのレイにまた戻ってしまうのではないかと、不安が込み上げてきた。


「……はい、今日はありがとうございました」


 そんな不安を飲み込み、笑顔を作った。震えそうな手をぎゅっと握り締め、レイの背中を見送る。


 カチャンと閉まる音が、やけに耳に響く。


「エリー様、本日はお疲れ様でした。まだお時間もございます。城内で行きたいところがあればお供致します」


 部屋にはマーサがいたため、約束通りアランはいつも通りの態度に戻っていた。分かっていたことではあったが、これからまた孤独な生活が始まるのかと思うと気持ちが沈む。


「いえ……。少し疲れましたので、部屋でゆっくり過ごしたいと思います……。ありがとう」


 視線も合わせずエリー王女が返事を返すとアランは眉間に皺を寄せた。少し様子がおかしい。部屋に戻る前との違いに疑問に感じた。


「……わかりました。では、何かあればお呼びください」


 もう少し外で遊んでいたかったか、本当に疲れているのだろう。そう結論付け、何も聞かずに部屋を出た。


「エリー様、今日は如何でしたか?」


 マーサが優しく微笑むが、何も反応を示さない。


「楽しく……なかったのですか?」


 顔を曇らせながらマーサが問うと、小さく首を振り顔を覆った。


「マーサ、ごめんなさい……。今は一人にしてください……」

「エリー様……。かしこまりました」


 マーサもまた、何も聞かずに一礼し、部屋を出ていく。扉が静かに閉まる音を聞くと、エリー王女は寝室に向かいベッドに倒れ込んだ。


 枕を抱き抱え、顔を押し付ける。すると堰を切ったように涙が溢れ出てきた。輝く世界を思い出すほど、暗い穴に落ちていく。レイもアランも、結局は自分と同じ場所にいないのだ。この城に戻ったことによってそれがよく分かった。


 私は一人なのだと。




 ◇


 アランが側近用の部屋に戻ると、レイはベッドの上で横になっていた。


「辛いか?」

「いや、んー……少し。改良したらしいし、前よりは大丈夫……かな……」


 アランがレイを覗き見ると、脂汗を流し辛そうに顔を歪ませている。


「その薬はもう使うのをやめた方がいい」

「んー……。でも、多分、男の姿じゃダメなんだ……。男女の友情には限界があるから……」

「かといって――」


 アランがそれについて反論しようとしたところ、扉を叩く音が部屋に響いた。迎え入れるために扉を開けると、神妙な面持ちのマーサが立っていた。


「エリー様に何か?」

「……むしろお尋ねさせてください。今日、何があったのでしょうか?」


 マーサがエリー王女の様子を伝えると、アランは首を捻りながらも(おこな)ったことや、エリー王女の様子を簡潔に報告した。


「……そうであればエリー様は楽しそうに私に報告してくださったことでしょう。しかしながら、エリー様は今にも泣き出してしまいそうでした……。何かあったとしか思えません」

「俺が聞いてくるよ」


 アランが振り返ると、レイは直ぐ側まで来ていた。


「そんな体調で行くのか?」

「うん、今の俺……。女同士なら話しやすいかもしれないし。それに今のうちに聞かないと魔法薬が切れちゃうから」


 力なく笑うレイにアランは大きく息を吐いた。レイには無理してほしくないが、エリー王女も心配だった。レイの言うとおり、もしかしたらレイには話してくれるかもしれない。渋々ではあったが、道を開けた。


「早めに戻れよ」


 アランの言葉に対し、レイは右手を上げて応えた。




 ◇


 レイはエリー王女の部屋の前に来ると深呼吸をして顔を作りドアを叩いた。しばらく待つが何も反応がない。もう一度叩いてみるがやはり反応がなかったため、そっとドアを開けて中の様子を伺った。


 リビングにはいない。


「エリー、入るよ」


 ゆっくりと部屋に入り、奥へと進む。寝室への扉が僅かに開いている。そっと扉を押し開けるとベッドの上に人影があった。


「エリー? 寝ているの?」


 枕に顔を埋め、背中を向けたエリー王女に声をかけた。しかし、反応がない。


「どうしたの? 具合が悪いの?」


 レイがベッドに腰かけると、振動でエリー王女の体がぴくりと反応する。起きているようだ。


「どうしたのか教えてくれる?」


 エリー王女の流れる髪をレイが優しく手で()く。今度は体を縮め、丸くなった。


「大丈夫、俺に話して……」


 エリー王女は小さく首を振る。しかし、傍にいることに対して嫌がる素振りは見せない。レイは何も言わず、何度もゆっくりと髪をとかしながら待った。


「……レイ」

「ん?」


 エリー王女のくぐもった声が聞こえ、レイは静かに続きを待つ。 


「……レイ。私がこんなに嫌な子だとは思いませんでした……」




挿絵(By みてみん)

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