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第028話 結婚式

 エリー王女の心に黒い靄がかかり始めた時、沿道の奥からわぁっという歓声が上がった。その声に、広場にいた人々も伝染するように歓喜の声を上げる。皆が注目する方に視線を移すと、色とりどりの花弁が舞っているのが見えた。


「エリー、来たよ。おいで」


 音楽や様々な声が大きく響く中、レイが耳元で声をかけ手を取った。いつもならそれだけで心が踊ったことであろう。しかし、エリーは心を別の場所に置いてきたかのように空虚であった。暗い部屋で一人ぽつんと佇み、明るい世界をただ遠くから眺めている。



 この輝く場所には、自分はいない。



 人混みをかき分け、花道の前へと歩み出た。そこから見えたのは、白の花冠を付け、シンプルな白いドレスを着た花嫁。レイの友人であるロンと花嫁は、仲良く寄り添いながら広場に向かって歩いて行く。


 人々が沿道や二階の窓から花びらを撒き、華やかな道を作る。その中をロンと花嫁は照れながらも笑顔で手を振り、沿道から聞こえるお祝いの言葉に応えていた。


「ローーーン! おめでとう!!」


 隣でレイもお祝いの言葉を叫ぶ。大きく手を振り、その表情は眩しいほどの笑顔。エリー王女は繋いだレイの手を僅かに握りしめた。


 神父が待っている広場に到着し、みんなの前で愛を誓う。誰もが笑顔で祝福しており、結婚する二人も凄く幸せそうだった。


 その光景にエリー王女も口角を上げ、同じように拍手を送る。


 

 しかし、心の中は決して明るいものではなかった。



――――羨ましい。



 そんな想いが心を埋め尽くす。好きな人と結ばれ、大勢の人達に心から祝福されることは自分には絶対にない。ただ国のために結婚するだけなのだ。


 横目でアランとレイを見ると二人とも嬉しそうに笑っている。こんな荒んだ心を持っているのは自分だけなのだ。


 だから暗く汚い心を自分で(いさ)め、蓋をした。醜い心に恥じ、そんな自分に気付かれてはいけない。エリー王女は笑顔を作った。


「ははははは。ロンのやつ、めちゃくちゃ幸せそうだな~。ごめん、エリー。ちょっと挨拶してくるね! アラン、少しだけ宜しく!」


 新郎新婦を眩しそうに見つめるレイが、瞳を輝かせながらロンの所へ走っていく。


「アランは行かなくて良いのですか?」


 アランはチラリとエリー王女を見てからレイの方を見る。


「あぁ、俺はこの地区の担当じゃないから」

「そうですか……。レイ、人気者ですね。あっという間に人の輪の中にいますよ」

「あいつは人懐っこいからな。何処へ行ってもあんなだよ。特技だな」


 少し嬉しそうに話すアランを盗み見ると目が合った。普段はそれほど表情を変えないアランだったが、今日は随分と色々な表情を見せる。


「アランもレイもお互いのことを話すとき、嬉しそうに話しますね」


 何気なく言ったエリー王女の言葉に、アランが驚き片手で顔を隠した。その仲の良さも羨ましい。


「……あ、ああ。そろそろエリーの作ったパンが配られるみたいだな。行こうか」

「……はい」


 二人で長い列の後ろに並び、順番を待った。会話もなく、ただ広場で奏でている音楽に耳を傾ける。すぐ近くで奏でているというのに、それもどこか遠くに聞こえた。




「ご結婚おめでとうございます」


 順番が回り、エリー王女は華やかな笑顔で声をかけた。


「ありがとうございます! エリーちゃん……ですよね? アランさんもありがとうございます。エリーちゃんたちが作ってくれたパン、どうぞ。幸せが訪れますように」


 新婦がピンク色に染まった丸いパンを差し出すと、エリー王女は両手で受け取った。


「幸せが……?」

「そう。これを食べるとエリーちゃんも素敵な恋をして、幸せが訪れるのよ。今日は本当にありがとう」


 新郎新婦と挨拶を交わし終えると、アランと一緒に広場の隅へと移動する。エリー王女は貰ったパンをただ見つめ、立ち尽くしていた。


「エリー? どうした? さっきから元気がないように見えるが……」

「え? いえ……圧倒されているだけです。でも大丈夫、とても楽しいです」


 アランの問いに、エリー王女は自分に言い聞かせるように笑顔で答えた。


「あ、いたいた! ごめんごめん」


 レイが小走りで近付いてきたため、エリー王女は小さく手を振る。するとレイは嬉しそうに笑った。


「パン、貰ってきたんだね。俺もほら。じゃ、一緒に食べよう! エリーが初めて作ったパン」

「はい、丸めただけですが」


 エリー王女はレイの笑顔で少しだけ気持ちが軽くなったように思えた。今は自分を見てくれている。それだけで嬉しいのだ。


 パンをちぎって口に入れると、それに合わせてアランとレイもパンを口に入れた。


「うん、美味しい! これで3人幸せになれるね!」


 レイが嬉しそうに笑うとエリー王女とアランもつられるように笑った。レイが言うとホントに幸せになれる気がする。


「よし! 次は踊ろう!」

「え?」


 中央で踊っている人達の輪の中へと引っ張っていき、レイはエリー王女の腰を抱く。近い距離に頬を染め、レイに心をときめかせた。先程までの薄暗い気持ちが嘘のようだ。


 今は考えるのを止めよう。


 エリー王女は今この時をただ楽しもうとレイを見つめ微笑んだ。




挿絵(By みてみん)






挿絵(By みてみん)

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