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第025話 友達

 やっと落ち着きを取り戻し、エリー王女は顔を上げた。涙で濡れた頬をレイがハンカチで拭うと、エリー王女は頬を染めて微笑んだ。


「あの……でも、どうしてアランみたいに振る舞うのをやめたのですか?」

「んー……今日だけ(・・・・)ではあるんだけど……」


 今日だけという言葉に、エリー王女の表情は曇る。


「昨夜ね、どうしたらエリー様が元気になるかってアランと話し合ったんだ。城下に下りた時のエリー様は楽しそうだったから、同じように振舞ったらどうかって案が出て……。だけど俺、以前と同じ態度に戻したらまた失礼なことをしてしまうんじゃないかって躊躇った」


 困ったように笑うレイを見て「失礼だなんて……」と小さく声を溢した。それを聞いたレイは嬉しそうにエリー王女の頬を撫でる。


「ありがとう。でも、エリー様は王女で、俺は配下なんだ。あんな風に……っていうか、こんな風に抱きしめたり触れちゃダメなんだ。でも一番大事なことはエリー様が笑顔でいることで、これで元気になってくれるのであれば、そこは努力でカバーするしかないかなって。まぁ、早速こんなんだけど」


 あははと笑うレイに対し、エリー王女は首を振る。


「嫌じゃないですから……」


 エリー王女は考えた。どうにかしてレイを繋ぎ止めたい。今日だけではなく、これからもずっと親しくしてほしい。


「友人に……。あの、本当の友人になっていただけないでしょうか?」

「え? えっと……どういうこと?」


 突然の提案にレイは驚いた。


「あの……この一ヶ月、ずっと誰も私のことなんて見ていない、なんて孤独なんだといじけて過ごしておりました。それは日に日にますばかり。私なりに何が原因で、どうすれば良いのか考えておりました」

「それが友人?」


 エリー王女は少し恥ずかしそうに頷くと、期待を込めて見つめてくる。そんな瞳で見つめられたら嫌とは言えない。しかし……。


「あー……、じゃ、アランにも聞いてみよう」


 さすがに自分の判断で決めることは出来ない。本当の(・・・)なんて、なっていいものなのだろうか。




 アランを呼び出し、レイはことの成り行きを説明した。眉間にしわをよせるアランにエリー王女は祈るような気持ちで見つめた。


「我々は配下であり、きちんと線引きをしなければなりません。王は絶対的な存在。エリー様もまたそうです。それを崩してしまっては均衡を保つことが出来なくなります」


 膨らんでいたエリー王女の心は一気に萎む。


「しかし、私たちはエリー様の幸せを願っております。苦しいことや悲しいことがあれば遠慮なくお話ください。それが我々の務めですか――」

「あぁ! なるほど。エリー様、俺わかったよ! 確かに! 冷たいっていうか心の距離感? エリー様の周りはみんなこんな感じだもんね。なるほどなるほど」


 レイが突然声を上げ、一人で納得しているとアランが訝しげに顔をしかめた。


「どういうことだ?」

「えっとね、エリー様ってさ、誰一人気楽に話してくれる人っていないでしょ? シトラル陛下は別として、他はいないんだよ。俺だって、記憶を失くしたときは孤独だった。だけどさ、俺には少しずつ心を開ける友達も仲間も出来た。それでやっと生きる意味ができたんだ」


 レイは隣に立つエリー王女の手を取り、顔を覗き込むように笑顔を見せた。


「俺、なるよ。エリー様の友達に!」

「えっ」


挿絵(By みてみん)


 エリー王女は驚き、頬を赤く染めた。レイは満足そうに微笑むと、今度はアランの方へ向き直る。


「アラン、この一ヶ月見てきたよね? エリー様がどのように過ごしてきたかを。アランだったら分かると思う。だって俺を救ってくれたのはアランだから」


 真っ直ぐ見据えるレイに対し、アランは眉間にしわを寄せたまま黙った。


 その傍でエリー王女はハラハラしながら二人を見つめていた。もしアランが良いと言えば、レイは本当に友人として接してくれるのだろうか。そうなったらどんなに嬉しいだろう。


「アラン。あの……確かにそういった身分の線引きも大切なのかもしれませんが、私はもっと二人と心を通わせたいです。そしたらきっと……もっと何か見えてくるものがあると思うのです」


 ちょっと説得力に欠けるなとは思ったが、それでもエリー王女はアランに訴えるように見つめた。アランはメガネのブリッジをくいっと上げ、ゆっくりと息を吐いた。


「……そういうことでしたら、わかりました。ただし条件がございます。城内でも他の者が周りにおらず、公務の話以外はそのようにいたしましょう」

「え……宜しいのですか?」


 エリー王女がおずおずと確認すると、アランがふっと笑った。


「二言はない。やるからにはきちんとやる。あと、友人だから()はつけないからな」

「やったー! さすがアラン! そうだね。よろしくね、エリー」


 アランとレイの笑顔を交互に見て、やっと実感が沸いて来る。


「は、はい! あ、あの……お二人のお心遣いに感謝いたします!」

「あはは。なんかちょっと固いけどいいか」


 エリー王女もレイも嬉しそうに笑っている。アランはその様子に安堵した。

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