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第022話 上手くいかない心

 今度は急に体を離されたため、エリー王女は近くにあるレイの瞳をじっと見つめた。その瞳は揺れている。


「ごめん……いや……」


 レイは謝ると、顔を歪ませた。そして、エリー王女から一歩離れて(ひざまず)く。


「無礼な働きをしてしまいました。申し訳ございません」


 その姿に、エリー王女の胸にチクリと針を刺されたような痛みが走った。確かに、配下である者に抱き締められるのはおかしい。しかし、その行為でエリー王女は安心できたのだ。


 エリー王女は小さく首を振る。


「……いえ、気になさらないで下さい。私は気にしておりません」


 エリー王女が声をかけても、レイは頭を下げたまま動こうとしなかった。


「レイ……。あの、本当に……」

「ありがとうございます。以後気を付けます」


 レイはすっと立ち上がり、来た道を振り返る。


「ではエリー様。そろそろ戻りましょう」


 いつもとは違う距離を感じる声。違和感を感じつつも返事をすると、レイはエリー王女の顔を見ずに歩き出した。慌てて後に続き、城へと向かう。道中、レイは一言も話さなければ、一度も振り向きもしない。


 急にどうしたのだろう。今回の件を気にしているのだろうか。色々と考えるが、エリー王女はレイに声をかけることができなかった。


 城に着くと着替えるために部屋へ通された。その際も、レイは形式ばった挨拶をしただけで決してエリー王女の顔を見ようとはしなかった。今までとは違う様子に、エリー王女は戸惑いドレスの裾をきゅっと握り締める。




 モスグリーンの差し色が入ったドレスに着替え、支度が整った頃にアランが部屋に入ってきた。


「シロルディアとの友好を深めるため、本日時間を設けていただきました」


 本日最後の接見は、シロルディア王国のディーン王子である。彼は次期シロルディア王国の国王となるため、エリー王女との婚姻を希望していないとのことだった。


 アランは説明をしながら次の場所へと移動する。しかし、アランの説明など耳には届くことなく、エリー王女はぼうっとアランの背中を見つめて歩いていた。それはレイの不可解な行動がエリー王女の心をかき乱していたからだ。胸が苦しい。エリー王女は胸をそっと押さえた。


 目的の場所に着くと、アランは扉の前で立ち止まる。


「こちらでお待ちです」


 扉の脇に立つ使用人二人にアランが視線を送ると、使用人が重厚な扉を開けた。明るい日差しと爽やかな風が吹き抜ける。その風を感じ、エリー王女はやっと我に返った。またこの時間が始まる……。重い足で一歩前へ進んだ。


 広い接見室の奥に庭園が一望できるテラスがあり、そこに二人の人物が立っていた。一人は体が大きく、国色である碧緑色の上質なジャケットを着ている。


「ディーン様。お待たせいたしました」


 アランがその人物に声をかけると、ディーン王子がゆっくりと振り返った。そして、細い瞳を更に細め微笑む。


「本日はお時間を頂戴いたしまして、ありがとうございます」


挿絵(By みてみん)


 さらりと長い前髪を揺らしながら、ディーン王子が丁寧にお辞儀をした。そんな柔らかな物腰にエリー王女は少しだけ安堵し、同じく丁寧にお辞儀を返す。


 シロルディア王国は自然豊かな国であり、国民性ものんびりとしている。ディーン王子もまた優しい笑みを浮かべ、その国を表しているかのように見えた。


 お茶を飲みながら、ディーン王子との会話が始まる。しかし内容は頭に入って来なかった。エリー王女はただ相づちを打ち、無難にやり過ごす。


「エリー様は私の話などつまらないと見える」

「ぁ……いえ、そういうわけではないのです」


 長い話の中、つい違うことを考えてしまっていた。それはレイのことである。よそよそしい態度が引っ掛かっており、時々思い出しては小さなため息を溢していた。


 ディーン王子は笑顔を保っていたものの、不快に感じていたに違いなかった。




 ◇


「エリー様。ディーン様への応対はあまり褒められたものではありませんでした。エリー様は国の代表としてディーン様とお会いしております。エリー様の印象が悪ければ、この国全体の印象も悪くなるのです。そもそも――」


 エリー王女が私室に戻ってから、アランは説教を始めた。ディーン王子だけではなく、リリュートやジェルミア王子のことについても淡々と注意する。エリー王女は俯きながら静かにそれを聞き、反省した。


「申し訳ございません。今から謝罪をしに行くべきでしょうか……」

「いえ。既にフォローは入れておりますので、明日からはこの反省を活かして行ってください」


 眼鏡の奥の瞳が冷ややかに自分を見ているようで、重なった視線を直ぐに反らし、はいと小さく応えた。


 アランはため息をつく。


「……まだ一日目です。いきなり完璧になってほしいとは思っておりません。私とレイとでフォローしていきますので、失敗は恐れずにやっていただければと思います」


 アランは少し言い過ぎたかもしれないと、言葉を付け足したのだったがエリー王女は視線を上げようとはしなかった。





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