第166話 カルディア王子
アランが剣を振り上げた瞬間、後方から矢が飛んできた。その矢をアルバートが切り落とす。それと同時に部屋のあちこちから兵士が飛び出し、三人に向かって襲ってきた。三人は素早くそれをかわし、すぐに攻撃を加える。
アランは目の前にいるカルディア王子に狙いを定めた。
「カルディア様。こちらの動きを読んでいたようですね」
剣を振りかざしカルディア王子に切りかかると、カルディア王子が剣で受け止める。
「まさか、アトラスの者と手を組むとは思ってはいなかったがなっ。くっ……」
カルディア王子の体が傾いた。筋力はそれほどないようだ。
「デールがアトラスと戦っても勝ち目はありません。何故、無駄な争いをするのですか」
ベッドの掛け布をカルディア王子が翻す。布で姿が見えなくなったが、アランは冷静に布が落ちるのを待った。
「はっ。そういう勝気な態度だから腹が立つのだ! お前らはローンズの後ろ盾がなければ大したことはない!」
「それでも尚戦いを挑むとは無謀ですね」
アランが土足でベッドに踏み込み、距離を詰め、睨みを利かせながら剣を振るう。カルディア王子の左頬に一筋の真っ赤な血が浮かび上がる。
「くっ……、だが、ローンズは今回の戦争には参戦しない。我々を止めたとしても、もう全ては動き出しているのだ」
カルディア王子の不適な笑みにアランが目を細めた。一旦カルディア王子から距離を置き、ポケットから小瓶を取り出しそれを素早く剣に振りかける。
「それは気になるセリフですね」
アランは低い姿勢からカルディア王子との間合いを一気に詰め、上から下に剣を振り下ろした。あまりにも素早い動きだったため、カルディア王子は剣で受け止めることも出来ず、剣が肩に止まる。
カルディア王子の左肩が損傷したのだろう。腕から真っ赤な血が垂れ出した。
それでも戦おうとカルディア王子が剣を構える。
「ううっ……な、なんだ……?」
カルディア王子の顔が歪み、剣を持つ手が震えだした。
握りしめていた剣が手から離れ、その後すぐにカルディア王子は膝から崩れ落ちる。
「痺れ薬ですよ。あなたからゆっくり話を聞く必要がありそうでしたので使わせてもらいました」
カルディア王子の額に剣を突き付けると、近くにいた兵士二名がアランに襲い掛かってきた。
アランはひらりとかわし、兵士の剣をそれぞれはじき返す。この二人も動きが遅い。アランは一人一人着実に仕留めた。
後ろではアルバートとアリスもそれぞれ向かってくる兵士三、四人と交戦している。
アリスは向かってきた四人に向けて横に剣を振る。かまいたちのような風が吹き、四人の体のあちこちを切り刻んだ。直ぐに間合いを詰めて一人、二人と順に電流を流し気絶させていく。
アルバートは体術と剣技を組み合わせ、同時に三人の兵士と戦っていた。相手の攻撃を剣で受けかわし、体術で攻撃を加える。
ジェルミア王子から万が一兵士に会った場合は、なるべく殺さずに捕らえて欲しいとの要望があったからだった。
「ったく。この人数相手に無茶言うわよね。まぁ、この戦力で助かったわ。ね、アルバートさん」
アリスは自分の相手がいなくなると手を腰に当て、アルバートの様子を笑顔で眺める。
「アリスちゃんは余裕だね~。よいしょ! とりゃ! まぁ、アリスちゃんいなかったらっ。厳しかったよっっと!」
魔法の使えないアルバートは、三人を同時に相手にするのは流石に大変そうだ。一人やっと気絶したところである。
「まぁ、そうね。魔法は大人数相手に向いてるしね。ねぇ、手伝おうか?」
「うん、一人よろしく~」
「オッケー」
アリスはにこりと笑い、手に雷を集めるとアルバートと戦っている一人に素早く近づき体に手を当てた。電流が流れ一人がその場に倒れる。
「それさっ! 本当に気絶してるの? んっしょ! アリスちゃん。よいしょ! その攻撃めっちゃ強い! っていうか怖いっ!」
アルバートは最後の一人を倒し一呼吸置く。
「でしょ~。雷は得意なんだ~。へへへ。ちゃんと気絶してるだけだから安心して」
「ははは、敵に回したくねえな」
アリスは照れくさそうに頭を掻いていた。
「さてさて、アランは~……と……」
アルバートが振り返りアランの様子を見ると、丁度兵士が倒れたところだった。
「あれ? カルディア王子も殺さなかったん?」
二人でアランがいるところまで近づき、足元に転がるカルディア王子を指さす。
「ああ、有益な情報を持っていそうだったからな。とりあえず、連れて行こう」
「ふ~ん。あっちは上手くいってっかな~?」
「大丈夫に決まってるでしょ! セイン様がいるんだから上手くいってるわよ」
アルバートの言葉にアリスがムッとする。
「へ~、今度はセイン様? レイに似てるしな~。でも王子はやめておけよ」
「なっ! 変なこと言わないでよ! 私はただ――」
「いいから行くぞ」
アランは黙々とカルディア王子を縛り上げ、二人に冷たい視線を投げた。




