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第158話 罠

 剣を突き付けられたギルは、困ったように笑った。


「申し訳ございません。我々はただの旅人。デール王国に貢献する義理はございません」

「ポルポルを放った先も聞く必要がある。抵抗せずに従うように!」


 一歩も引く様子がない。ギルはセイン王子に指示を仰ぐため視線を送る。


「一つ聞きたい。アトラスに楯突けば、ローンズも敵に回すことになる。勝つことは難しいと思うが、勝算はあるのだろうか?」


 セインが一歩前に出て問う。


「ローンズはアトラスを助けないと聞いている。よって勝機は我々にあるのだ!」

「助けない? そんなばかな……」


 ローンズ王国が助けない理由なんて何もない。なら、何か策を投じたのだろうか?


「我々は明日アトラスへ向かい、討つのみ!」


 意気揚々と語る兵士を見て、セイン王子の握った拳に力が入る。


「……討ってどうするんだよ。領地の奪い合いなんて……」


 セイン王子の父であるダルスが何人もの命を奪って作り上げた世界は、幸福からほど遠いものだった。

 悲しみを生むだけの戦争なんて意味がない。


「アトラスに住む者たちが奴隷として働けば、我々の生活は豊かになる。旅人のお前たちも功績を残せばよい待遇を得られるだろう」

「……それは自分たちだけ良ければそれでいいということだよね? 違う……そんなんじゃダメなんだ……」


 セイン王子は首を振り、アランとアルバートを見た。


「ごめん、俺、ここで食い止めたい。二人には少し危険かもしれないけど……」

「問題ない。俺たちも被害は少ない方がいいと思っている」


 アランの言葉に同意するようにアルバートが頷く。同意を得たセイン王子は、目の前の兵士をまっすぐ見据た。


「我々はこの戦争についてバルダス陛下と話がしたい。お目通り願う」

「……ぷぅー!! はーっはっはっはっはっはー! お前のような旅人に陛下がお会いするわけないだろ?」


 兵士達は顔を見合せてから大いに笑う。

 馬鹿にした様子にギルは腹を立てながら、ローンズの国章が入った剣の柄を見せた。


挿絵(By みてみん)


「こちらはローンズ王国、第二王子、セイン様であらせられる! 無礼な振る舞いはご遠慮願います!」


 一気に馬屋内が静まり返った。

 国章が描かれる物を持てるは王族のみ。兵士たちは食い入るように見つめた。


「ドラゴンの紋章……。ローンズのセイン様……? こ、これは失礼いたしました! 今すぐご案内いたします!」


 状況を理解したのか、兵士たちは慌てて手のひらを返した。




 ◇


 デール王国の王都には、王族と貴族のみが使用を許されている馬車道がある。そこの通行を許可されたセイン王子達は馬を使ってデール城へ向かった。


 デール城内はバタバタと慌ただしい。まさにこれから戦場へ向かう兵士たちの鋭気で満ちていた。四人はその空気を肌で感じながら案内人の後に続く。


「狭い部屋で申し訳ございません。今すぐ謁見の用意を致しますのでこちらでお待ちください」


 簡素な部屋だ。少し魔力を感じるのはこれから戦争に使用するための魔法薬の影響だろう。

 応接机に二人掛けのソファーが二つ。セイン王子は気にする様子もなく深く腰掛けた。アランとアルバートは部屋に異常がないか見て回る。ギルは落ち着かないのか小さな窓の側へ移動し、外の様子を眺めた。二階に位置するこの場所からは多くの篝火と兵士たちが行き来しているのが見える。


「バルダス陛下を止めることが出来るのでしょうか……」


 ギルが曇った表情を向けてセイン王子に尋ねた。


「分からない。だけど、ローンズがアトラスを助けないという言葉が気になる。ローンズに何かを仕掛けたのかもしれない。我々を敵に回すようなことはないとは思うけど、万が一そんなことがあれば手加減はしない」

「セイン様、あまり無茶しないでくださいね」


 殺気立っているセイン王子をなだめる様にギルが声を落とす。


「わかってる。アラン、アル先輩。二人がアトラスの者だと知らせるわけにはいかないから、静かに脇で立っていて。幸い、二人は黒い普通のスーツだ。多分バレないと思うけど……」

「ああ、目立たないようにする」

「任せておけって。それにしてもこの部屋あっちーなー」


 冷気を出す魔法薬も置いていないければ、窓も締め切ったままだ。セイン王子を迎える部屋にしては待遇が悪い。


「歓迎されていないのかもね……。もしも、問題が発生したらアランとアル先輩はギルと一緒に逃げて。ギルは二人のサポートをするように」

「セイン様はどう……」

「おいっ! 口を塞げ! 睡眠魔法薬の匂いだ!」


 アランが叫び、扉に駆け寄った。ガチャガチャと音が鳴るだけでびくともしない。ギルも側にあった窓を開けようとしたが、どこにも開けるための取っ手が見当たらなかった。


「アランどいて!」


 セイン王子が扉へ向かって炎の魔法を放つが、扉にぶつかった瞬間に魔法が消滅する。


「この部屋……消滅魔法が施されている? アル先輩、そっちは?」

「ダメだ、窓も割れねえ!」


 アルバートもギルをどかし、剣の柄でガラスを割ろうしたがはじき返されていた。


「うっ……」

「アランっ! 先輩も!?」


 アランとアルバートが膝から崩れる。睡眠魔法薬が効いたようで、セイン王子がアランに駆け寄った時にはもう眠っていた。


「ギル、解除魔法を!」

「は、はい! 扉中心にかけます。直ぐに壊していただけますか?」

「わかった」


 ギルが手をかざすと扉が淡く光ったが、魔法が扉に吸収されたように消えていく。


「睡眠魔法を先に解除しよう……くっ……」


 セイン王子の視界が歪んでくる。

 いくら魔力への抵抗力があるセイン王子とギルでも時間をかければ、魔法が効いてくる。


「こう魔力が充満していては、場所を特定できません。全体にかけます!」


 ギルが部屋の中心へ行き、床に手を置いた。魔力を込めると、水色の淡い光が壁に向かって這っていく。しかしそれも直ぐに消えていった。それでもギルは魔力を流し続ける。


「それではギルの魔力が尽きる! くそっ。まさかローンズにまで敵に回すとは」


 セイン王子がぐらつく頭を抱えながら室内を見渡した。

 壁や床は魔力を吸収する。そこには魔法薬はないだろう。


「ギル! そっちのソファーを調べて!」

「……は、はい」


 ギルは目頭を押さえたままその場に倒れた。


「ギル!」


 セイン王子も既に限界に来ていた。もし睡眠魔法薬を見つけたとしても解除する手立てがない。

 ローンズ王国を敵に回すわけがないと高を括った自分の傲慢さを悔やんだ。


「ごめん……みんな……」


 朦朧とした意識の中で、セイン王子が呟いた――――。






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