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第131話 未熟

 エリー王女の宣言にアルバートは首を傾げた。


「……王女を辞める? 突然何を言って……」


 アルバートがジェルミア王子やリリュートをチラリと見ると、二人も困惑したようにエリー王女を見ている。


「私は――」


 エリー王女は自分本意であること、自分の行動に責任感がないことなどの理由を説明する。


「そんなことはありません。エリー様は人々のためにしっかり責任をもって公務を行っておりました」


 リリュートが自身を戒めるエリー王女を静かに諭すが、エリー王女は首をふった。


「それは王女としての行動です。私が申しているのは人として未熟だということです。リリュートの気持ちもジェルミア様の気持ちも知りながら、王女として……と言い訳をしながら行動しておりました。その結果、二人に曖昧な態度を示し傷付けてしまったのです。もっと人として成長してから王女の責務を果たそうと思います」

「成長したい気持ちは分かったけど、それが王女を辞めるのとどう繋がるんだい?」


 ジェルミア王子の言葉を受けて、エリー王女は真っ直ぐ視線を返す。


「私の最も足りないものは人との交流。それも対等に扱って頂く必要がございます。ですので、身分を隠してどこか大勢の方と接することができる場所……。例えば学校! 教育を受けるのはいかがでしょう?」


 名案だと思ったのかエリー王女は瞳を輝かせてアルバートを見た。


挿絵(By みてみん)


「えっと。エリー様はお命も狙われた経緯もありますので、陛下はお許しにならないんじゃないかな~と……」

「勿論お父様に直接お願いをするつもりです。説得するのも独立するための一歩だと思います」


 エリー王女の突拍子もない提案に三人は顔を見合わせた。

 アルバートはうーんと唸り、ジェルミア王子は渋い表情を見せている。


「エリーちゃん。本当に出来ると思っているの? この国には世継ぎがエリー様しかいない。何かあったらどうするの? それこそ無責任なんじゃない?」

「理解しております。ですが、このまま城にいてもお相手を決めることは出来かねます。ならば前に進むために行動しなければなりません。これは前向きな一歩なのです」


 ジェルミア王子の苦言にも一歩も引かないエリー王女にジェルミア王子は吹き出した。


「ははは。前から思っていたけどエリーちゃんって意志が強いよね。決めたことは真っ直ぐ突き進む。こんなにふにゃふにゃしてそうなのに」

「ジェルミア様……」

「難しいとは思うけど、どうしていくことが一番なのか考えようか」

「そういうことであれば、私もお手伝いします」


 エリー王女だけではなく、ジェルミア王子やリリュートまでやる気になっている。その様子をアルバートはただじっと見守っていた。


 誰も選ばないという宣言が二人の心に余裕を持たせたのかもしれない。時間をかければチャンスも生まれるだろう。アルバートはそんな風に考えた。


 そして、アルバートもエリー王女の提案は賛成だった。

 同じくエリー王女が無理に誰かと親密な関係にならなくてもいいため、セイン王子に会わせるための手はずを整えるための時間が稼げるからだ。


「失礼します。それでしたら、アランも交えて五人で練りましょう。こういうことは多くの知恵を借りた方がいいと思いますので」


 アルバートの提案にエリー王女は少しだけ顔を曇らせた。


「アラン……賛成してくれるでしょうか……」

「大丈夫っすよ。そこは俺に任せていただければ。ああ、あとはセロードさんも巻き込むべきっすね」

「分かりました。どちらにしても、アランには知らせなければならないですものね。セロードについてもその方が良いのであれば宜しくお願いします」

「わかりました。では、部屋を用意します」


 この件はシトラル国王という壁をどう乗り越えていくかにかかっている。慎重にことを進めないといけないため、アルバートは素早く行動に移した。




 ◇


 シトラル国王はエリー王女の提案に難色を示した。


「国内情勢に傾きがある今、エリー様のお相手を選ぶことも困難です。対外的にはエリー様を後宮に戻すこととし、その間に国内環境を整えることを宣言しましょう。国王選びはそれからだということを示します」


 エリー王女の代わりにセロードが代弁する。


「エリーの安全はどうするつもりだ」

「エリー様は後宮にいらっしゃることになりますので、一般市民に紛れることが出来るかと。K地区は格段に治安が良いですし、諜報部隊が隠密に護衛を行うことも可能です。もちろん側近二人も付けます」

「ううむ……」


 眉間にシワを寄せたままシトラル国王は黙った。


 現在シトラル国王の中では、王位を継ぐ者はエリー王女が良いと考えていた。王位を継ぐのであれば、国内の情勢を学ぶことも必要である。


 エリー王女が国王になれば、相手はお飾りの王配。

 もしも町で気に入った者が現れたとしても、その男は王女として好きになるわけではない。何のもくろみもなく純粋にエリーを好きになる男である。


 この国を脅かすこともない男……。

 しかし不安は拭えない。


「検討する」


 シトラル国王はそれだけ答えた。




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