第128話 リアム国王の考え
◇
「うう……。ねっみぃー……」
アルバートがぐらつく頭を起こし、ベッドの上で額を押さえる。窓の向こうは雪がチラチラと舞い、朝日がアトラス城を包みだしていた。
なんとかベッドから降り、ふらついた足取りでシャワー室へと向かう。熱いシャワーを頭から被ると室内は一気に白い湯気に覆われた。
「うぅ……あったまいてぇ~」
レイの話を聞いたアランとアルバートは気分が良くなり、ビルボートに乗せられてつい大量に飲んでしまったのだ。
頭を洗うと幾分スッキリし、アルバートはやるべきをこと考え始めた。
まずはジェルミア王子とリリュートと距離を取ること。
そしてレイとエリー王女を結婚させる方法。
「リアム陛下はどう考えてんのかなぁー……」
リアム国王も反対しているのであれば結婚することは極めて難しい。
取り敢えず様子を探ろうと準備を済ませたアルバートは、エリー王女の部屋を訪れた。
「おっはよ~ございまぁ~す! あ、マーサさんもおはようっす!」
二日酔いを吹き飛ばすかのように明るい声で挨拶をすると、エリー王女は目を丸めたがすぐに微笑んだ。
「お、おはようございます。今日も元気ですね」
「やっぱり、笑顔でいると気分も明るくなりますから。ささ、エリー様もご一緒に!」
アルバートが満面の笑みを見せるとエリー王女は納得をする。
「……こうですね」
エリー王女はアルバートに向かって笑みを作った。
「うん、可愛い! 良かった。思ったより元気そうっすね!」
「ご心配感謝します。昨日はアルバートに全て話すことが出来ましたし、暫くは気にしなくても良いと言って貰えましたので。あの……マーサがいるときでも……その……」
僅かに頬を染めながらエリー王女は何か言いたそうにしている。
「ああ、喋り方っすか? オッケーオッケー。んじゃ、ちょっと質問なんだけど、昨日はリアム様と何か話した?」
「何か……ですか?」
「あー、いや、例えばセイン様の話とかなんでもいーんだけど」
「セイン様の様子をお伺いしましたが、まだ眠っていらっしゃると……。あ! ですが、ディーン様からはセイン様がお目覚めになられたと聞きました! まだ公に出来ない理由があるのでしょうか?」
エリー王女が首を傾げるとアルバートはうーんと考え込んだ。
「どうだろーな。他には?」
「そうですね……。リアム様とは挨拶した程度で殆ど会話をしておりません。リアム様がどうかしたのですか?」
「リアム様だぜ? 色々と知りたいじゃん? 剣を扱う奴なら興味ねーやつはいねーから。ほら、俺が直接声をかけるわけにはいかねーし」
「そうでしたか。レイもアランも嬉しそうでしたし、やはり皆さん憧れる方なのですね」
エリー王女は嬉しそうに微笑んだ。
◇
アトラス城に来ている各国の来賓客と朝食を一緒に取るため、エリー王女が大食堂の入口に立った。
最初に入ってきたのはリアム国王と側近のハルだった。アルバートの背筋が伸びる。レイの様子を聞きたいがそこはぐっと堪えた。
「リアム陛下、おはようございます。夜はゆっくりお休みになれましたでしょうか?」
何も知らないエリー王女は王女としての役目を行う。
「問題ない。エリー王女はその後、行くべき道を決めたのか?」
「……陛下から助言いただいたお陰で、公務を行い、この国をより深く知ることが出来ました。ありがとうございます。ですが、結婚相手を見つけるのは……」
言葉に詰まるエリー王女に対し、リアム国王は目を細めた。
「以前もそのようなことを言っていたな。……焦らなくてもいい。焦れば正しい判断が出来なくなる。いずれ運命に導かれるだろう」
「はい……ありがとうございます。そう仰っていただけて心が楽になりました。リアム陛下、またローンズ王国へ訪ねても宜しいでしょうか?」
「勿論だ。シトラル陛下が許して下さるなら弊国はいつでも歓迎しよう」
リアム国王が穏やかな声を落とすと、エリー王女は嬉しそうに微笑んだ。とても良い雰囲気である。何も知らないで見ていたらアルバートも勘違いしたであろう。しかし、アルバートはレイのこと、セイン王子のことを知っている。だから、リアム国王の言葉を一つ一つ拾っていた。
国王選びは焦らなくてもいい。
運命に導かれる。
シトラル陛下の許可。
歓迎。
これらの言葉から、セイン王子とエリー王女との関係について、リアム国王は反対ではないかもしれないとアルバートは思った。
ふと視線を感じたアルバートは、リアム国王の隣に立つ人物に視線を移した。側近のハルである。ハルはにこやかに笑みを浮かべてアルバートに会釈した。




