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第011話 ローンズ王国 リアム国王

 エリー王女が来賓の方々に挨拶をしている間、レイは警護を行うためホール内を回っていた。歩くたびに聞こえてくるのは、エリー王女の美しさと品の良さを褒め称える声ばかり。レイはその声に安堵し、同意もした。


 警護をしつつ、国王候補として上がっている人物の様子も同時に見て回る。自国の王族、貴族。そして各国の国王や王族もエリー王女を一目見ようと集まってきていた。

 彼らは、エリー王女に対する値踏みを終えると、外交を行う者、女性を口説き出す者、身内同士で話をしている者など様々で、中にはずっとエリー王女を見つめている人物もいた。その目付きにいやらしさを感じ、レイは要注意人物としてチェックした。


 レイが警護をしていると、ローンズ王国のリアム国王と目が合った。視線が交わった瞬間、背筋がすっと冷えるような気がした。紺色のマントを纏い、誰も寄せ付けない力強い瞳。リアム国王の周りだけ何かピリピリとした空気が漂っていた。


挿絵(By みてみん)




 リアム国王は傍若無人だった父である前国王を死に追いやり、若くして王となったことと、アトラス王国との同盟を初めて結んだという事実から、他国から一目置かれる存在になっていた。

 そもそもローンズ王国は前国王時代から軍事力に優れており、人々から恐れられている国だった。それが、経済大国であるアトラス王国との同盟を結んだことによって、より強大な力を得たのである。


 当時、他国から『アトラスはなぜそんな危険な国と同盟を結んだのか』と訝しく思われていた。


 しかし、アトラス王国はこの同盟によって、軍事力の優れたローンズ王国からの後ろ楯を得ることができたのだ。このことが他国への牽制となり、アトラス王国の侵略を企てようなど誰も思わなくなった。アトラス王国にとってもかなりの有益な同盟だった。


 そんな同盟を提案したのがリアム国王である。彼はアトラス王国にとって重要な人物であった。




 レイは深く一礼をしてリアム国王をもう一度見る。リアム国王は手のひらを上にし、くいっと曲げた。こちらに来いと言っているようだ。レイは何の用だろうと、緊張しながら側へと近付いた。


「お初にお目にかかります、リアム国王陛下。何かご用命でしょうか」

「君はエリー王女の側近だったな。エリー王女と先ほど少しだけ話をしたがとても聡明な方のようだ。この国や近隣国の運命は、彼女の手にかかっていると言っても良いだろう。それに伴ってエリー王女もそうだが、君たち側近にも危険が伴う。くれぐれも気をつけて励んでほしい」


 そう伝えるリアム国王は厳しい瞳を更に鋭くした。


「お気遣いありがとうございます。王女殿下は命に変えてもお守りいたします」

「そうか。しかし、命は大切にするように。君たちはただの駒ではないのだから。いや、私が言うことではないか……」


 変わらず厳しい表情ではあったが、どこか憂いを帯びているようにも見えた。ローンズ王国の前国王は、人を人とは思わぬ所業を繰り返していたと聞いている。何か思う所があるのだろう。レイはそんな風に感じた。


「いえ、ありがとうございます」

「……では、私はこれで失礼するが、王女に宜しく伝えておいてくれ。あと、是非とも我がローンズにも足を運んでほしいとも」


 リアム国王は一瞬ではあったが優しく微笑み、レイの腕を軽く叩いた。それはとても親しみを感じるものだった。すぐにマントを翻し、側近と共に踵を返す。レイは、リアム国王が見えなくなるまで頭を下げて見送った。


 レイはローンズ王国には何度か訪れたことがあったが、リアム国王を見たのはこれが初めてだった。軍事国家である国王は恐ろしい方だとレイは想像していた。しかし実際には、側近である自分にも気にかけるようなとても優しい人だった。ローンズ王国の騎士達が、リアム国王をとても敬愛している理由が分かった気がした。


 年齢は二十八。エリー王女との差は十。器量もとても良い。普段は確かに近寄り難いが、笑顔はとても優しいものだった。


 このような方が、エリー王女の相手に相応しいのかもしれない。


 レイは、そう感じた。しかし、相手が国王であれば、両国がその国王のものとなる。領土が広くなれば統治が難しくなり国が荒れてしまう恐れがあるため手腕が必要だ。


 そしてリアム国王はエリー王女との婚姻を希望していない。


「なんでだろ……」


 少し残念そうにレイが呟くものの、候補者は多岐にわたっており、リアム国王にこだわる必要はない。レイは、ホール内を見渡す。


「この国の運命か……重いだろうな……」


 レイは、ふとエリー王女の方を見てみる。ちゃんとコミュニケーションが取れるか心配であったが、しっかりとやっている様子に、レイは優しい笑みを浮かべた。明日から本格的にお見合いが始まる。自分はとにかくエリー王女を支えようと心に誓った。




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