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第106話 治療

――――数時間前。


 治療室へ運ばれたレイには意識がなかった。魔法薬で止血は出来たものの、どんどん衰弱していくのが見てとれる。


「俺の魔力があれば……! 何とかならないのでしょうか!?」


 アランの肩を借りて何とか立っていたギルは、医者に尋ねた。


「我々の技術では魔力を回復させることはできません。もし出来るとすれば――――」

「私の出番かしら?」


 入り口から聞こえる声にアランとギル、医者が振り返る。

 そこにはボサボサの髪を後ろに束ね、白衣を着たひょろっとした、中年の男が立っていた。顔色は良くないが嬉しそうに笑っている。


「あなたは……あ、私は――――」

「知っているわ。補助魔法の使い手、ギルくん。んー、側で見れるなんて嬉しい~。どんな魔力の流れで回復するのかしら」

「あ、あの……」


 男は恍惚した表情でギルの頬や腕を撫で回す。


「セルダさん、何をしに来たのですか?」


 アランがギルに触れていた男の手を取り、眉間にシワを寄せた。


「やだ、怖い顔。男前が台無しよ。噂を聞いて良いもの持ってきたんだから。はい、ギルくん」


挿絵(By みてみん)


 差し出されたのは、小瓶に入った真っ黒な液体だ。

 ギルは不思議そうに、それを受け取った。


「心配しないで、私はこう見えて魔法薬研究の室長なんだから。まぁ、試作品だけど」

「試作品? 危険じゃないのか?」


 アランの問いにセルダはレイに視線を移す。


「そりゃ()()は危険よ? でもレイを助けたいのなら、試してみるのね。それは魔力回復薬だから」

「魔力回復薬ですか? 俺、飲みます!」

「ギルさん……」


 一刻を争う状況だった。

 朝まで持たないかもしれない。


 ギルは迷いもなく一気に飲み干す。


「うぐっ……!!」


 体が一気に焼けるように熱くなり、ギルは喉を押さえた。膝から崩れ落ち、天井を仰ぐ。息が出来ず、口を大きく開いた。


「ギ、ギルさん!!」


 遠くでアランの声が聞こえてくる。


 体の中が痛い。

 苦しい。


「うーん、失敗かしら? 魔力がないから抵抗力が低いのかもしれないわね。なら少し手助けするしかないかしら」


 セルダはギルの背中に手を当てて、自分の魔力を注ぎ始めた。


「……っはぁ!!」


 息が大きく吐き出され、ギルは両手を床に付いた。


「もう少しそのままでいてね。私の魔力は研究に使っちゃったから少ししか残ってないけど送るわ」

「ちょ……セルダさん! まさか、魔法薬使わなくても……」

「あら、タダであげるわけないじゃない。あとでどんな感じだったか教えてちょーだい」


 魔法使い同士では魔力の受け渡しが出来る。それを知らなかったアランは、唖然としたままセルダを見つめた。


「あんまりあげすぎちゃうと私も立てなくなっちゃうから、ギリギリのところまでよ。……そうね……もう少し……ここまでね」


 セルダはギルの背中を叩いて、終わりを告げる。


「ありがとうございます」


 青い顔をしたギルはセルダに微笑む。死にそうになったにも関わらず、何も疑問に感じていない様子だ。


 よろよろとした足取りでレイが眠るベッドに向かう。

 横たわるレイの脇腹には大きな傷跡。それに、無数の切り傷がいたるところに刻まれていた。


「シリル……」


 体に手をかざし、意識を集中すると手から暖かい光が広がっていく。

 淡い光がレイの体を包み込んだ。


 ぐちゃぐちゃになっているであろう体の内部が形成されるには時間がかかる。

 少ない魔力でどこまで回復できるのか分からない。


 ギルは祈るように魔法をかけ続けた。

 その甲斐あってか、レイの顔色に少し赤みが差す。


 しかしそのタイミングでギルの体が傾き、光が消えた。

 アランが慌ててギルの体を支える。


「すみません、ここまでが限界でした……。先生、確認して頂けますか?」


 近くで見守っていた医者が頷き、レイの体を調べる。


「凄い……。一番大きな脇腹の傷、ここが塞がっている。まだ皮膚が作られてはいないが、二三日安静にしていたら動ける位にはなるでしょう。心拍数も音も正常ですね」

「良かった……」


 アランとギルは安堵の息を漏らした。


「んっ……」


 そこへ意識のなかったレイから声が漏れる。


「レイ!」

「シリル!」


挿絵(By みてみん)


 二人が名前を呼ぶとレイの眉間にシワが寄った。


「レイ……大丈夫か?」


 アランの声に、レイはゆっくりと瞳を開けた。

 ぼんやりとした表情で天井を見つめている。


「シリル……具合はどう?」


 ゆっくりと声のする方へレイは首を傾けた。


「ギル……そうか……俺……。またギルに助けて貰ったね……ありがとう」


 ギルは大きく首を振り、小さく良かったと呟いた。

 レイは力なく笑うと、隣に立つアランに視線を向ける。


「状況を教えて……」


 アランが状況を伝えると、レイは瞳を閉じた。


「そっか……ハーネイス様は……俺のせいだね……」

「違う。レイは皆を守ったんだ。それに、悪魔と契約した時点でハーネイス様の魂は失われていただろう」


 レイは何も言わず、じっと何かを考えている様子だった。


「アラン……。親父さんを呼んでくれる?」

「親父を? 分かった、すぐに呼んでくる。ギルさんには客室を用意させていますので、そちらで休んでください」


 アランはそう告げて部屋を出ていった。





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