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第103話 戻る場所

 アランの後ろをギルは必死に追う。

 入り組んだ城内を走りながら、アトラス城へ向かう際に聞いたことを思い出していた――――。




「シリルは……シリルはいったい何者なの?」

「……黙っていてごめん。俺はエリー様の第二側近で、本当の名前はレイ。ハーネイス様の行動を探るために潜入捜査していた」

「第二側近……」


 その話を聞いて何もかもがしっくりきた。

 ギルはまた前を向き、今までのことを思い出す。


「ごめん……」


 何も言わなかったせいか、レイは謝罪の言葉をもう一度言った。隠されていた事実に、傷付いていないことを伝えなければ。


「ううん。そうであれば本当のことを話すことが出来ないことは当然だよ。気にしていないから」

「ありがとう……」


 レイは本当にほっとした声を漏らした。

 そのあと、二人の間には静寂が続く。


「俺のせいで……」

「え?」


 暫くすると、レイが独り言のように呟いた。


「……俺があの時、霧を晴らさなければ……ハーネイス様は悪魔に体を乗っ取られることはなかった。そのせいでエリー様の身を危険に晒してしまったんだ。更には多くの犠牲者が出てしまうかもしれない。俺は責任を持って、あの悪魔を止めなくちゃいけない」


 静かな言葉だったが、とても苦痛に満ちた言葉。

 レイは後悔し、自分を責めている。


「うん……」


 赦されたいわけじゃない。

 レイの言葉は強い決意だった。


 だからギルは何も言わなかった。


 レイには命を懸け守るべきものがあるのだ。

 そう、命をかけて……。


――――信頼のおける人の側に仕えるといい。


 レイにとってここがそうなんだろう。

 レイだけじゃない。

 誰もが主君のために前を見ていた。


 ギルは自分にとってファラン教会がそうなのかと考えてみる。

 神に仕えることは何も問題はない。

 ただ、教会存続のために自分を差し出したファラン教会には正直言うと戻りたくなかった。




 ◇


「走らせてすみません。この部屋です」


 アランが目的の部屋に入り、明かりを灯す。


「わぁ……」


 高い天井に先が見えない広い部屋。そこには沢山の本や書物がぎっしりと詰まっている。


 ギルはただただ圧倒され、辺りを見回していた。


 アランは迷わず目的の場所まで進み、数ある本の中から一冊の本を取り出した。


「こんな沢山あるのに、全部どこに何があるか覚えているんですか!? すごい……」


 ギルは感心して思わず声をかけると、アランの顔に朱の色が浮かぶ。


「いえ……大したことではありません」


 そっけない返事をし、ページをめくっていく。ギルは、待っている間ただ側でじっと見ていた。


「あった。ギルさん、ここです」


 アランが机に本を広げて見せた。そこには過去に魔族バフォールと戦った時のことが書き記されていた。


「今から約200年ちょい前だな。そんなに昔ではないようだ」


 アランが文字を指で辿りながら読み進める。びっしり書かれた文字。それを素早く読んでいくアランにギルは感心した。


「……なんだこれは」

「何かあったのですか?」

「封印するための道具が必要らしいのですが……こんなものは見たことがありません。ちょっと待ってください…………何か代替できるものはあるのか…………まずいな……こんな素材は知らない……」


 ギルは何の道具が必要なのかと覗き込むと、それは小さな箱と指輪の絵が描かれていた。


 どこかで……。


「あっ!」


 ギルは声を上げ、自分のポケットを探った。

 アランは眉間にシワを寄せてその様子を見つめる。


「アラン様、もしかしてこれと同じでしょうか……?」


 ポケットから絵と同じようなものを机の上に置く。アランはそれを凝視した。


「……どこでこれを?」


挿絵(By みてみん)


「はい。こちらは、ハーネイス様が悪魔と契約を交わした場所に落ちていました。見たことがない材質でしたので、後で調べようとポケットに……」

「ギルさん! これで封印出来るかもしれません!」


 アランは瞳を輝かせた。


「よ、良かったです。では、私はどのようにすれば……」

「そうですね。全部読んでから説明します」


 それほど時間はかからず、アランは一通り読み終えた。

 アランの説明は分かりやすかったが、ギルは自信が全く持てなかった。


「一人で洗礼魔法ですか……」


 洗礼魔法は聖職者が神からの洗礼を受け、魔方陣によって使える魔法である。魔力を持たない者でも使える。しかし、使用する場合は多くの聖職者が魔方陣を囲うことで使用できる高度なものだった。

 それはギルが使える補助魔法とは別で、死者など人に在らざるものを浄化するものである。


 魔方陣を描く練習もしたが、まだ実施はしたことがなかった。

 また多くの聖職者と一緒に使ったことがあるだけである。


「大丈夫です。私も一緒に魔方陣や呪文を覚えるのを手伝いますので」

「は、はい。そうですね、やるしか道はありませんもんね」


 ギルは自分に言い聞かせるように、胸に手を当てて呼吸を整えた。

 時間はない。


 必死に魔方陣の描き方と呪文を反復した。

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