表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/234

第101話 母と子

「強欲な女は身を滅ぼす……」


 ビルボートの問いである"面白い事実"について、バフォールは語りだした。

 そこにいた全員は、身構えながらも耳を傾ける。


「レナ……あの女がいた場所……私が王妃になるはずだった……。憎い……憎い憎い憎い……。せめて……我が血を分け合った息子が王になれば、私は報われよう」


 その言葉は、バフォールではなくハーネイスの言葉だった。


「私は、レナと夫を……殺した」

「なっ、何故そのような!」


 ビルボートの問いに、ハーネイスは失笑する。


「分からぬのか? 邪魔だからだ。エリーも同じだ。サイラスが王になるために不要なものを排除せねばならない」

「そんな身勝手な! それに悪魔など利用してただで済むとお思いか!」


 ハーネイスは暫く口を開かなかった。


「サイラスのため……?」


 何かを考えるように眉間にシワを寄せる。

 重い沈黙。


「いや違うな……。何もかも上手くいかぬのなら、全てを壊しても良い。死んだあとのことなどどうでも良いと……そう……」




――――シトラルが傷付けばそれで良い。




 まるでハーネイスの燃えたぎる魂を見ているようで、その場にいた全員の背中がぞくりと震えた。


「くっくっくっ。それがこの女の本心だ。人間は悪魔より残酷だな。お前達はそうとは知らずにこの女にひれ伏してきた。悔しかろう。無能な自分達を責め、嘆くべきだな」


 バフォールはビルボートを見据えていたが、ふと視線を外す。


「……ああ、一人。強くこちらに憎しみを向けている者がいるな」


 それに気がついたアランは、バフォールの視線を辿る。その先には手を震わす一人の男が立っていた。


「母に似た者が城を荒らしていると聞いて来てみれば……やはり……母が……父を!!」

「サ、サイラス様!? 危険ですっ!! ここはお下がり下さい!!」


 アランの制止を聞かず、サイラスは腰につけていた剣を抜く。

 金属がこすれる音が重く響いた。


「何故! 父に手をかける必要があったのか! 何故! 悪魔になど願いを託すのか!」


挿絵(By みてみん)


 サイラスは力強く地を踏み、元母親であるバフォールに剣を向ける。

 打ち込んだ剣はバフォールの剣とぶつかりキンっという音を鳴らした。

 軽々と受けた剣はサイラスを押し、はね除ける。


「世界に未来がなければそれでいい。だ、そうだ。……くっくっくっ。お前のことなど何一つ考えていないようだな」

「黙れ!! そのようなことは分かっている!!」


 サイラスはずっと母親を見てきた。

 だからこそ、母親の心が自分に向いていないことは知っていた。


 愛などは求めていない。

 自分が信じていたのは父親だけだ。


 なのに、その言葉に激しく心を揺さぶられた。


「いいぞ、憎しみと悲しみが混じり合っている」

「悲しみなどっ! くそっ!」


 父親の死に疑問を抱いていたサイラスは、初めから母親を疑っていた。しかし、真実を知った今、何故か心がずっしりと重くなっていた。


 期待などしていない!

 こんな女は切られて当然なのだ!!


「父の仇は俺が!!」

「サイラス様、お下がりください! ここは我々が!」

「手を出すな! これは、私がやらねばならない!!」

「しかしっ!」


 サイラスはビルボートの言葉を無視し、剣を振るう。

 バフォールは受けるだけではなく、少しずつサイラスに傷を負わせた。


 打ち合う剣に火花が散り、サイラスの血が舞う。

 手、足、顔、体……。

 じわじわとなぶられ、視界に滲みが生まれる。


 何度もビルボートの声が飛んでくるが、助けを拒否した。


「お前はひ弱で使えない。父親も母親も救えない小さな人間。自分の弱さに絶望するがいい」


 そうだ。

 結局何も成し遂げられなかった。

 母を止めることも出来ない。


 黒い瞳の母親の姿をした悪魔。

 バフォールの剣は心までもいたぶった。


「くっくっくっ。私の可愛いサイラス。もう限界のようですね。貴方も父のようにこの手で殺してあげましょう」


 バフォールが剣を大きく振り、サイラス目掛けて魔法を放つ。


「サイラス様っ!」

「っ!!」


 その時だった。

 バフォールが放った赤黒い炎と後方から飛んできた青い稲妻がぶつかった。


 眩い光がビリビリと(ほとばし)り、サイラスはよろめき尻餅をついた。


「サイラス様、こちらへ!」


 サイラスが視線を上げると、そこには青緑色の瞳をした黒髪の青年がいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ