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第100話 悪魔との戦い

「一班は怪我人の回収! その他待機! アルは俺とハーネイス様の確保! 行くぞ!!」


 ビルボートの指示にてそれぞれが一斉に行動を開始する。


「おいおい、マジでハーネイス様なのかよ……」


 いち早く剣を振るったアルバートが見たものは、ハーネイスであってハーネイスではない。

 白であるはずの場所までもが闇に葬られた黒の瞳。


挿絵(By みてみん)


 視線が交わればぞっとするほど背中が凍る。


 バフォールが身をかわすと、薄気味悪いコウモリのような羽にアルバートの剣が掠った。

 剣が触れたとこから黒い霧のように散っていく。

 手ごたえは全くない。


 隙を与えずビルボートが空気を裂きながらバフォールの腕を狙う。

 あくまでも確保を優先した戦い。


 バフォールは鼻で笑うと、ひらりとドレスを翻し右手を一振り。

 ビリリと赤黒い閃光が解き放たれ、ビルボートを襲った。

 それをバッっと魔防具であるマントでビルボートが防ぐ。


 その隙にアルバートが第二の攻撃を仕掛ける。

 しかし、右へ左へと次々に繰り出す技も難なくひらりとかわされた。

 アルバートの動きは全く無駄がないはずであるのに斬るのは空ばかり。


「人間よ、どうした。手を抜いていい相手ではないと思うが?」

「くっそ! バフォールって何なんだよ! ハーネイス様じゃねえのかよ!!」


 魔力のないはずの人物が空を飛び、魔法を放つ。

 人間らしからぬ瞳はアルバートを混乱させた。


「アル! 集中しろ!」

「わぁーってるよ!!」


 構えを下段に落とし、間髪を容れず何度も左右に斬り入れる。

 間合いは一向に縮まらない。


 ビルボートもアルバートの動きに合わせ踏み込む。

 捻転しながら重心を乗せ、軌道を描き重い一突きを繰り出す。


 同時に行う二人の攻撃は激しく、普通であれば交わすのは困難だ。

 なのに、落ちてくる葉のごとくひらりとかわされる。


 こう何度も何度も簡単にかわされると焦りが出てくるものだ。


 確保なんて生ぬるいことを言っている場合ではない。

 二人の額に嫌な汗が流れる。


 見ている者たちもまた一抹の不安を覚えた。

 戦うは先鋭部隊の隊長と副隊長である。

 強さは誰もが認めるほどの腕前。

 その攻撃が全く当たらないのだから。


「退避!!」


 嫌な空気が流れ始めた頃、後ろからアランの大きな声が飛んできた。

 二人は後ろに飛びバフォールから距離を取る。

 そこにアランが魔法薬のビンを投げ込んだ。


 ボンっと爆発が起き、バフォールの体は一気に炎に包まれる。


「お、おい、アラン! 相手はハーネイス様だぞ!」

「相手の力量を見ての判断だ。問題ない! 被害を抑えることが先決!」


 アランが答えていると、赤々と燃える炎の中から笑い声が聞こえてきた。


「くっくっく。愚かな人間どもよ。私に魔法が効かないことを知らぬようだな」


 炎の中から無傷のままゆっくりとバフォールが出てくる。

 アランはその瞳を見て驚いた。


「ま、まさか……悪魔に……!?」

「悪魔? 悪魔って……そんなもん」

「ほう、私が誰だか分かる者もいるのか……。では、お前は分かった上でどう私を倒す?」


 驚いている三人をよそに、バフォールはニヤニヤと笑みを浮かべている。

 アランは文献でその存在を知っていた。しかし、封印されたと書かれていたはず。


「ビルボート、対ゴースト用武器装備の指示を! また、サンチェイル教会から聖職者の要請を!」


 アランが伝えるとビルボートは後ろに下がり、待機していた騎士達に指示を下す。


「なるほど。悪くない。ただ、準備している時間はないだろう。お前たちに私を足止めするほどの力はない」


 バフォールが右手を突き出し、アランに向けて魔法を放った。

 先ほどと同じく(ほとばし)る赤黒い光。

 マントを身に付けていないアランの前にアルバートが素早く移動しそれを回避する。


 アランはアルバートの背後から躍り出て、踏み込んだ勢いでバフォールに斬りかかる。

 バフォールは暗黒の炎で剣を作り出し、その剣でそれを止めた。


「魔法の抵抗力がないお前にはぴったりの武器だろう。もっと恐怖と絶望が味わえるように力の差を見せてやろう」


 余裕な態度のバフォールにアランは舌を打つ。


「ハーネイス様の願いは!」

「エリー様の排除だそうだ!」


 アランの問にアルバートが叫ぶ。


「なるほど、やはり遠慮は無用だな」


 二人は会話をしながら次々と金属音を響かせた。

 怒涛の如く剣を打ちつけ、隙を与えない。

 バフォールがアランの剣を受けた先で、横からアルバートが線を描くように斬りつける。


「悪魔だかなんだか知らねーが、さっさとハーネイス様から出ていきやがれ!!」


 戻ってきたビルボートも両腕に力を込め、上段から振り下ろした。

 空気が震える。

 騎士たちが見守る中、三人の猛攻撃が繰り広げられた。


 それでもバフォールが言うとおり、時間を稼げないかもしれない。

 能力の差がありすぎる。


 なんとかしなければ……。

 思考をめぐらせたビルボートが先ほどの会話を思い出した。


「面白い事実! 先程お前はそう言った。それは何だ!」

「くっくっくっ。時間稼ぎというわけか。そうだな……お前たちのこの女に対する憎しみが増えそうだ」


 バフォールは一振り剣を横に振り、魔法で三人を吹き飛ばし距離を取った。


「ぐっ……!」


 簡単に地に手を付かされ、相手が勝負の行方を握っていることがよく分かる。


「はははははは。感じるぞ。誰かが絶望を感じている。そうだ、もっと絶望するがいい」


 バフォールは負の感情を感じ、恍惚とした笑みを浮かべた。


「恐怖や絶望を抱いてはダメだ! あいつの思うつぼだぞ!!」


 ビルボートは皆を励ますよう叫ぶものの、自分の構える剣先が震えている。

 自分の感情をコントロールするのは難しい。

 対峙しているからこそ分かる恐怖が勝手に襲ってくる。


 それはアランやアルバートも同じだった。


「さて人間……教えてあげよう」


 それを見透かすかのように、目の前の敵は余裕の笑みを浮かべていた。

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