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第010話 お披露目

 エリー王女の部屋では、時間をかけ、マーサや侍女たちの手によって着々とパーティーの準備が進められた。


 薄桃色のチューブトップには白の花の刺繍が施され、スカートは幾重にも重ねられた花のように広がっている。髪をゆるくまとめ上げ、美しい生花をあしらう。初めてのお披露目に相応しく、エリー王女を愛らしく引き立てた装いだ。


 準備も整った頃に、コンコンとドアを叩く音が聞こえる。マーサがドアを開けると、そこには側近用の衣装に着替えたアランが立っていた。


「エリー様、お時間となりました」


 アランが部屋の外からエリー王女に声をかけると、扉の横にいたマーサがエリー王女に対し笑みを浮かべ頷く。エリー王女は大きく息を吸い込み、マーサに笑みを返した。


 エリー王女は部屋の外に出ると、レイの姿を探した。どこにもいない……。もしかして薬の副作用で倒れたのだろうか。エリー王女は前で重ねた手をぎゅっと握りしめた。


「エリー様。レイは先に行って不審な人物がいないかなどの確認を行っております。パーティー中は私が補佐として付きますが、レイは引き続き遠くからエリー様の身の安全をお守りいたします」


 不安な表情をしていたエリー王女を見たアランは、レイを探しているのだろうと思いそう伝えた。その認識で合っていたらしく、エリー王女はほっと息を吐いた。


「……分かりました」


 念のため、レイの体の調子はどうかとアランに訊ねようと思ったが、自分の口から出た言葉はそれだけだった。いくら男性が苦手だとしても、思ったことも聞けない自分にエリー王女は嫌気がさした。


 何も聞けないまま沈んだ気持ちでアランの後に付いていくと、大きな扉の前に立たされた。その扉の圧迫感に思わずたじろぎ、乾いた喉を小さく鳴らす。自分の置かれている状況を思い出し、一気に体が震えた。


「扉が開きましたら先にお進みください。私は後ろから付いてまいります。まっすぐ進むと陛下がおりますので――――」


 心臓の音の方が大きくて、アランの声が遠くに聞こえる。アランの説明に返事をしたこともあまりよく覚えていない。しかし気持ちが落ち着く暇もなく、アランがエリー王女の後ろに立つと扉がゆっくりと開かれた。


 眩しいくらいの光と拍手の音が鳴り響く。頭がクラクラしてきたが何とか意識を保ち、ゆっくりと前へ進み出た。ホール中央の赤い絨毯の上を歩いていき、階下で止まる。階段上で父であるシトラル国王は優しく笑みを浮かべていた。


 エリー王女が(うやうや)しく一礼をすると、シトラル国王が階段を降りエリー王女の手を取る。


「大丈夫、落ち着いて」


 シトラル国王は小さく声をかけた。それでもエリー王女の緊張の糸は解けなかった。まっすぐ前を向き、父と共に一段一段階段を踏みしめて上っていく。こんなに歩きにくい階段は初めてだった。


 なんとか王座の前に立ち、振り返ると拍手がより大きくなった。程なくシトラル国王が手を上げて拍手を止め、エリー王女に挨拶するよう促す。しかし、エリー王女は頭が真っ白で何も言葉が出てこない。来賓全員が自分に注目していると思うと足がすくんだ。


 エリー王女が視線を泳がせていると、会場脇で大きく手を振っている人物が目に飛び込んできた。


――――レイ。


 目が合うとレイは優しく笑って『がんばれ』と口を動かした。その笑顔は女の子だったレイと同じで、それを見た瞬間エリー王女の緊張が不思議とすっと解けた。エリー王女もレイに笑みを返し、ゆっくりと息を吐く。


「本日は、私のためにお集まりいただきありがとうございます。このような――――」


 背筋を伸ばし、王女らしく自信をもって挨拶を行うと、また盛大な拍手が送られた。無事に終えることができ、心の中で胸をなでおろす。直ぐ様レイを見ると嬉しそうに笑っており、エリー王女の胸がとくんと鳴った。


挿絵(By みてみん)




 一人一人挨拶を行うため階下に降りると、美しく妖艶な女性が近づいてきた。耳元でアランがどこの誰なのかを素早く伝える。


「ハーネイス様。ご無沙汰しております。この度は、私のために足を運んでくださいましてありがとうございます」


 ハーネイスと呼ばれた人物は、エリー王女の叔母である。幼少時代に母と一緒に会ったきりだったが、この力強い美しさは覚えがあった。


「お誕生日おめでとうございます。エリー様はレナ様に似てとても美しくなられましたね。今度、私のお屋敷にも遊びにいらしてください」

「はい、ありがとうございます。是非、お伺いいたします」


 体のラインが分かるような紫色のドレスを着こみ、胸元は豊満な谷間が覗いている。年齢を感じさせないほど魅惑的な体と容姿で、それはハーネイスにとても似合っていた。


「サイラス様もご無沙汰しております。いつか庭園で遊んで頂いたことを昨日のことのように覚えております」


 ハーネイスの隣にいるサイラスは、ハーネイスの一人息子。彼の父親はシトラル国王の弟であり、サイラスを国王にしようという声もでていた。


 しかし二人はエリー王女に好意的な態度で接し、この日を喜んでいるように見えた。エリー王女もまた、久し振りに会う二人に、花開くような笑顔で応える。


「何か困ったことがあればいつでも相談に来てくださいね」


 ハーネイスは笑顔でそう告げ、二人は立ち去った。その後は、各来賓一人一人がエリー王女の元に挨拶に来るのでその対応に追われた。公務での会話は、相手が男性であっても普通に話すことができ、エリー王女はほっと胸をなでおろした。


 アランはエリー王女の後ろでどの国のどの地位で名前は何かなどを耳元で教え補佐をする。このように難なく話せるのはアランのお陰であると感謝した。またそれ故にエリー王女は自分の未熟さを思い知ったのである。




挿絵(By みてみん)

ハーネイス


挿絵(By みてみん)

サイラス

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